第13話 第三王子がワナに落ちる



「お酒は、上手いのか?」


 学園から帰ってきた第三王子を、私室に送る廊下で、王子からたずねられました。



「私は未成年ですので、お酒を口にしたことがありません、王弟殿下に、たずねておきましょうか」


「いや、それほどの事ではない」

 第三王子は、なんだかボーッとしています。


「第三王子様は、私よりも未成年ですので、お酒を口にしてはなりません」


 念のため、クギを刺しておきます。



「僕は、子供ではない!」


 何かが気に障ったようで、かんしゃくを起こしました。


「大人であろうと、子供だろうと、法は守らなくてはいけません」


 ここは、引けません。


「お酒を飲めれば、大人の仲間入りだ」


 これは、侯爵家令嬢から子供だと言われたことが、尾を引いていますね。


「それこそが、子供の考えです」


 心を鬼にして、人の道から外れかけているガキを止めました。


    ◇


 しかし、翌朝、第三王子のメイド長が、王弟殿下の執務室に飛び込んできました。


「緊急に相談したいことがあります」

「第三王子様の寝室に、お酒を飲んだ跡があります」


 王弟殿下のお茶を飲む手が、止まりました。


「夜勤のメイドから、話をきいたところ、朝までお酒を飲み明かしたそうです」


 これは、スキャンダルになります。既に、メイドたちから、ウワサが広がっているかもしれません。もみ消すのが難しそうです。



「第三王子を、仮処分として謹慎とする。部屋から出すな」


「さらに、この事は口外するな。メイドなどの関係者を口止めしろ」


 緊急事態です。王弟殿下の顔は緊張しています。



 王弟殿下は、すぐに、この件を、国王陛下へ報告しました。今は、自分の執務室です。


 まだお酒臭い第三王子は、具合が悪いと寝込んでいます。


 メイド長が信頼できるメイドを選び、監視役としてつけました。



「夜勤のメイドの保証人は誰だった?」


「配下の男爵様を、隠れミノにしていますが、実質は侯爵様です」


「侯爵家の推薦状で採用されたメイドか。刺客の可能性があるな」


「お酒は甘口ワインでした。毒見してもらいましたが、毒は入っていないとの判定です。鑑定でも異常はありません」


「メイドの所持品検査では、王族を傷つけるような物は、何も出ていません」


「ナイフ、フォークなど食器の紛失もありません」


 手早く報告します。



「メイドが元冒険者である可能性は?」


「ありません。可能性があるとすれば、冒険者“踊り子”ですが、第三王子様を魅了で骨抜きにして、操った方が効率良いですから」


「骨抜きか……そっちの線で調査を進める」


「承知しました」



 第三王子のメイド長が、王弟殿下の執務室に飛び込んできました


「申し訳ありません。あのメイドが消えました」


 こちらの対応が、後手後手に回っています。これは、負けパターンです。


    ◇


「侯爵家に忍び込んでいる協力者から連絡があった。あのメイドと思われる令嬢が、侯爵の愛人となった」


 王弟殿下が、悔しがっています。


 偽装工作ですね。愛人とメイドが、同一人物だと証拠を示さないと、こちらの引き渡し要求に、応じないつもりなのでしょう。


    ◇


 私は、冒険者の目で真偽を確かめるため、第三王子の私室に向かいます。


「おやめください!」


 部屋の中からメイドの悲鳴が聞こえます。


「なにをしているのですか!」


 第三王子が、壁際に逃げたメイドに、抱きついていました。


 獣を、魔法で金縛りして、ベッドに放り投げます。



「護衛兵と持ち場を替えてもらいます」

 まずは、メイドを落ち着かせます。


 廊下にいる護衛兵を部屋の中に入れ、メイドにはメイド長の所へ行くよう指示します。



「僕は、今日から大人だ」


 第三王子は、ベッドの上で枕を抱きかかえ、男として自信に満ちていると勘違いして、獣のようにはしゃいでいます。


「大人ではない、犯罪者だ」

 獣をにらみつけます。


 コイツは、骨抜きにされてるのか?


 でも、おかしいです、冒険者“踊り子”ならば、もっと悪賢いですから。


「いくらイケメンでも、中身が伴わないと、男として幻滅ですね」


 恋が消える瞬間って、たぶん、こんな感じなのでしょう。



 話を聞いたメイド長が、第三王子の私室に来たので、対応を話し合います。


 今後は、護衛兵が部屋の中で、交代のメイドは廊下に用意した椅子で待機することにしました。


    ◇


 王弟殿下の執務室に戻り、事態を報告します。


「わかった」と言って、目を閉じ、考え込んでいます。


 彼が考え込むほどの、困った事態です。



 既に、どこからか第三王子の醜聞が広まっており、お茶会で婚約者を絞り込む作戦は、白紙に戻りました。


 今後、どうするか……


「あれ? 王弟殿下、寝ないでください!」


 よく見ると、彼は、腕組みをして考え込みながら、寝ていました。


「すまん、昨夜、あの侯爵から誘われて、飲み過ぎた……やられた、俺を足止めするワナだったのだろう」


「寝室に戻ってからも、一人で飲んでいたようですね、困った王弟殿下です」



「お酒は、美味しいものなのですか?」


「美味しく楽しい酒もあるが、俺のは、苦く寂しい独り酒だ」


 彼は、部屋で一人ボッチでしたか……私が大人になった時、横でお酒を口にしているのは、誰なんでしょうか。



「王弟殿下は、恋が冷めたこと、ありますか?」


「大人の恋をしたことがない俺に、きくな」


「失礼しました、私たちは、恋の経験が無い仲間でしたね」


 なぜか、王弟殿下は、腕組みをして考え込んでいます。


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