妹の方がかわいいからと婚約破棄されましたが、あとで後悔しても知りませんよ?

志鷹 志紀

第1話 婚約破棄

「すまない、キミのことを愛することができなくなった」


 私の婚約者である、ヴィルディ・ファレト・グリーンズ。

 緑色の髪と瞳、そして端正な容姿。

 この国の第二王子であり、国民からの人気も高い彼。


 そんな彼は私を謁見の間に連れてきて、そう告げた。


「つまり、婚約破棄ということですね。一応、理由を聞いてもよろしいですか?」


「キミの妹こそが、僕の運命の相手だったんだよ」


「私の妹……ですか?」


 私には、1人の妹がいます。

 しかし────


「そうですわ、お姉様」


 読んでいないのに、扉を開いてやってきたのは私の妹。

 絹のような金髪を靡かせ、白銀のドレスを纏い。

 輝くような笑顔で、王子の隣に向かっていきました。


「おお、来てくれたんだね。愛しのモモ・ルビシアよ!」


「もう、愛称で呼んで下さいよ!」


「ハッハハ! すまない、モモよ」


「もう、ヴェルディ様ったら」


「僕のことは”ヴェル”と呼んでおくれ!」


 芝居がかった、気色の悪い馴れ合い。

 元婚約者が実の妹とイチャイチャとしている様は、見ていて不愉快ですね。


「それにキミは、モモに日常的に嫌がらせをしているようじゃないか」


「……は?」


「とぼけても無駄だよ。キミの悪行はモモから全て、聞いているんだから」


 モモに視線を移すと────


「……なるほど」


 モモは悪いみを浮かべていました。

 なるほど、つまりモモは悲劇のヒロインぶるために、私にいじめられているというウソを吐いたのですね。


 なんとも、救い難い女です。

 我が妹ながら、感心するほどの醜悪さですね。


「本来であれば、僕の運命の相手をいじめたキミは極刑に処さなければならない。だけど、モモがキミの罪を許すと言ってくれているから、キミに罰を課しはしないよ」


「はぁ……」


「寛大な妹に感謝するんだね」


 なんて……なんて愚かなんでしょう。

 急激に自分の恋慕が冷めていくのを感じます。


「ちなみにヴェルディ殿下、モモとの馴れそめを聞いてもよろしいでしょうか?」


「ん、ああ。構わないさ。あれは数日前、僕の元にモモがやってきたんだ。それで────」


 王子から語られたのは、薄っぺらい話。

 自身の元へとやってきた妹に一目惚れしてしまい、そのまま婚約を結ぶことになったというだけの話を、仰々しく語っているだけという。


 元々話を盛る癖のある人だったけれど、恋を知ったことで更に重傷化しましたね。


「というわけで、サチア・ルビシアよ。キミと婚約破棄をしたいと思っている」


「ええ、私は構いませんけれど……あとで後悔しても知りませんよ?」


「ん、それは負け惜しみかな?」


「……では、ごきげんよう」


 私だけが知っている妹の秘密。

 それを知らずに、妹に恋をするなんて……愚かな人ですね。

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