第07話 侯爵家令嬢の嫉妬



「第三王子様、あの男爵家令嬢と、ずいぶんと仲がよろしいのですね」


 本日は、第三王子と侯爵家令嬢との相性を確かめるため、王宮の中庭のガゼボで、二人きりにしているのですが、早速、令嬢がマウントを取ってきました。


 王弟殿下と私は、少し離れ、気配を消して、二人を監視しています。第三王子のケガは完全に治っていますので、問題は起きない予定でしたが。


「いや、彼女とは、同級生だから、王族として皆と良好な関係を築くというか、恋仲ではないから」


 第三王子が必死に弁解しています。



「見たのですよ、男爵家令嬢から、汗を拭いてもらっていましたよね」


 侯爵家令嬢の追及は、止まりません。


「あれは、彼女が勝手にやったことで、僕が頼んだわけではない、信じてくれ」


「ウソです、顔がニヤニヤと、にやけていましたわ」


 侯爵家令嬢の目が怖いです。

 でも、ここは令嬢のほうが正しいかも。


 中等部とはいえ、色気づいてきた第三王子は、令嬢にとって落とし易い対象のようです。



「本気じゃないから。大切なのは君だけだから」


 本気じゃないって、浮気? 遊び? これは墓穴を掘りました。


 第三王子は、だんだんと、泣きそうな顔になってきました。中等部の令息レベルですと、王弟殿下のような腹芸は、まだ出来ないようです。



「そして、伯爵家令嬢を見つめる目、いやらしいですわ」


 侯爵家令嬢には、まだカードがあるのですか、第三王子は学園で何をしているのですか!


「彼女も同級生の一人で、何もないんだ」


 あらら、伯爵家令嬢は第三王子の婚約者候補になる女性ですよ、そのことは、その侯爵家令嬢も知っているはずですよ。


 同級生の一人だなんて、ウソだって、すぐにバレます。



「人目の付かないところで、二人きりになっていましたよね」


「彼女から相談されていただけなんだ、誤解だ」


 第三王子、はしたない事はしないよう、王弟殿下から注意されていましたよね。


 伯爵家令嬢から、中等部として節度あるお付き合いに、とどめてほしいと、苦情が来ているのですよ。



「本気じゃないから、大切なのは君だけだから」

 第三王子は泣きそうな顔を、自分のハンカチで拭き始めました。


「このハンカチは、私が預かります」


 侯爵家令嬢が、第三王子のハンカチを取り上げました。


 あ、今、一瞬、ハンカチの匂いを嗅ぎましたよね?

 本当に中等部なのですか、これは、妖艶な美魔女の雰囲気が漂っていますよ。



「これを渡しておきますわ」

 令嬢が、新しいハンカチを差し出しました。


「第三王子様、今日からは、このハンカチを使ってくださいね」


 第三王子がハンカチを受け取りました。王族への贈り物は、事前にチェックするのがルールですが、この修羅場で出ていくことは、ちょっと出来ないです。


「ここから鑑定は出来るか?」

「はい」

 鑑定魔法は、冒険者“盗賊”の得意技の一つです。


「この刺しゅうは、貴女と同じ……」

 第三王子は、手渡されたハンカチに、金糸でバラが刺しゅうされていることに、気付きました。


 バラは、愛と美の象徴だったような気がします。意味ありげな刺しゅうです。



 侯爵家令嬢が自分のハンカチを取り出しました。


 渡したハンカチと同じ、金糸でバラが刺しゅうされていることを、第三王子に見せます。


「流行のペアルックですわ」


 侯爵家令嬢が、純真で恥ずかしそうな表情を、作っています。ツンデレか!


「ありがとう、一生の宝物にする。僕は貴女だけを愛するから」


 第三王子が、また、恋に落ちました。


 この数日で、三名の令嬢に、いやメイドを入れて四名に恋した彼です。


 侯爵家令嬢の、この見事な手腕は、冒険者“踊り子”の魅了テクニックと肩を並べます。


 最近の中等部は、こんなにも大人びているのでしょうか。おばさん、怖いです。


    ◇


「冒険者“盗賊”の技で鑑定した結果、毒や魅了の薬をしみこませたハンカチではありませんでした」


「金糸でバラが刺しゅうされたハンカチは、第一王子や第二王子も持っていたな」


 第三王子のお茶会が終わり、王弟殿下の執務室で、彼は私のいれたお茶を口にしながら、教えてくれました。



「そうか、あの侯爵家令嬢が、配っていたのか」

「ということは、王弟殿下も、侯爵家令嬢のハンカチを持っているのですか?」


 あの侯爵家令嬢なら、やりかねません。


「まさか、俺は、令嬢からのプレゼントは、もらわない主義だ」


「そうでしたか、贈った令嬢は数知れないが、贈ってくれる令嬢はいない、ということですね」


「そ、そんなわけないだろ」


 彼が、汗を拭こうと、胸ポケットから取り出したハンカチは、ヨレヨレでした。


「それは、いつ洗ったハンカチですか。そうでした、王弟殿下には、メイドがいないのでしたね」


 彼は、王位継承権第1位なのに、女好きとウワサされているので、メイドを募集しても、だれも応募して来ないのです。



 メイドは、私一人です。


「これは、私が、洗っておきますので」

 私は、彼のハンカチを取り上げます。


 一瞬、ハンカチの匂いを嗅ぎたくなりましたが、我慢します。


「このハンカチをお使い下さい」


 私の名前が刺しゅうされたハンカチを、彼に渡しました……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る