第04話 侯爵家令嬢



「本日は、第三王子の婚約者候補の本命、侯爵家令嬢が参加する日ですね」


 私は、隣に立つ王弟殿下に確認します。


 本日も、第三王子が、学園中等部の同級生たちを分けて、お茶会に招く日です。


 三日目であり、青空の、絶好のお茶会日和になっています。


 メイドたちは、王宮の中庭にテーブルとイスを並べ、会場を用意しています。


 設置具合を、王弟殿下と私が確認し、不具合があれば手直しを指示します。



 本日のお客様は、令息7名、令嬢1名です。バランスが悪いのですが、本命である侯爵家令嬢の指示です。


 ワガママな令嬢のようで、何か起きそうで、少し緊張します。


「侯爵家には、第三王子の後ろ盾になってほしい」

 王弟殿下も緊張しています。


「それを、メイドたちにも話しているのですか?」


「お前だけだ」

 私に『お前だけ』なんて、珍しい呼び方をしました。



「しかし、第三王子は、第一王子や第二王子に比べ、甘く見られている」


 王位継承権の順位が低いと、甘く見られます。


 第一王子は後継者、第二王子は隣国へ婿に、第三王子は第一王子の補佐と、王族は考えているようです。


「令息7名は、侯爵家令嬢の、いわゆる、ご友人なのですね。ずいぶんと力を持った、頼りになる侯爵のようですね」


「学園長だ」

「え? あのチョビヒゲ侯爵ですか……」


「こちらからは頭を下げたくない。向こうから頭を下げに来るよう、仕向ける」


 なるほど、王弟殿下の緊張感は、ここから来ているのですね。


    ◇


「あれがターゲット、本命の侯爵家令嬢ですか……」


 第三王子が席に着くのを、お客様全員が立って待っているのですが、全ての令息が、栗毛の令嬢を取り囲み、チヤホヤしています。


 学園でもモテているとは聞いていますが、たくさんの令息と上手く付き合う令嬢というより、逆ハーレムと言える状態です。


 たった一人の令嬢と、その取り巻きですね。


「良く言えば社交的だな……」


 ナンパ師とも言われる王弟殿下も驚くほどの、社交性です。


「一番条件が良い令息を選んでいるのだろう」


 王弟殿下は、侯爵家令嬢の気持ちがわかるようです。


「侯爵家令嬢は、第一王子や第二王子も狙っている」

「間違いが起きないことを願います」


 二人一緒に、ため息をつきます。



 第三王子が席に着くと、当然のように、侯爵家令嬢が横に座りました。


 令息たちは、こちらが決めていた席順ではない順で座っていきます。


 彼らには、彼らなりの序列があるようで、スムーズに座ります。これは、爵位の順ではなく、ハーレムにおける、気に入られている順番のようです。


 侯爵家令嬢は、会話の輪に第三王子を混ぜて、話術で魅了していきます。


「素晴らしいです。あの侯爵家令嬢は、冒険者“踊り子”の素質があります」


 冒険者の私は興奮してしまいます。


「王弟殿下、侯爵家令嬢が第三王子様に、内緒でメモを渡しました」


 これは冒険者“踊り子”が、男性を部屋に誘う、常とう手段です。


 第三王子は、メモをそっと読み、カップの陰に置きました。


 表情から、やはり侯爵家令嬢の部屋に誘われたようです。


「第三王子を、おとしめる計画だな」


 王弟殿下は、冷静に分析します。これまで、たくさん、だまされてきたのでしょうね。


 恋愛だとは微塵にも考えない、損な性格になっているようです。


「燃やせ」

 王弟殿下の指示です。


 王族が令嬢の部屋に入り、二人っきりになっただけで、スキャンダルとなって、失脚につながります。


「承知しました」


 カップの陰のメモを、周りに炎が見えないように、魔法で燃やします。私は、冒険者“魔法使い”の技も、習得しています。


 白い灰すら残っていません。侯爵家令嬢は、誰の仕業か確認しようと、あたりを見ています。


 知らないフリをしましたが、魔力の残りカスから、私の仕業だと、侯爵家令嬢は気が付いたようです。なかなか、やりますね。


 憎悪の目が、私に向いてきました。


「そろそろ閉会の時間です。皆さんは、これからも、第三王子を、友人として支えて頂きたく……」


 王弟殿下が閉会を宣言し、まずは友達からだと、たしなめました。



    ◇



「王弟殿下の王位継承権は、三人の王子様よりも高いのでは?」


 お客様を送り出した後、疑問だった点をたずねてみました。


「王太子が決まるまでは、1番目だ」


「では、モテるので、たくさんの相手と付き合っていますよね?」


 彼は、イケメンだし、ユーモアもあります。


「友人にはなれるが、婚約の話になることはない」


「聖女と結婚する話が、障害になっているのですか?」


 彼には、世紀末に現れる聖女と、結婚する義務があります。


 そのため、令嬢から見れば、結婚の将来性がゼロなのです。


 そして、いずれかの王子が、王太子として認められた場合、王位継承権を放棄し、隠居することになります。



「いや、どうも俺は女好きだとウワサになっているようだ」


 彼は、女好きを理由に、全て断られていました。浮気するような男は、願い下げですから。


「王弟殿下は、これまで、すべての令嬢にアプローチしてきてますよね?」


「俺は、令嬢を分け隔てはしない」


 分け隔てしないのは良い事ですが、ここで使う言葉ではないと思います。まぁいいです。


「その中で、この令嬢だとビビッときて、告白したことは無いのですか?」


「俺は『お前だけだ』と……言ったことはない……」

 なぜか、彼は天を仰ぎました。


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