瞑目
てとらーど
瞑目
「どんなにつらいことがあっても決してその現実から逃げようとして目を瞑っちゃいけないんだ。目を瞑って暗くなった世界には差し伸べられた救いの手なんて見えやしない。ただ嘲笑と侮蔑、孤独しか自分には届かなくなってしまう。いいか?父さんとの約束だ」
彼は他の人とは見えている世界が違ったのではないのだろうか。ふとそんなことを思ってしまう。彼の言っていたことはなんにも間違ってなんかいなかったのではないか、という罪悪感が胃の中で今にも吐き出そうなほど濁流していた。
しんしんと降る細雪がもうだれも住んでいない彼の家に積もっていた。家主は不在だというのに、今日は来客が多かったようだ。玄関の前には不揃いに積もった雪だけが残っている。そんな彼らも用が済んだのだろうか。今は静寂と寒気のみが残されている。
目の端に映り込む雪のかけらを目で追いながら思う。
彼は本当に「間違った生き方」をしていたのだろうか、と。
ふとしたことから疑問を持つ。僕は間違っているのだろうかと。でも誰かにそれを聞くことはできなかった。
病気になってしまいそうなほど重苦しく、陰鬱な空気にまみれた部屋にいては、とにかく頭がおかしくなりそうだった。
力弱く部屋の窓を開けて机に倒れこむ。
勢いよく飛び込んできたからっ風が強引に僕の気持ちを押し流していく。押し流された後の空虚な僕はあまりにも空っぽすぎて、もう流す涙さえ残っていなかった。
どうして素直に僕を認めてくれないんだろう。
僕は先日ある発見をした。
「魔法」と形容されるような技術の基礎理論。何も知らない人が見れば神の奇蹟とでも思えるのかもしれないその摩訶不思議な術を安定して発現させ、世界に影響を与える方法を見つけたのだ。
突拍子もないことかもしれない。でもそれは真理だった。
まだまだ発表なんてできないけれど、僕と父さんの夢は叶ったんだ。
浮かれる気分を鎮め、一度ゆっくりと自分の周りを見渡す。
積みあがってあちこちで立派な塔となっている数々の資料や文献。何度も書いては消してを繰り返したホワイトボードはいつしか薄く黒ずんでいた。僕が生まれた時からそこにあった今は使っていない、埃をかぶったガラス器具はもう十分にその役目を終えたのだろう。
ずっと僕の一番の居場所だったこの研究室も、そろそろ掃除の時期だろうか。いつまでも粗雑なままではいざ他人を招きこむようなことになったときに恥ずかしい思いをしてしまう。
いつからかの研究室を包む静寂に僕はもう慣れてしまった。静かな研究室はそのときから掃除をしていなかった。
――――――――――
季節は一月の終わり。一年の中で最も寒い日だと天気予報のキャスターは言っていた。肌に刺さるような痛みが朝の眠気を無理やりなかったものにしていく。よく僕が使う通学路はこの時間だと車一つ、人一人通りはしない。あのカーテンの奥にいる人は夢に浸れているのだろうか。特に喋る人もいない静かな日課はこんなことでも考えておかなければ、そのうち飽きてしまう。
しかしどうしたものか。僕はまだ十七歳でしかない。研究の発表をする機会もなければ、「魔法」という大それた新発見の責任も負うことができないように思えてしまうと、心の中で頭を抱える。絢爛な達成感にちょっとした曇りがついてしまうとどうしてもそれが拭いきれない。そんな不快感に囚われていると、いつの間にか自分は教室に立っていた。
「久しぶり〜。■■くん。いつから学校休んでたんだっけ?」
数ヶ月ぶりかの登校だった。教室の空気はまるで初めての日かのように感じられた。
「どうだったっけ?あんまり覚えてないな」
「おいおい〜。そんなんでこの俺らの成長について来れるのか?」
「あんたは特に何もしてないでしょ」
「ふん!どうだろうな!次のテスト見てろよ〜!」
特に何も考える必要のない会話。独りで家に閉じこもってるだけでは感じることのない充足感が自分の周りをすいすいと泳いでいた。頭の上の暖房はぼうっとするほどの気だるい熱気を吐き出していた。
「そういえば、休んでる間何してたの?なんか家の都合って聞いたけど」
僕の休学理由は表向きには親の介護ということになっていた。理由は知らないが父さんの遺言状の一つにそれが書いてあったのだ。
「親の介護が大半だったんだけど、間間で自分の研究もしてたかなぁ」
「研究?それって論文とか?」
「いや、それについて今悩んでて、何かそういう研究の発表場所を探してるんだ」
「あぁ〜。それだったら昨日なんかプリント来てたな」
僕の話を聞いていたクラスメイトの一人が教室の壁にあるホワイトボードを指差した。
「これだよ。なんか市の高校生が自分の研究を持ち合って、市民会館で話すんだってさ。こんなの言われても誰も行かないだろって話してたんだがな」
そこに貼られた一枚のA4用紙には確かに彼がいった通りのことが書いてあった。
「おおー。ありがと!」
白板に留めてあった理想への道。それに目を輝かせずにはいられなかった。教室に満ちた喧騒はもはや僕の脳に届かない。
そして、予鈴が鳴った。
――――――――――
「本日は■■市高校生学術フェスにご来場いただきありがとうございます。一階のロビー以外での飲食は原則禁止されています。また、トイレは……」
僕が学校に復帰してから三週間が経とうとしていた。あの日から多少寒さも和らぎ、朝起きたときも少しずつ明るくなっていた。
「誰か来てるのかな?なんか何人かは来るとか言ってたけど」
会場を満たす雑多な話し声と、大理石の床のせいで大層に響く数多の足音が、廊下と天井で共鳴して複雑なメロディーになっていた。近くの自販機で買ってきたコーラのミニペットボトルを独りでちびちび飲んでるいると、ホールで話す家族やら友人やらグループがひどく遠くの存在に見えてしまう。
「まもなく小ホールにて第二グループの発表が始まります。開始五分前には席についてますようお願いします」
僕の発表は第三グループだった。一グループにつきおよそ一時間半の日程のため、あと一時間は自由な時間を過ごすことができる。大丈夫なはずだ。この日のために準備はしっかりしてきた。発表用のレポートだってもちろん研究者の方々が書くようなものとは比べ物にならなけいけれど、この年で先行研究がほとんどないこの分野のレポートにしては大したものだという自信がある。
見ていてほしい。父さん。僕が背負ったこの罪過であり、使命。父さんの無念を僕が晴らしてみせる。決して誇れない結晶であるのは分かっている。この研究の九割は父さんのものだ。でも僕は父さんの偉業をこの世界に広めてみせる。この世界を魔法の光で照らしてみせる。今までの常識を一変させる新しい真理は、きっとこの世界をより良いものにしてくれる。僕はそれが見てみたい。そして父さんに見せてあげたい。だからどうか。もう少しだけ僕を見ていてほしい。
両手を器状に広げ、その中に力を籠める。
その中には奇蹟の光が眠っていた。
それから僕は少し眠りについた。
「まもなく小ホールにて第三グループの発表が始まります。開始五分前には席についてますようお願いします」
中途覚醒の脳裏にそんな声が飛び込んできて、現実が急速に僕を掴んで離さなかった。
開場のアナウンスがはるか遠くから聞こえるように感じる。暗く冷たい小ホールの上手側控えで僕は高鳴る鼓動を必死に抑えこんでいた。
ざわざわとホール内に広がっていくお客さんの興味や期待、時には自分の息子を心配に思う母親たちの息遣い。まだ閉じている緞帳の後ろからでもそれらは十二分に感じ取れる。
体の震えが止まらない。鼓動に呑まれることはなかったが、体の中で沸き続ける筋肉の扇動は、高鳴ることしか知らなかった。
「ブー」
いつの間にか開始の時間になっていた。
この厚い布越しにもわかる。煌々と光に包まれていた小ホールが、後方からバシンバシンという古い建物特有の音を立てながら迫る暗闇に映し変わっていく。そして少しずつ漏れ出ていく運命の光が、暗闇に天に昇る道を作り出していた。
「これから第三グループの発表が始まります。■■ ■■さんお願いします」
どこからともなく聞こえてくる無機質な司会の声が右から左へと流れていく。僕の五感はそんなものに注意を割く余裕がなかったようだ。ただ一点。あのスポットライトの集まる先。あそこに立つ父親の姿を見ることに精一杯だった。
「~~であるからして、~~は~~であるといえます。ご理解いただけたでしょうか?」
どうやら前の発表者は、観客の質問に答えているようだった。自信たっぷりなその顔を見ていると、どうしてか背筋に冷や汗が走ったかのように感じた。
「■■ ■■さんありがとうございました」
司会の声が今度は脳をしっかり揺らした。次が僕だ。ふぅー。一つ大きな深呼吸をした。
「■■ ■■さんお願いします」
一瞬暗転したスポットライトが再び点灯し、僕の体を焦がしているのを感じる。これではまるで……。
――――――――――
現代において、特に日本において宗教色が強いというのは少なからずマイナスイメージになるということは誰もが知っている。
発表の前に感じた身を焦がす感覚。あれはスポットライトのせいではなかったのだ。現代の魔女狩りだ。焚刑の感覚を天が教えてくれていたのかもしれない。
息切れと動悸が止まらない。目の前が歪んで見える。
あぁ……。世界が色を失っていく。
「あれじゃあマジックショーだよ」
遠くから聞こえるささやき声が頭に跳ね返って、そのたびに強烈な吐き気に襲われる。そんな声が各地で聞こえて、粗悪なメロディーとなって僕に襲いかかってくる。
あの発表で何が起こったのかもう明瞭には覚えていなかった。
ただ覚えているのは疑いと罵声の輪郭、連鎖していく秩序なき紛糾の絶望だけだった。
「あなたは魔法が存在していると言いましたね?でも質量保存の法則ってご存じですか?無から水は生まれないんですよ」
「ですから、質量保存の法則も魔法に則っていると何度も説明しました!さっきから実際にやって見せてるでしょう!あなたは自身の目の前にきわめて科学的に示された論理と実践を否定するのですか!?」
「だから、その論理と実践とやらは事実無根だろ!論理はまずここ数世紀の科学の進歩を無視しているし、実践とやらはいくらでもごまかしようはある!」
「信じてください!僕はちゃんと科学的に証明した事象を紹介してるにすぎないんです!」
「発表の時間を大幅に超過しています。■■ ■■さんの発表はいったん中止とさせていただきます」
もう何も聞こえなかった。ゆるやかに目の前の景色を幕が占有していく。まるで自分だけが世界から切り離されたかのように。
どうして信じてくれなかったんだろう。ねぇ父さん。どうして僕はみんなに避けられてるの?僕は使命を果たしたんだよね?
涙があふれてくる。嗚咽が止まらない。現実がまるで歪んでしまったかのような視界の中、僕はただ平らでしっかりとした地面を求めてさまよい続けた。
どうやって家に帰ってきたかは分からない。見えない奔流に呑まれた世界では僕の居場所ですら、僕の認識から外れてしまっていたんだ。
一回おやすみ。きっと次に目を開けたら魔法が新しい光として世界を明るくしてるんだろう。
――――――――――
あれから何日が経っただろうか。あの日のことはもう思い出したくなかった。
この生ぬるい空気は何のせいなのだろうか。まだ三月にすらなっていないんだぞ。
悪夢はまだ終わってはいなかった。
いまだ鎮まらない鼓動をどうにか静かにさせようとリビングのソファに横たわっていると、突然家の電話が囂しく鳴り響いた。音が躰を蝕んでいく。
立つと吐き気がしてどうにかなりそうだった。震える手で受話器をとり、肺から漏れ出る声で遠くの誰かに尋ねた。
「どちら様でしょうか?」
「あ、こんにちは。■■ ■■君で間違いないですか?失礼、自己紹介がまだでした。■■新聞の■■ ■■と申します。この間の君の発表について取材を申し入れたいのですがご了承いただけますでしょうか?」
「あ、あの……。申し訳ないのですがその依頼にお受けすることはできません……」
「そうですか……。いえ、ありがとうございます」
一通りのあいさつを終えた後、受話器を戻した。その瞬間。
「プルルルル……。プルルルル……」
「はい。ご用件は何でしょうか?」
そのあとこのやり取りを何回か繰り返した。どこから聞きつけたのやらこの日はこういった取材の申し込みが幾つかのメディアから寄せられた。
もちろん僕にそんな余裕はなかった。あの日のことを思い返すのはもちろん、研究室ですら近づくと激しいめまいに襲われるようになってしまった。
受話器越しに伝わる嘲笑の気配を僕は感じ取っていた。僕には僕のことを守ってくれる大人がいない。自分のことは自分で守らなきゃ。
ごめん。ごめんね、父さん。僕、父さんの人生無駄にしちゃった……。
いつかの日。僕の父さんはある実験をしていた。ごめん。確かその実験は危険な薬品を扱う大事な実験だった。ごめんなさい。僕はまだ小さかったから、実験中に研究室に入ることは禁じられていた。本当にごめんなさい。でも僕はその約束を守れなかった。許して。僕が机に当たっちゃって、机の上のフラスコ付きのスタンドが僕に……。い、いやだ。許して。ごめんなさい。
ねぇ父さん?僕はいったいどうしたらいいの?
「どんなにつらいことがあっても決してその現実から逃げようとして目を瞑っちゃいけないんだ。目を瞑って暗くなった世界には差し伸べられた救いの手なんて見えやしない。ただ嘲笑と侮蔑、孤独しか自分には届かなくなってしまう。いいか?父さんとの約束だ」
うん。そうだよね。大丈夫。僕は決して目を瞑らない。
次の日、少し体調が良くなったから、僕は学校に向かうことにした。
一人ぼっちの通学路は僕に久しぶりの落ち着きを与えてくれた。
もうすっかり明るくなった朝の道を明瞭な視界でとらえながら、ちゃんと踏みしめていく。
今日までにあった悪いことを押し流そうとしていると、いつのまにか僕は教室にいた。そして、気づきたくないことにも気づいてしまった。
「■■■■■■■■■■!■■■■■■■■」
「■■■■■■■■■」
■■■■■■■■■■■■■■■■。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
大丈夫。まだ耐えられる。
未だ彼を象る歯車はゆっくりと滑らかに廻り続けていた。
まだやり直しは効くはずだった。
――――――――――
それでも僕は研究をやめることはできなかった。僕に向けられる奇異という名の隔離とむき出しの悪意に耐えるためにはこれしかなかった。それしか道は残っていなかったし、せめて父さんには健やかに過ごしてもらいたい。ただそれだけだった。
「いつの日か、この世界の真理を突き止め、すっかり停滞してしまったこの世の中に『希望の光』を照らしてみせたい」
それは僕らの大切な記憶であり、父さんの口癖だった。
ねぇ父さん?僕はいったいどうしたらいいの?
「どんなにつらいことがあっても決してその現実から逃げようとして目を瞑っちゃいけないんだ。目を瞑って暗くなった世界には差し伸べられた救いの手なんて見えやしない。ただ嘲笑と侮蔑、孤独しか自分には届かなくなってしまう。いいか?父さんとの約束だ」
うん、分かってる。分かってるんだ。
あの現実から目を背け続け、父の思いを継いだ。
ついに、歯車は整備不足に陥ってしまった。
歯は錆び付き、ひびがあちこちに入ってしまっている。ああ、もはや時間の問題だろう。
――――――――――
度重なる嘲笑や差別、自責の呪いで、僕の心は崩れてしまう寸前だった。それでも何かを信じ続け、研究を続けた。
そんな日々が続き、やがて意味を見失う。
「他人なんてどうにでもなってしまえばいい」「父さんの意志も完全に果たすことは出来ない。なら……」
其処にあるのは、もうもともとの僕ではもうなかったのかもしれない。あるのは、狂気じみた壊れた信念と、ただの肉体だけだったのだろう。
それらに呑まれたとき、僕は何かが砕けて、深い海に沈んでいった気がした。
ねぇ父さん?僕はいったいどうしたらいいの?
「どんなにつらいことがあっても■■■■■■■■いんだ。目を瞑って暗くなった世界には差■■■■■■■■んて見えやしない。ただ嘲笑と侮蔑、孤独しか自分には届かなくなってしまう。いいか?父さんとの約束だ」
歯車は欠け始め、軋み始める。もう止まらない。
――――――――――
僕は研究し続ける。例え認められなくてもいい。 困るのはあいつらだ。 どうすればいいのか分からなくなって、僕の生きた証の前でただ呆けることだろう。 それでも僕は諦めない。きっと過ちにいち早く気づいた人が、これを継いでくれることを。
その為にも、完全に壊れてしまう前に、少しでも真理に近づいておこう。 それが、少なくともの罪滅ぼしだ。
ねぇ父さん?僕はいったいどうしたらいいの?
「どん■■■らいことがあっても■■■■■■■■いんだ。目を■■■暗くなった世界には差■■■■■■■■んて見えやしない。ただ■■■蔑、孤■■■自分には届かなくなってしまう。いいか?父さんとの約束だ」
また、何かが欠けてしまった気がした。 歯車の歯は完全になくなってしまった。 そして、ひびはさらに深くなり、嫌な音は虚無に寂しく消えていく。
――――――――――
きっともう時間は残っていないのだろう。体に何の問題がないとしても、心はどんどん腐り落ちていく。それをひしひしと感じ取っていた。それでも僕はこの探求の手を緩めることができなかった。したくなかった。
「こんなので終わりたくない!こんな敗北で終わってたまるものか!」
心の中で誰かが必死に叫び続けている。ただそれに従って、目の前の夢をさばき続ける。
ただの数字や文字、記号の羅列がどんどん頭のキャパシティを奪っていく。どんどん目の前が暗くなっていく。好きだったものが崩れ去っていき、ただの瓦礫として僕の記憶の中に居座り続けている。
けれど、やめることはできなかったんだ。
ねぇ父さん?僕は大事なことを忘れてる気がするんだ。それってなんだったっけ?
もうどうでもいいのかな?
するりと手から鉛筆が零れ落ちる。体から力が抜け、背もたれに己のすべてを預ける。目の前にはいつから書いていたのだろうか。数百ページにわたる僕たちの生きた証であり、僕たちを殺した聖書。
もう頭には何も残っていなかった。無意味な言葉と文字だったものや記憶の瓦礫がただ覆いつくしているだけだった。もはや力なくこの安楽椅子によたれかかることしかできなかった。
もう何をするにも体が動きやしない。
父さんが死んだのは僕の横にある机。空虚な達成感で体を動かし、彼方の幻想を思い出す。
それはあの暖かい家庭の一幕。
「ねぇ父さん?僕すごいことに気が付いちゃったんだ!」
「お、そうかい?どれ、見せてごらん?」
「これ!」
「おーこれは新発見だ!よくやった!」
陽だまりの中で僕たち家族は生きていたんだ。ただそれだけが僕を形作った。
かけがえのない幻想はまるで夢のようだった。もう僕はこの夢を静かに受け止めてもいいんだ。目を瞑って、あの夢を網膜に映し出す。
もう十分だ。
おやすみ父さん。
彼が亡くなっていたのはこの椅子の上だった。あまりにも学校に来ない彼を心配して、この家に来た時には彼はもう冷たくなっていた。
目を瞑って…安らかな顔で眠っていた。
そして、彼は二つのものを遺していた。一つは彼の研究レポート。もう一つはくしゃくしゃに丸まったメモ用紙だった。
「どうか、次の世界が魔法で照らされた幸せな世界でありますように」
瞑目 てとらーど @shirauo
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