第10話 子

「……殿下、いつから知っていましたの?」


「最初からだよ。違和感を抱いていたんだ」


 殿下は再度、紅茶を啜っています。

 しかし、先ほどのように優雅ではなく……どこか厳しい啜り方です。


「安心して、現時点で知っているのは多分僕だけだから」


「ですけれど、みなさんに知られるのも時間の問題ですわよね」


「そうだね」


 モモはバカな女です。

 きっと自分から醜態を晒し、自分から孕んでいることを晒すでしょう。


「もう一度聞くよ、モモさんの相手は一体誰何だい?」


「……仕方ありませんわね」


 我が一族の恥部、伝える時が来ましたわ。


「我がルビシア領のことは、どの程度知っていますか?」


「裕福な街と聞いているよ。平民の収入が、王都よりも上だって噂だね」


「……我がルビシア領に住んでいるのは、裕福な平民だけではありません」


「ああ。それも知ってる」


「光があれば影あり。我がルビシア領には、王都の2倍以上の路上生活者が存在しますの」


「……それも知っているさ。ルビシア領主の頭痛の種だね」


 紅茶を啜り、続けます。


「察したと思いますが、モモの相手は貧民街の者です」


「……それは犯罪に巻き込まれてしまい、結果的に孕んでしまったというわけかい?」


「いえ、モモが積極的に貧民街に出入りして、自分から孕んだ結果です。一時、モモは貧民街に毎日のように入り浸り、淫らな日々を過ごしていたので」


「……情状酌量の余地もないね」


「仰るとおりです」


「でも、なんでモモさんはそんな行為に及んだの?」


「……曰く、孤独を埋めるためだと」


 私はモモではないため、何故そんな行為に及んだのかはわかりません。

 それにモモが孤独を抱いた理由も、悲鳴です。


 モモはルビシア一族の次女として、この世に生まれました。

 そして末っ子として、私よりも深い愛情を注がれたはずです。

 そんな彼女が孤独を抱いたなんて、正直理解できません。


 大方、孤独を抱いたのもウソでしょう。

 本心はただ性欲を持て余したため、貧民街で発散した。

 ただそれだけでしょうね。


「孤独を埋めるため……気持ちは理解できるけれど、でも……同情はできないね」


「ええ。全てモモの自業自得です」


 ピシャリと、私は告げました。


「……恐らく、モモさんが妊娠していることは、僕がバラさずとも数日以内にバレるだろうね」


「お腹も大きくなっていますからね」


「そうすれば、きっと……処刑されるだろうね」


「ええ、そうですわね」


「……僕の力があれば、処刑を阻止できるけれど──」


「その必要はありませんわ」


 再度、ピシャリと告げます。


「全て、モモの自業自得です。殿下が権威を振るい、お救いになる必要はありませんわ」


「……そうか、キミが言うのなら……そうするよ」


「モモは少し、はしゃぎすぎました。彼女は罰を下されるべきです」


「孤独の発散は必要だけど、それを行う行為は……咎められるべきだね」


「ええ、それにモモは経歴を偽ってまで、私から婚約者という立場を奪ったのです。そんな嘘つき女に同情の必要はありませんわ」


「キミは厳しいね」


「当然のことです」


 あんな嘘つき女を、擁護する必要はありませんから。

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