第一章 第三王子

第02話 伯爵家令嬢との出会い



「フランを、第三王子の担当メイドに登用する」


 王宮で、三日間のメイド研修を終えた3月4日の夕方、王弟殿下の執務室で、辞令を頂きました。



「担当メイドですか? 専属メイドの間違いではないのでしょうか」


 話をよく聞くと、王弟殿下は、三人いる王子の世話役も仕事にしており、自分一人では手が回らないので、私に第三王子の世話を押し付けたいようです。


「わかりました。第三王子の世話役である王弟殿下のメイドとして、横で補助すれば良いのですね」


 冒険者パーティーでの補助役は、得意分野です。



「第三王子は中等部で、難しい年頃だ。よろしく頼む」


 私は、本来なら高等部三年生に進級するところであり、年齢が近いことからの指名なのでしょう。



 でも、王弟殿下って、何歳なのでしょうか? まぁいいか。


「承知しました」



「最初の仕事は、第三王子の婚約者を数人に絞り込むお見合いだ。早速、明日から始まる」


「数人ですか?」


「本命、対抗、注目の三名を考えている」


 この時は、難しい仕事だとは思っていませんでした……



    ◇



 本日は、第三王子が、学園中等部の同級生たちを数班に分けて、お茶会に招く、初日です。


 準備を担当するメイドたちが、王宮の中庭にテーブルとイスを並べ、会場を用意しました。


 本日の班である令息3名、令嬢4名が到着しました。


 実は、第三王子の婚約者を、事前に数人へターゲットとして絞り込んでおり、その令嬢と第三王子との相性を推し量るという、秘密の作戦が進められています。


 本日のターゲットは、伯爵家の令嬢です。

 しかし、彼女は、会場で一人浮いています。


 令息3名と令嬢3名がカップルを作ってしまったからです。最近の中等部は、大人の悪い所を真似するので、困ります。


 どうしましょう。ターゲットは、自分からアプローチできないタイプですね。


 第三王子がいらっしゃるまで時間があるので、私が、別の場所を案内することにしましょう。


「伯爵家令嬢様、お顔の色がすぐれないようですね。少し、席を外してはいかがでしょうか」


    ◇


 伯爵家令嬢を、草木に囲まれた王族用のガゼボに案内し、休んでもらっていると、第三王子が通りかかりました。


 髪の色は紫に見えます。もともとの赤毛を、脱色せずに青く染め、オシャレした結果です。


 普通にしていてもイケメンなのに、少しもったいないです。


「どうした?」


 まだ声変わりしておらず、少し子供っぽい声までイケメンです。


「王族用のガゼボを使用して申し訳ございません。この令嬢を休ませております」



「俺が同席すれば、問題ないだろ」


 横に付き添っていた王弟殿下が、ガゼボに一緒に残ると提案してくれました。


 殿下の女好きは広く知られており、伯爵家令嬢は珍しいペットを見る目で殿下を見ますが、怖がっていません。これなら、大丈夫でしょう。


「では、お願いします」


 王弟殿下に、伯爵家令嬢の話し相手をお願いします。


「え? フランは行くのか?」


 王弟殿下は意外という顔をしました。


「はい、第三王子の担当メイドとして忙しいですから」


    ◇


 第三王子がお茶会に加わりましたが、形式的な挨拶の後は、盛り上がりません。


 すでにカップルが三つできてしまっていて、第三王子が一人浮いています。


 これは、まずいです。


「第三王子様、王弟殿下がお呼びです」

 気を利かせて、ボッチ君に声をかけます。


「そうか、途中退席する」

 第三王子はホッとした表情をしました。


 王族が顔に気持ちを出すとは、まだまだ青いです。


    ◇


 ガゼボで、第三王子と伯爵家令嬢を一緒に座らせたら、相性が良いようで、話が弾んでいます。


 二人で楽しく会話する横で、なぜか、王弟殿下がホッとした表情をしました。


 王族が、顔に気持ちを出したら、いろいろと、まずいでしょう。


「第三王子様、伯爵家令嬢様、閉会の時刻になりますので、そろそろ、会場へ戻っていただきます」


 頃合いを見計らい、二人に声をかけます。


「わかった、行こうか」

 第三王子が伯爵家令嬢をエスコートしました。


 なかなか、良い雰囲気です。


    ◇


 会場に戻ると、3組のカップルが、イチャイチャしています。最近の中等部は、おませさんです。


 世話係のメイドたちが、中等部の令息と令嬢をこんな状況にしてしまってごめんなさいと、泣きそうな顔です。


 大丈夫、貴女達は頑張りました、私は理解しています。


 今夜、こいつらの屋敷に、このはしたない状況を暴露する手紙を、匿名で送っておきます。


 第三王子と伯爵家令嬢は、名残惜しそうですが、まだ婚約者候補なので、必要以上には近づけさせません。




「王弟殿下、ありがとうございました」

 私は、ガゼボに戻って、王弟殿下にお礼を言います。


「疲れた、子供だと軽く思っていたら、あの年で、既に令嬢だった」


 疲れた原因は、それでしたか。

 色っぽい令嬢には強いのに、純真な令嬢には弱いようです。


「心と身体のバランスが保てなくて、悩み多き年頃なんです」


「現に、自分からアプローチできなかったじゃありませんか」


 伯爵家令嬢の揺れ動く気持ちを代弁しました。



「俺も、悩み多き中等部だったなぁ」


 あら、彼は、中等部の時に、好きな令嬢がいたのでしょうか?


 まぁ、私は恋愛経験もないし、中等部時代は、修行に明け暮れていましたけど。


「王弟殿下の 厚かましさを、あの二人に、少し分けてあげたいです」


 彼は、どの令嬢にも、分け隔てなくアプローチして、最初はモテますが、結婚の目が全くないため、長続きしません。



「俺も、好きな令嬢には、アプローチできないんだけど」


 彼は言いますが、ウソですね。


 アプローチされていないのは……私だけです。


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