第11話 愚鈍【ヴィルディ視点】

【ヴィルディ視点】


「なるほど……」


 手にした報告書を読み、震える。

 最愛のモモの身に起きている真実を知り、絶望してしまう。


「モモのヤツ、まさか子を孕んでいたのか……!?」


 信じたくないが、手にした報告書にはモモの経歴が書かれていた。

 曰く、モモは一年ほど前から、貧民街に入り浸っていたこと。

 曰く、悪い輩と仲良くなったこと。

 曰く、そこで……子を授かったこと。


「最近お腹が大きくなったことは、気づいていたさ。けれど……彼女は太ったと、そう言っていたんだ」


 嘆き、哀しむ。


「何故、何故なんだモモ。僕に惹かれ、サチアから奪い取るほどに、僕を愛してくれたんじゃ無かったのか……!!」


 何より哀しいのは、偽られたこと。

 子を為していたことよりも、何よりもそれが一番哀しい。


 同時に脳裏に沸き上がる、1つの仮説。

 信じたくはないが、信じざるを得ない仮説。


「まさか、サチアにいじめられたという話も……ウソなんじゃないか……?」


 モモは僕に対して、サチアにいじめられたと言ってきた。

 当時の僕はそんなモモの言葉を疑わず、サチアを捨てた。

 だけど……それがウソだとしたら?


 よくよく考えれば、あり得ない話だ。

 サチアとは10年以上の付き合いだが、彼女が妹をいじめるような人物には全く思えない。

 清く正しく美しく、そんな言葉が最も似合うサチアが人をいじめるなんて……あり得ない話ではないか。


「僕はまさか、とんでもないことを侵してしまったんじゃないか?」


 自分の心に浮かび上がる、後悔。

 1つのウソを疑えば、幾度ものウソを疑ってしまう。

 僕は今、モモの全てを疑っていた。


「モモ……キミは僕のことを……どれくらい騙したんだ?」


 もう、何も信用することができない

 モモの全てが、信用できない。


「それにモモが孕んでいることを父さんに知られてしまえば……きっとモモは処刑されるだろう」


 嘘つきのモモが処刑されるのは、何とかして避けたい。

 度し難い嘘つき女だけど、それでも見た目は美人なんだ。

 僕が一目惚れするくらいには、美人なんだよ。


 見た目だけは良いあの女を捨てるのは、実に勿体ない。

 だからこそ、処刑は阻止しなければならない。


「どうすれば……どうすればいいんだ……?」


 僕の脳では、解決策が思い浮かばない。

 もう……諦めるべき何だろうか。


「いや、兄さんに頼んでみよう!」


 兄さんは僕とは違い、頭が良い。

 きっと、モモが処刑されない最善策を考えてくれるはずだ。

 

「そうと決まれば、善は急げだな」


 僕は急ぎ足で、兄さんの元へと向かった。

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