第2話 自由

「ふぅ……」


 あれから数日後、私は屋敷の中庭で紅茶を嗜んでいました。

 

「それにしても、モモを選ぶなんて……なんて愚かな人でしょう」


 モモは確かに、容姿端麗です。

 悔しいけれど、私ではとても及ばないほど。

 ですが────


「あの女の”本性”に気づいた時、きっと後悔するでしょうね」


 モモには隠された本性がありますの。

 それはお父様やお母様、それにモモの近しい人でも気づいていない。

 私以外の全員が、気づけていないほどの。


「本性に気づくのは、おそらく2~3日後ですわね」


 口角が上がってしまいますわ。

 私を捨てた人が絶望に佇む姿を想起するのは、至極愉快ですもの。


「サチア!!」


「あら、お父様ごきげんよう」


 私が紅茶を嗜んでいますと、突然私の名前を呼ぶ人物が現れましたわ。

 お下品だと思いましたけれど、決して糾弾はしません。

 何故って、お父様ですもの。


「聞いたぞ!! 第二王子と婚約破棄してきたんだってな!!」 


「ええ。モモに奪われましたわ」


「よくやった!!」


 お父様は大木のように太い腕で、私を抱き上げてきます。

 粗暴な態度ではありますけれど、お父様は元々平民ですので仕方のないことですわ。


「俺は元々第二王子のことが、どうにも好きになれなかったんだ!」


「奇遇ですわね。私も同じですわ」


「国王陛下がどうしてもと懇願してくるから、仕方なくサチアに相談したが……」


「あの頃の私は愚かでしたわ。熟考せずに、二つ返事で”はい”と返事してしまうなんて」


「だが!! こうして婚約破棄をしてくれた!! 父さんはすこぶる嬉しいぞ!!」


「それは何よりですわ」


 お父様は私を掴んだまま、クルクルと回り出しましたわ。

 目が回ってしまうので、やめて欲しいのですけれど……。


「でも、モモが第二王子と婚約してしまいましたよ?」


「あの子は……仕方が無い」


「まさかお父様……モモの”秘密”を知っていますの?」


「……自分の娘のことだぞ? 知らないわけがないだろう」


 お父様も既に把握していたのですわね。

 てっきり、私だけが知っていることだと思っていましたわ。


「モモは……いつバレてしまうのでしょうね?」


「既にバレてしまっているかもな」


「それは……かわいそうですね」


「だが……あの子の選択だ。俺たちが口出しはできないだろう」


「……それもそうですわね」


 お父様は苦い表情をしていますわ。

 好かない第二王子と、秘密があるものの愛娘がくっついたのですから。

 複雑な心境でしょうね。


「お父様」


「ん?」


「……話くらいは聞きますわ」


「……助かる」


 お父様との夜のお茶会は、深く続きましたわ。

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