別れない理由

だけど俺は、美奈子と別れるつもりはない。

理由は、簡単。

俺は、二人が仲が悪くなるいつかを待っているんだ!


「あっ!恭平、ここだね」

「行こうか」

「うん」


指輪を楽しそうに見つめる美奈子を見ながら、俺は3年前の出来事を思い出していた。


「ってか、藤村パイセンは空しくないんですか?だって、藤村パイセンの好きな人と親友が結婚しちゃったんでしょ?」


衛と六花の交際を打ち明けられた俺は、誰にも相談出来ず。

中学の野球部の先輩だった、藤村勇斗ふじむらはやとを呼び出していた。


「まあ。8年も前の話だよ」

「どうやって乗り越えたんすか?俺は、まだまだ無理そうなんで」


落ち込んで泣きそうな俺の背中を藤村先輩は叩く。


「乗り越えてなんかいないよ」

「えっ?」

「俺と希実のぞみは、不倫してる」

「は?」


ずっと誰にも言えなかったのだろう。

藤村先輩は、ビールを飲み干して言ったのだ。


「えっと、ちょっとどういう意味か?えっ?わからないんですが」


酒が入ってる俺は、困惑していた。

考えても、考えても……。

意味がわからなかった。

藤村先輩は、成瀬優子なるせゆうこさんと結婚している。


「実は、恭平に言ってなかったんだけど。優子は、大学からの希実の友人なんだ。……ひいたよな」


その言葉に俺の頭の中に浮かんだのは、【使える】だった。


「恭平?」

「藤村パイセン。それってどうやって付き合ったんですか?」

「えっ……あっ、それは希実が子供が産まれてからしょうを受け入れられなくなったみたいで。それを翔に会った時によく聞いてて。たまたま、みんなで集まろうってなった時に希実に聞いたんだよ。それから、レスの相談とか受けるようになって気づいたらって……」

「へぇーー。いつか、待ってたらそんな風になれるんですか……」

「これは、俺達の場合で。恭平と六花ちゃんは、そうならないかも知れないぞ」

「いいんです、いいんです。いつか、そんな日が来るかも知れないって思えるだけで……未来が楽しみじゃないですか」

「恭平……」


俺は、藤村先輩が教えてくれた話に興味が湧いた。

そして、【今】じゃなくても【いつか】そうなれる未来を見つけたのだ。


「恭平……恭平ってば、聞いてる?」

「あっ、ごめん。どうした?」


美奈子の声に、驚いた顔を向ける。


「どうしたの?ぼんやりして」

「ごめん。付き合った時の事を思い出してた」

「なに、それぇーー」


俺は、大嘘つきだ。

だけど、不思議と嘘をついても罪悪感が湧かない。

多分それは、美奈子を愛してないから……。


「このデザインがシンプルで、恭平の好みかなって思うんだけど、どうかな?」

「悪くないな!あっ、でもこれもいいかな」

「そっちも迷ってたの。ねぇーー。六花はどんなのにするの?」

「えっ?私。シンプルなのがいいよね、まもちゃん」

「だなーー。シンプルが一番だよ」


衛と見つめ合って嬉しそうに笑ってる。

普通なら、嫉妬したりするんだろうけど……。

そんな気持ちが湧かないのは、藤村先輩のお陰だ。

あの日、相談してよかった。


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