第12話(閑話休題)学園の制服
「今朝のお茶は、わずかにオレンジとレモンの香りが混じってるな」
王弟殿下の執務室で、彼はいつもどおり、私のいれたお茶の香りを楽しんでいます。
「今朝の茶葉は、レディ・グレイですよ」
これは爽やかな香りの茶葉に、果実の皮を少し入れて、華やかで上品な味わいに仕上げた一級品です。
楽しいティー タイムを、さらに特別なひとときにしたいときに使っています。
「フランは、女性なのに、いつも同じ服だな」
王弟殿下が衣服に興味を持つなんて、意外です。
「え? これは王宮から支給された制服で、一般的なメイドは、全てこの服装ですよ」
メイド服は、黒のワンピースを基調に、フリルの付いた白いロングエプロンを重ね、メイドキャップを被ります。
「王弟殿下は、私を、他のメイドさんと、どうやって見分けているのですか?」
「その銀髪と、青緑の瞳、子猫のような可愛い顔立ちから、フランだと判断している」
これは、喜んでもいいのでしょうか?
「まぁ、俺の周りにいる令嬢は、フランだけだ」
あ~、ぬか喜びだったようです。
「今日、第一王子のところに、仕立て屋が来るから、一緒に服を作ってもらえ」
「え! ありがとうございます」
ドレスというものを、一度来てみたかったです。
しかも、王弟殿下からのプレゼントだなんて、今日は特別な日になりました。
◇
「王弟陛下、これは、どういうことでしょうか?」
王弟陛下の案内で、第一王子の私室に入りました。
王弟殿下の私室よりも、広く、輝いています。第一王子は不在で……いや、問題は、そこではありません。
「これは、学園の制服ですよね?」
見本として用意されていたのは学園服です。
砂色のエンビ服であり、肩の部分を黒で引き締め、金ボタンを配置したデザインです。
中の黒のシャツの襟は短く立てたスタンドカラーで、黒のパンツを合わせ、砂色のロングブーツを履きます。
「そうだ、第一王子の制服には、さらに、金糸で刺しゅうが施される」
当たり前だという顔で言いますが、これはドレスじゃないです!
「採寸をしますので、男性は外に出て下さい」
王弟殿下は、名残惜しそうに部屋を出ていきます。
でも、この声は?
「久しぶりね、フラン」
女性にしては低い声、見事な筋肉美、そして妖艶なお化粧……
「久しぶり! 三週間ぶりね」
彼女は、いや彼は、冒険者学園の同級生です。
男性なのに、冒険者“踊り子”を専攻した、良く言えば貴重な人材です。
「フランは、少し太ったわね」
「え~やだ」
「大人の体になってきたのよ」
「そうだ、教えてもらいたいことがあったの。魅了の技を、誰かに教えた?」
「いいえ、私は、お化粧を教えているだけよ」
「でも、私と同級の冒険者“踊り子”の彼女は、隣国に渡って、魅了の技を高値で教えているようね」
「そうですか……」
「あ、私にお化粧を教えていただけませんか」
「フランにも、好きな男性が出来たのね、いいわよ」
「それから、魅了で男性をとりこにしても、それは愛じゃないからね」
「うん、わかってる」
◇
「王弟殿下から、ドレスを贈って頂けるのだと思っていました」
王弟殿下の執務室で、彼は、私がいれたお茶を口に運んでいます。少しすねてみました。
「フランは、何を着ても似合うと思うぞ」
「学園の制服なんて、着る機会なんかありません」
「本来なら高等部三年生だろ、そのうち、使う時が来るさ」
「私は、既に高等部の単位は全て取得していますし、飛び級だってしているんですよ」
「え? フランの履歴書は、誰が書いたんだ?」
「あれは、私が大体で書きました」
「大体で?」
「はい、幼い頃に両親と離れて、一人で暮らしてきたので、記録が無いのです」
「生年月日も大体なのか……」
「苦労してきたのは分かったが、制服の支払いくらいの貯金はあるのだろ?」
「え? 王弟殿下のプレゼントですよね?」
「いや、あの……」
「プレゼントですよね!」
「う、うん、そうだ」
「ありがとうございます。初めて男性からプレゼントを頂きました、大事にしますね」
……彼が初めてプレゼントしてくれたから、今日は私の、恋愛記念日……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます