第03話 男爵家令嬢



「令息様3名、令嬢様4名、到着いたしました」


 出迎え係のメイドが、お客様たちを連れて、王宮の中庭に設けられた会場に入ってきました。


 本日も、進級を前にした第三王子が、学園中等部の同級生たちを分け、お茶会に招く日です。


 会場は、テーブルとイスが並べられ、テーブルクロスをかけて、お客様を持っています。


 青空に、雲が少し出てきましたが、問題ありません。



 昨日から始まった、この一連のお茶会では、第三王子の婚約者を、数人に絞り込んで、その令嬢と第三王子との相性を推し量るという、秘密の作戦が進められています。


 しかし、今回のお茶会には、ターゲットがいませんので、少し気が楽です。


 さっきまでは、ですが……



 お客様の残りは、男爵家の令嬢一人という時に、なぜか、第三王子が予定時刻よりも早く来場し、懇談の輪に入りました。


 お客様が、まだ全員そろっていないのに、急に第三王子が来たものですから、お世話するメイドたちは、手順が変ったと、あわてて、仕事を早めます。


 そして、第三王子を担当するメイドである私に「なんで?」という視線を、向けてきました。


 私は、世話役の王弟殿下に視線を送りますが、王弟殿下は渋い顔をして、遠い景色を見ているばかりで、視線を合わせようとしません。


 これは、私に話していない何かに、気が付いていますね。


 仕方ありません、今回は、私がドロを被りましょう。

 メイドたちに、謝罪を込めて頭を下げます。



「そういえば、同級生の男爵家令嬢様は、見た目がとても可愛らしくて、うらやましいです」


 令嬢の一人が話題を出してきました。


 私は、今日の令嬢たちも、なかなか可愛いと思いますが。


「そうですね、あの可愛らしさがあれば、婚約の申し込みも多いのでしょうね」


 あれ? この令嬢たちの会話に、令息たちは明らかに動揺しました。


 そうか、ここにいる令息たちも、男爵家令嬢にアプローチしたのですね。


 令嬢たちも、それを知っていて、会話を楽しんでいるのでしょう。令嬢は、時には残酷になりますから。



 王弟殿下も、令嬢たちの意図に気が付き、薄目で令嬢たちを見ています。


 第三王子も動揺したのか、急に、目の前のケーキを自分で取って食べ、お茶を飲み干しました。


 メイドが、あわてて別のお茶を用意します。優雅さのカケラもない第三王子です。


「男爵家の令嬢様がいらっしゃいました」と、出迎え係のメイドが令嬢を案内して来ました。


 まぁまぁ可愛い令嬢ですが、第三王子は、がっかりしています。



「いま、貴女と同じ名前の男爵家令嬢様の話をしていましたのよ」


 令嬢たちが、にこやかに迎えてくれています。


「あら、あの男爵家令嬢様は、身分の差があるので、第三王子様のことは諦めたと言っていましたよ」


 来たばかりで、空気が分からない令嬢の一言で、第三王子の顔が引きつりました。


 令嬢たちは、やっぱりなという顔をして、第三王子の顔を伺っています。まだ中等部でも、令嬢は女性です。



「それで、あの男爵家令嬢様は、別の令息と婚約したの、知っていました?」


 最後に席に着いた令嬢が、ぶっこんできました。

 令嬢たちが、面白い話だと、食いついてきます。


 でも、令息たちの顔は、引きつっています。

 第三王子は、もう、顔面そう白です。


「第三王子様と同級生というステータスを活かして、良い所の令息を、口説き落としたようです」


 第三王子と令息たちの傷口に、トドメとばかりに、塩を塗る令嬢の一言です。



「第三王子様、甘いものを、少し食べ過ぎたようですね。今日は、これで退席いたしましましょう」


 私は、第三王子を立たせました。甘いものとは、ケーキのことではありません、甘い恋心のことです。



「第三王子様、大丈夫です。王弟殿下が、もっと素晴らしい婚約者候補を探しますから」


 私は、後ろをついてくる王弟殿下に視線を向けます。でも、「やなこった」という顔をされてしまいました。


    ◇


 第三王子は「立ち直れない」と言って、ベッドに寝込みました。


 あとはメイドに任せ、王弟殿下と私は、寝室を出て、扉を閉めます。



「第三王子様には、気になる令嬢がいたのですね」


 たぶん、あの男爵家令嬢と同じ名前の令嬢なのでしょう。


「王族という立場は、たまに、若い恋愛の障害となる」

 王弟殿下が、しみじみと語ります。


「王弟殿下も、好きな人がいらっしゃったのですか?」


 恋バナは私の好物なので、王宮の廊下で、聞いてみました。



「俺は、若い時から、聖女の出現を待つように強いられてきた」


 なんだ、やはり、彼に恋愛の経験はないようです。


「しかし、聖女が、俺に気が付かない場合もある……」


「王弟殿下の妄想ですね」

 自分勝手な思いなんてものを、一刀両断します。


「俺は、どうして女運がないのだろう」


「知りません」


 女心に気が付かない彼の気持ちなんか、知りません。


「第三王子の婚約者候補として、事前に同級生から2名を選んでおり、三人目はフランを考えていた」


「え?」


「しかし、今日の状況から、三人目は男爵家令嬢へと考えを変えることにする。フランは、いいか?」


「いいもなにも、私を婚約者候補にするなんて、初めて聞きました」


 そもそも、私は、年上ですし、家名を持っていないので、王族との婚約なんて、無理です。



「あれ? 言っていなかったかな」


 彼は、普段は優秀なのですが、私に対しては少しボケています。


 私は、どうして男運がないのでしょうか……


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