4.伯爵のしもべ
不安をぬぐいきれないまま、祐太は黙ってついてゆく。
トンネルのような通路をすすみ、階段を上ったり下りたりして、たどり着いたのは物置みたいな小部屋だった。
壁や天井に、剣や槍が何本も掛けてある。
窓ぎわにベンチがひとつ。その上には、何やら雑多な小物が置かれている。
「ど・れ・に・し・よ・う・か・な? うそつき魔女の、いうとおり。赤スライム青スライム黄スライム──これ!」
小物の中から、ルシルは腕輪を選んだ。それは二つでセットになっていて、一つを自分に、もう一つを祐太に手渡した。
二つの腕輪には同じデザインの
大事なのはこの印だ。この形を覚えておく必要がある。
「準備はいいですか?」
ルシルの問いに、祐太は腕輪を手首に通しながらうなずいた。
部屋の奥に、もう一つ扉がある。
「百三十一番ダンジョン──」
ルシルが声を発した瞬間、腕輪と同じ印が扉に浮かび上がった。
ルシルは取っ手をつかんで扉を開けた。
扉をくぐった瞬間、祐太の視界に飛び込んできたのは、二枚の大きな絵だった。
帯剣した口ヒゲの男性と、ドレスに身を包んだ女性。向かい合うように並んで壁を飾っている。
「ここは……?」
祐太は周囲を見回した。うすぐらい室内に、古びた家具や調度品が置かれている。
「なんとかいう昔の貴族のお屋敷らしいです」
ルシルはホコリのつもった猫脚テーブルの上にヤカンをおいた。それから、ソファにほうり出してあったガラ袋を祐太に手渡した。
大きな書棚があって、そこにさまざまなアイテムが詰めこまれている。
「これを三つ、これとこれを一つずつ」
ルシルの指示で、祐太は書棚に置かれたアイテムをガラ袋につめてゆく。
「そんなものでいいです。さて……お客さまが来る前に、早いとこ片付けちゃいましょう」
「広い……」
歩きながら祐太はつぶやいた。廊下の先が遠すぎて見えない。
ずいぶん古い屋敷らしく、長い間だれも住んでいないようだった。
おまけにあちこちボロボロだ。柱はキズだらけ、床には穴があいている。
「……ここのモンスターはどんなやつ?」
祐太はたずねた。
「たいしたことありません。弱っちいやつです。どこにでもいて……」
ルシルが足を止めた。祐太はぐにゃりとしたものを踏みつけた。
「うわっ!?」
それは床のすき間にもぐりこんだ。
「しもべスライムです」
「スライム?」
今のが? たしかにグニョグニョしていたけれど、妙に肉肉しい感じがした。
「しもべって……?」
「この屋敷に住んでいた貴族──伯爵だったらしいのですが、その伯爵が魔法でつくったのです。スライムとかナメクジとか小麦粉とか、他にもいろいろ、材料を混ぜて……よく知りませんけど」
祐太はさっきの絵に描かれていたヒゲの男性を思い浮かべた。
「どうして伯爵は、そんなものを作ろうとしたんだろ?」
「きっと、忠実な召使いがほしかったのです。でも、魔法は完成しませんでした。実験に失敗して伯爵も行方不明……。うっかり自分も材料にしちゃったとかなんとかウワサもありますが真偽不明です」
「ふぅん。それにしても、すばしっこいやつだったね」
次に遭遇したとき、はたして攻撃魔法を当てられるかどうか。
「わざわざ退治するほどのモンスターじゃありませんよ。でも、危険なやつもいます」
「どんな?」
「色の違うやつは、ちょっと凶暴です。それから、いちばん危ないのは人の形をしたやつです。まー、めったに出会うことはありません」
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