第14話 第三王子の駆け落ち
「フラン、出発するぞ」
馬に乗り、二人並んで歩を進めます。
王弟殿下が、侯爵家の条件をのむことを決め、隣国へ向かいます。
条件とは、侯爵家が第三王子の後ろ盾になる事と引き換えに、王弟殿下が隣国に出向いて男爵家令嬢の素性を調べることです。
しかも、なぜか私も同行するよう、条件が追加されました。
第三王子は、未成年なのにお酒を口にしたことで、窮地に陥っています。
これも、侯爵家の仕業だと思いますが、重要参考人であるメイドを、隠されてしまいました。
王弟殿下は、第三王子の監視があるからと、一度は条件を断りましたが、留守中は侯爵家が責任を持つとの条件を出され、断る理由が無くなりました。
侯爵よりも王弟殿下の方が、爵位は上ですが、三人の王子の将来、政治的な影響力を考えると、申し入れを無下にできません。
「旅人用のマントを着こなすとは、さすが冒険者だな」
本来であれば、貴族用の馬車に乗るのでしょうが、お忍びの旅なので、レンタルした旅人用の馬に乗って進みます。
国境の街で1泊しただけで、隣国の王都に着きました。ホテルのシングルを2部屋予約していたので、ハプニングは起きませんでした。
◇
事前に男爵家へ先ぶれしておりましたが、男爵家から案内され、着いた屋敷は、なぜか侯爵家です。
やはり、男爵家は隠れミノでしたか。予想よりも大物が出てきました。
◇
「一人娘が産まれた後、私は高熱を出して、子供ができにくい体になった」
隣国の侯爵が、自ら説明してくれます。
「広く知見を得てもらうため、隣国へ、しかも職位を落として、留学させた次第だ」
表情や体の動きにウソは見えません。
「第三王子様の婚約者候補に挙げて頂けるのは、光栄なことだと思う」
作られた笑顔です。この笑顔は、まさか魅了されているのでしょうか?
「跡取りは、冒険者“踊り子”を雇い入れ、子供を授かる予定なので、もう心配はなくなった」
冒険者“踊り子”と侯爵が言いました。これは、予想どおり、ビンゴです。
子供を授かる術も、踊り子の秘術です。
子供を授かった経験のある夫婦なら、三か月後には、結果が出るでしょう。
一年後に産まれてくる赤子が、男か女かで、状況が変わりますが、あの男爵家令嬢の動きには注意が必要です。
これからの一年、私のメイド生活が平和でありますようにと、神に祈ります。
◇
「収穫量としては、少なかったかな」
帰り道の馬上で、王弟殿下が話しかけてきました。
「留学生に魅了を教えたのは、冒険者“踊り子”だと確定できました。もし、私が知っている“踊り子”なら、かなり手ごわいです」
「あの屋敷ヘは忍び込めそうか?」
「セキュリティーは古いタイプでしたので、簡単です」
「何か動きがあれば、フランの力を借りるかもしれん」
分かれ道の手前で、急ぐ馬車とすれ違い、私たちが乗る馬が少し騒ぎました。
「危ないなぁ」
私たちも、けっこうな速度で馬を走らせています。
あの馬車、あっちの方向から来たということは、まさか、国境の抜け道を使って来たのか?
それ以外は問題なく進みましたが、国境を越えたら、なぜか、王国の騎馬隊がいました。
「どうした、こんな場所で」
王弟殿下が話しかけます。
「王弟殿下! なぜここに」
騎馬隊は驚いています。
「実は、第三王子様が駆け落ちしました」
騎馬隊長は、真顔です。
「「え!」」
王弟殿下と私がハモります。
「詳しく教えろ!」
「侯爵家令嬢様が第三王子様に、夜になったら自分の屋敷に忍んで来るようにと、誘惑したようなのですが」
「そこまでは、想定の内だが、なぜ駆け落ちして、隣国へ逃げ込むんだ?」
「それが、第三王子様は男爵家令嬢……隣国からの留学生らしいですが、その令嬢の所に行ってしまい、駆け落ちしました。男爵一家も一緒です」
「クソ! どこまでが計画で、どこからがアクシデントなんだ、黒幕はどっちなんだ」
隣国へ戻ろうにも、新たな手続きが必要ですし、許可は下りないでしょう。
私たち二人は、騎馬隊と馬を交換し、大急ぎで王都に戻ることにしました。
「王族の血筋と知識が盗まれた……」
「あの男爵家令嬢と結婚するのでしょうか?」
「いや、たぶんだが……第三王子は、記憶を盗み取られ、消される」
「記憶の盗み取りは、禁断の魔法!」
対象の記憶を盗み取り、他の人に移す魔法で、移された人が二重人格のようになる事、盗み取られた対象が記憶を失う事から、魔法の存在は隠され、使用を禁止されています。
私でさえ、カギのかかった王族専用の書庫で、カギのかかった本で、偶然に、知っただけです。
◇
第三王子は、第二王子を侮辱した罪で、追放されたと、公式発表されました。
捏造された罪ですが、実際に、第二王子が隣国へ婿に行く計画を、見直す動きが出ているそうです。
「すまないな、フラン」
王弟殿下の執務室で、引っ越しの荷造り中です。
隣国から王国に戻ると、非公式に、王弟殿下と侯爵に、第三王子の監視を怠った罪で、罰金刑が用意されていました。
チョビヒゲ侯爵自身が、落し所を作ったようです。
高額な罰金ですが、侯爵家が払えない金額ではありません。
でも、王弟殿下は、金欠で払えないので、離宮へ軟禁されることになりました。
公式には、王弟殿下は、病気療養のため、王宮で寝込んでいると発表されています。
「私は、王弟殿下のメイドという職を失うのですか?」
先日、平和なメイド生活を神に祈ったばかりなのに、自分の今後が心配です。
「表向きはそうだが、フランには、王立魔法学園へ通ってもらう」
「え?」
第一王子が高等部三年生に進級する機会に乗じ、同級生となって、陰に潜んで手助けしろと、王弟殿下から特命がありました。
今日から私は、王弟殿下の非公式なメイドとして雇われるようです。
職を失わなかったので、ちょっとうれしいですが、私のお給料は、どうなるのでしょう?
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