25.魔砲(ニ)


〜・〜・〜・〜・〜・〜



「できるわけありません」


ルシルはキッパリと言った。


祐太も同じ意見だった。


こんな旧式の野戦砲で、いったいどうやって飛行中のカメムシに弾をあてるというのか?


それが不可能なミッションだということは、素人目にもあきらかだ。


撃ち落とせるわけがない。


「ところがどっこいー!」


トレグラスはいつもと変わらぬキレの良さで宙返りして、


「これは魔砲なんだー! そんじょそこらの大砲とはわけがちがうよー!」


そんじょそこらに大砲はないと思う祐太だったけれど、黙っていることにした。


「それにねぇー、カメムシが飛ぶスピードなんてたかが知れてるからねー。これで十分なのさー。まぁとにかくー、二人にはこれの使い方を教えるからー、しっかり覚えてよー!」



〜・〜・〜・〜・〜・〜



高々と打ち上がった魔砲弾は、ゆるやかな曲線をえがきながら、やがて降下に転じた。


トレグラスの言ったとおり、カメムシは速度も高度もたいしたことはないし、基本的にまっすぐ飛ぶ。


魔砲弾は飛行カメムシの群れに吸いこまれるように落下してゆき、目標のちょうど真上でパッとはじけた。


青い光が一瞬きらめく。わずかに遅れて炸裂音がとどろき、パラパラと花火のような光輪が散った。


魔力バーストによって羽と甲皮をつらぬかれたカメムシたちが、いっせいに落下してゆく。


下で待ち受けているのは、人喰いミントだ。


仮死状態のまま落ちて来たカメムシに、ミントのツルが次々とからみついた。


本来、ミントの天敵であるカメムシも、今は逆に喰われる側だ。カメムシはそのまま森の中に引きずり込まれていった。


砲隊鏡をのぞきながらルシルはうなずいた。


「まぁまぁです。角度が少し甘かったですが、よしとしましょう」


祐太は両手を両耳にあてて、治癒魔法を使った。毎度毎度、砲撃の轟音で鼓膜がおかしくなりそうだ。


「いいねー、いいねー! ずいぶん上達したねー、二人とも!」


トレグラスが戻ってきた。


「たった二日ですっかり砲撃の達人だねー!」


「ひさしぶりですね、トレグラ。いったいどこへ行ってたんですか? ウロウロしてると間違って撃ち落としますよ」


「他のチームに挨拶してきたんだよー」


その時、遠方から砲声がとどろいた。


祐太は、エルフの住居跡とよばれる丘の向こうで魔砲弾が炸裂するのを見た。


「やってるねー! あれはー……監視塔ナンバー7かなー? キリアンのチームだねー!」


フューリーの状況報告を受けて、本部は他のゲートも再起動させたのだった。現在、監視塔ナンバー2、4、7が稼働している。


ミントの森は広大だ。同じ日に複数の冒険者パーティーが参加する場合、それにあわせて隊員も数チームが配備されるのだった。






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