第11話 侯爵家の作戦発動



「侯爵家は、第三王子様の後ろ盾になる方向で検討しています」


 侯爵家令嬢が、第三王子に言い、少し離れて監視している私たちを、チラッと見ました。


 本日は、第三王子と侯爵家令嬢との相性を確かめるため、王宮の中庭のガゼボで二人きりのお茶会です。



「でも、王弟殿下が、ある条件をのんでくれることが条件なんです」


 条件とは、侯爵家では、れいの男爵家令嬢を邪魔者として認識しているようで、王弟殿下に、隣国へ行って、正体を確かめて来るようにとの要求です。


「大丈夫、王弟殿下は条件をのんでくれるよ。僕からも頼んでおくから」


 無責任な第三王子です。


 王弟殿下が隣国に向かっている間、誰が貴方の世話をするのですか?


 貴方が起こした数々のトラブルを、陰で解決しているのは王弟殿下ですよ。貴方の身の安全を確保しているのも、王弟殿下なのですよ。


 第三王子は、イケメンなのですが、どうも先を読む力に欠けます。中等部としては、優秀なのですが、王族としては、甘ちゃんです。



「頼もしいですわ。その他の準備は、もう整いましたので、その日が待ち遠しいですわ」


 侯爵家令嬢が、また、こちらをチラッと見ました。


 その他の準備とは、後ろ盾になる準備だと思いますが、少し嫌な予感もします。



「そう言えば、男爵家令嬢が、婚約の話を白紙に戻したそうですね。ご存じでしたか?」


 さすがですね、侯爵家の情報網は、侮れません。


 第三王子が、男爵家令嬢の婚約白紙化に、関係していることも、知っているのかもしれません。


「いや、初めて聞いた」


 ウソです。男爵家令嬢から王弟殿下に報告があり、第三王子にも伝えてあります。



「ウワサでは、第三王子様が、婚約を白紙に戻すよう、男爵家令嬢へ申し入れたと、そう広まっていますわ」


 侯爵家令嬢が、ゆさぶりをかけてきました。


「根も葉もないことだ」

 第三王子が、少しうつむきました。


 そこで少しうつむいたら、ウソだとバレますって。


「そうですよね、男爵家の身分では正妃になれませんから。愛人程度が、精一杯ですわ」


 侯爵家令嬢が釘を刺しました。


 この手腕ならば、最高の婚約者になること間違いなしです。


 第三王子を尻に敷くことも、間違いなしです。



「愛人の役目は、学園で習いましたので、第三王子様が愛人を作りたいのなら、私は許しますよ」


「そうか、ありがとう」

 あ~、第三王子、その答えはダメです。


「……愛人は、何名を考えているのですか?」

 やはり、侯爵家令嬢が、静かに怒り出しました。


 ここは、君だけを愛すると言うのが正解だったのに。


「今は、四名」

 なんてことを言うのですか!


「……予想よりも、多いですね……まぁ、いいわ」


 侯爵家令嬢が落ち着きを取り戻した、というか、何かのスイッチが入ったような雰囲気に変わりました。



「第三王子様は、お酒を口にしたことはありますか?」

 侯爵家令嬢が、上目遣いで、たずねてきました。


「僕は未成年だから、お酒は口にできない」


 良かった。まともな答えです。


「そうですね、子供は子供らしくしなければいけませんよね」


 侯爵家令嬢が、第三王子の自尊心をくすぐりました。

 なんなんだ、この令嬢は?



「第三王子様、閉会の時間になりました」


 少し早いですが、第三王子が熱くならないうちに、私は、この会を終わらせます。


 冒険者のカンというか、何か危険な香りがしました。



「王弟殿下、父が、打ち合わせをしたいので、お酒に付き合って頂きたいと、そう申しておりました。良いお答えを、期待しております」


 侯爵家令嬢が、帰り際に、王弟殿下へ話しかけてきました。


「四日後、月曜の夜を開けておく。伝えてくれ」


「承知しました」

 二人の会話に、私は何か違和感を感じます。


「では」

 侯爵家令嬢が、私に微笑みました。


 冒険者のカンが、警報を鳴らしています。四日後に、何かが起きると、そう告げています。


    ◇


 王弟殿下の執務室に戻り、私は、いつもどおり、お茶をいれます。


 王弟殿下は、何か考え事をしています。


「フラン、俺に付いてきてくれるか?」

 え? これは、彼からのプロポーズですか。


「もしも、俺が隣国へ行くことになったら、一緒に、フランも付いてきてくれ」


 え? 紛らわしいこと言わないでください。



「もちろん、ついていきます。王弟殿下の唯一無二のメイドですから」


 少しトゲのある言い方で、彼からの遠回しの指示に、応えました。


「二人きりの旅になるが、大丈夫か?」


 そっか、二人きりになるのですね。


「こ、こ、心の準備が……」

 男女が二人っきりになるなんて、スキャンダルです。



「乗馬は出来ないのか?」


「乗馬? も、もちろん得意です」

 心の準備とは、そういう意味ではなくで……


「では、途中の街で、ホテルを、シングル2部屋を確保してくれ」


「承知しました」

 別室でした。当然ですね。



「もしも、シングルの部屋が空いていなかった場合は、いかがいたしましょう」


「そ、それは困るな。スイートを予約してくれ、俺は、ソファーで寝るから」


 彼の顔が赤くなりました。やっと、事の重大さに気が付いたようです。


「承知しました」


 意地悪して、シングルが空いてないと、一晩くらいスイートを予約しようかな……


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