冒険者がメイドにジョブチェンジしたら、王子たちの婚約者を探すわ、ザマァするわ、恋をするわで、時代に流され、もう大変!

甘い秋空

プロローグ

第01話 学園からの旅立ち



「貴女がフランかな?」突然、男性から声をかけられました。


 冒険者学校の校舎前、卒業式を終えた冒険者が談笑している中、黒髪のイケメン、いや、おじさんが声をかけてきました。


 濃い紫色の軍服を着ていることから、王族だと判ります。



 今日、3月1日は、冒険者学校の卒業式であり、閉校式でもあります。


 予言では、世紀末に“恐怖の大魔王”が現れ、海は枯れ、地は裂けた世界となる……はずでした。


 誰が言い始めたか分からない予言でしたが、国民が恐怖したことから、王国では冒険者学校を設立しました。


 今から12年前の話です。


 勇者に憧れる若者が、冒険者学校に集い、修行に明け暮れました。私も幼い頃から修行しています。


 しかし、世紀末はとっくに過ぎたのに、“恐怖の大王”は、ちっとも現れません。

 そのため、冒険者学校は、国民から、税金の無駄遣いだと言われ、閉校が決まったのです。



 このイケメンのおじさんは、閉校式で、来賓として挨拶した王弟殿下です。


 挨拶では、この閉校を、挫折とするか、チャンスとするかは、私たちの、これからのがんばり次第だと言っていました。


 しかし、ウワサに振り回されて冒険者学校を創立し、ここにいる若者たちの人生を狂わせたことへの、謝罪の弁はありませんでした。


 でも、許します。この王弟殿下も、予言に振り回されて、“恐怖の大魔王”を封印する聖女様と、結婚することが義務付けられたため、いまだに独身です。


 イケメンで、ユーモアもあると聞いていますが、将来性がゼロなので、もうモテないでしょう。きっと、彼は、つらい人生をおくっているはずです。


 将来性のない、おじさんのお嫁さんになるのは、嫌だろうなと、想像してみました……でも、私は、そんな嫌な気持ちにならない事に気が付き、少し驚きました。


 男なんて、どうせ、みんな獣ですから。


 でも、このおじさんには、なぜか、大昔に会ったような不思議な……くすぐったい感じです。



「そうだ、よく分かったな、オメェすげぇな」

 私は、王族へ、タメ口です。


「敬意を払え、小娘が」

 横に付き添っている護衛兵の一人が、私をにらみます。


「弱い男は、よく鳴くな」

 売り言葉には、買い言葉です。



「この野郎!」護衛兵が殴りかかってきました。


 が、私は、軽く投げ飛ばします。


 貸衣装である、卒業式用の角帽が飛び、黒い正装マントがひるがえりました。


 私は、冒険者“盗賊”です。


「白……」

 王弟殿下の顔が、少し赤くなっています。

 私のスカートも、ひるがえり、中を見られたようです。


 私も、顔が真っ赤になりました。


「何をしている、小娘どもが!」

 学校長が怒鳴り込んできました。


 学校長であるチョビヒゲ侯爵です。

 こいつは、学校に顔を出したことはありません。逆に、閉校を進めたのは、このチョビヒゲ侯爵です。


 周りの生徒たちが、嫌悪の目でチョビヒゲを、にらんでいます。


 騒ぎに気付いて、同級生の美人二人が、私の横に付きました。


 冒険者“踊り子”の令嬢と、冒険者“武闘家”です。


 冒険者学校では、特性によってクラス分けされています。


「私たちがお相手しますわよ、おじ様」

 年上好きの冒険者“武闘家”が、チョビヒゲ侯爵を挑発します。


「侯爵、問題ない。この美しい令嬢3名から告白されたが、俺が断ったため起きた、ただの色恋のケンカだ」


王弟殿下が、しらっと言いました。


「私の学校長としての花道を汚さないでください、王弟殿下」


「冒険者学校への補助金が減額され、上前が減るから閉校にしたんだろ? これ以上汚れると、身を滅ぼすぞ」


 王弟殿下とチョビヒゲ侯爵の、にらみ合いに火花が散ります。


「いてて」王弟殿下の耳を、私が引っ張りました。

「オメェの相手は、私だろ?」


 王弟殿下の瞳が、私の目の前にあります。恐怖の大魔王を思わせるような漆黒の瞳でした。


 なんだか、少し照れます。


「お前、何をしている、そいつは王族だぞ!」

 チョビヒゲ侯爵が、驚いています。


 私がにらむと、チョビヒゲ侯爵がひるみました。


 王弟殿下の耳を放すと、耳が真っ赤になっていました。ちょっと、やりすぎたかな。


 あれ? 片耳を引っ張ったのに、彼の両耳が真っ赤です。


「侯爵、すまないが、この倒れている護衛兵を、馬車で王宮まで送ってくれないか?」


「わ、分かりました」


 チョビヒゲ侯爵は、周りの生徒たちから、にらまれていることにも気が付き、護衛兵を連れて、引き下がっていきました。


「まずは、護衛兵の無礼を許してくれ。その銀髪と、青緑の瞳、子猫のような可愛い顔立ちから、フランだと判断したんだ」


 おじさんが、私の横に立ちます。


「そ、そうか、おじさん、なかなか、いいヤツだな」


 私の成績は、クラスでトップです。

 と言っても、冒険者“盗賊”を選ぶ若者は、私以外にいませんでした。


 おかげで、王宮のメイドという、格段に良い就職先を与えられました。


「あ、王宮のメイドということは、明日から、おじさんをパーティー・リーダー、もとい、上司として、私は働くのですか?」


「そうだ、よろしくな、フラン」

 彼が、右手を差し出してきました。顔はキリッとしています。


 釣られて、私も、右手を出して、ガッチリと握手しました。優しい温もりを感じます。


 あ、素手だった、もう遅い、王族と肌が直接触れ合ってしまいました。これはルール違反だと、冒険者の私でも知っています。


「よろしくお願いします。王弟殿下」

 なぜか、自然と、私は彼に、敬意を示していました。


「あれ? 王弟殿下?」


 彼が、私を援護してくれた美人二人に、周りの令嬢にまで、素手で握手しています。


 うわ、握手された令嬢が、顔を少し赤くして、はしゃいでいます。


「第一印象、最悪!」

 彼は、女好きの、腹黒な王族のようです。


 私は、天を仰ぎました。


 青春時代を過ごした校舎の上には、吸い込まれそうな青空が広がります。


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