第12話 愚者【ユヴィリティ視点】

「────と、言うわけ何だ兄さん!!」


 僕の部屋に入るやいなや、愚かな弟であるヴィルディは自身の悲惨な状況を嘆いてきた。


 曰く、モモさんに騙された。

 曰く、それでも助けたい。

 曰く、それは僕が彼女を愛しているからだ。

 ということを、情熱的に告げてきた。


「……なるほどな」


 僕はヴィルディの話を一通り聞き────


「……ウソを吐くな」


 と、ピシャリと告げてやった。


「ウソ……? 僕はウソなんて吐いてないよ兄さん!!」


「……僕の部屋に入ってきて、久しぶりに話すことになったら、こんなくだらない話に付き合わされるなんて……」


「くだらない……? モモの命がかかっているんだぞ!!」


「サチアさんも言っていたことだが、それは自業自得ではないか?」


「なッ!!!!」


 そんな迫真の表情をされても困る。


「モモさんは貧民街に入り浸り、子を授かった。そしてサチアさんにいじめられたと偽り、婚約者の座を奪い去った。何か間違っているか?」


「何も……間違っていないと思います」


「では再度聞くが、この話のどこに情状酌量の余地がある?」


「それは……」


「な? どこにも同情の余地はないだろう?」


 非道かも知れないが、これは仕方の無いことだ。

 貴族が自身で穢した汚点を拭い去ることは、至って当然のことなのだから。


「ですが……それでもモモさんを死なせたくないのです?」


「それは真実の愛というヤツに目覚めたからか?」


「そうです!! 僕はモモに出会い、運命の出会いをしたと思っています!!」


「……はぁ」


 何度も、何度も失望させてくれる。


「そんな見え透いたウソ、誰が信じるというのだ?」


「ウソなんかじゃありません!! 人の命を大事に死体と願うこの感情は、何か間違っていますか!!!!」


「その感情は正常だが、ヴィルディが抱いている感情はそれではないだろう?」


「一体、何を────」


「────ヴィルディはただ、モモさんが美人だから捨てたくないだけだろう?」


 ビクッとヴィルディは一瞬震えた。

 ……どうやら図星のようだな。


「モモさんが美人で、容姿端麗だからキープしたいだけだろう」


「そ、そんなことは……」


「言葉が淀んだな」


 王族ともあろう者が、そのような低俗な考えを抱くとは。

 全く、兄として恥ずかしい。


「この話は恐らくだが、父上の耳にも伝わっているだろうな」


「まさか、兄さんがチクったのですか!!!!」


「そのような低俗な真似はしない。モモさんの大きなお腹を見れば、誰もが違和感を抱くだろう」


 そんな考えを抱く脳も無いとは。


「話は以上だ。私はモモさんの処刑を擁護することなど、一切しない」


「そんな……」


「去れ」


「……クッ! 絶対にモモさんはしなせねェから!!」


 悔しそうな表情で、ヴィルディは去った。

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