第9話 妹

「サチアさん、キミに聞きたいことがあったんだ」


「私に……ですか?」


 殿下の部屋で茶を嗜んでいると、唐突に殿下からそんな話が振られました。


「なんですか? 本日の常識講座は終了しましたよ?」


「いや、その話じゃないよ」


 私は数日前より、殿下に常識を教えています。

 女性へのプレゼントなどを、教えています。


「今回聞きたいのは、キミの妹についてだよ」


「……モモのことですか?」


「そうだよ、彼女のことをどう思っているのか、聞きたくてね」


 今は第二王子の婚約者と化したモモ。

 そんな彼女への気持ちは……。


「……特に何も思っていませんわ」


「そうなの?」


「殿下が聞きたいことは、理解していますわ。婚約者を奪われた妹へ、憤りを感じているのか等をお聞きになりたいのでしょう」


「少し違うけれど……、まぁ大体そうだね」


「でしたら、意図に沿うことはできませんわ。私は妹に対して、特に何も感じていませんもの」


 これは本音ですわ。

 婚約者第二王子を奪われたとはいえ、私自身は既に彼への恋慕は冷めています。


 それに妹の”秘密”のこともあります。

 こんな状態で妹が、末永く幸せを享受していられるとは到底思いません。

 

「……いえ、何も感じていないというのは誤りですわね」


「と、いうと?」


「……私の本心は、きっと”憐憫”が近いでしょう」


 ”秘密”を宿したまま、婚約者になった妹。

 自分の夢を叶えるために、その他全てを捨てた妹。

 なんと愚かで、憐れなのでしょうか。


 そんな妹に抱く感情は、まさしく”憐憫”です。

 憐れで情けなくて、姉であることが恥に感じてしまうほど。

 まさに憐憫と言うほかない言葉を、私は抱いてしまいます。


「……なるほど、僕も気持ちはわかるよ」


 殿下は紅茶を啜りながら、哀しげな目で私を見つめます。


「僕が弟に抱いている感情も、まさしく憐憫だ」


「……第二王子に、そのような感情を抱いていらしたのですね」


「昔から才能があった弟だけど、残念なことに頭は良くなかったんだ」


「……そうですわね」


 私も幼いころから関わりがあったので、少しわかりますわ。


「……ともかく、サチアさんがモモさんに抱いている感情が、知れたからよかったよ」


「それは何よりです」


「じゃあ、次の質問に移ろうか」


「?」


 殿下は鋭い視線で、私を見つめています。

 これまでの優しい目線ではなく、鷹のように鋭き目を。

 そんな眼差しで、殿下は口を開きました。


「モモさんを……孕ませた男は知っているかい?」


 ギョッとするような、質問を。

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