第8話 愛情表現

「殿下、昨日のアレはどういうことですか?」


 次の日、私は第一王子の元へとやってきました。

 理由としては、昨日のギン花事件の真意を聞きただす為。


「昨日のアレ……? ああ、僕のプレゼントが無事に届いたんだね」


 屈託のない笑みを浮かべる第一王子。

 そんな無邪気な表情をされると、怒りの感情が薄れてしまうではありませんか!


「んんッ!!」


「ど、どうしたんだい?」


「いえ、自分を戒めただけですわ。それよりも、今プレゼントとおっしゃいましたね?」


「そうだけど……?」


「あれは嫌がらせではないのですね?」


「なんで、好きな人に嫌がらせをしなくちゃいけないんだい?」


 今度は純粋な疑問をぶつけてきましたわ。

 私よりも年上なのに、私よりも純真な感情をぶつけないでください!!


「……殿下は変わっていますね」


「僕はどこも変わっていないよ」


「そういうところが変わっているんですよ」


 私のような傷物令嬢を好きになったところ。

 プレゼントと称し、大量の花を送ってくるところ。

 そして……歳や立場ににあわぜ、純粋なところ。


 その全てが変わっていますわ。


「殿下、普通は異性へのプレゼントは慎ましく送る物ですよ?」


「それは知っているよ。だからこそ、キミには気合を入れて送ったんだ」


「殿下、慎ましいという言葉の意味をご存知ですか?」


「僕はアーノルド学院を主席で卒業したんだよ? そんな言葉の意味くらい、当然知っているさ」


「では、再度聞きますが……アレは慎ましいプレゼントですか?」


「あのプレゼントは全然慎ましくないよ?」


 よかった、価値観は常識の範囲ですわね。


「では何故、私にアレほどの数の花を送ったのですか?」


「何故って……。好きな人には無償の愛を送るべきだろう?」


 なるほど、ガッテンがいきました。


「つまり殿下は、慎ましいプレゼントを送るつもりは最初からなかったという訳ですわね」


「もちろんだよ! 慎ましいプレゼントが好ましいのはしっっているけれど、そんな物じゃ僕の愛する気持ちは伝えられないからね」


「なるほど……」


 これは… …。


「重症ですね」


「え?」


「独り言です」


 価値観をアップグレードする必要がありますわね。

 他人の価値観を変えるのは、骨が折れますけど……。


「……これ以上、部屋が破壊されては困りますものね」


「さっきからどうしたんだい?」


 無邪気に笑う陛下に、私は告げます。


「殿下、昨日のようなプレゼントは今後はおやめください」


「え、え?」


「あの大量の花のせいで、私の部屋が半壊しました」


「そ、そんな……」


「本日殿下の元を訪れたのは、それを伝えにきたからです。それでは、ごきげんよう」


 善意に対し、辛辣だったと思います。

 心は痛みますが、これくらい告げなければ……きっと殿下は理解してくれないでしょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る