第4話 知らない九を数える
「――この度は、我々灰崎ゼミをこんな素敵なペンションにご招待いただきまして、ありがとうございます。
でも、本当によかったんですか?この人数を無料で宿泊させてくださるなんて」
「いやいやいや。こちらこそありがとうございます。
今シーズンはお客さんが少なくて寂しかったんで、来てもろて嬉しい限りです。それどころか、こんな美味しい朝食まで作ってもらえるなんて」
八畳くらいの明るいダイニング。お姫の誘われゼミ旅行に来ていたボク達は、八葦荘のオーナー、蜂屋さんと食卓を囲んでいた。
ペンションのオーナーと聞いていたから、もっと年上のおじさんを想像していたけれど、ボク達とそれほど変わらない年頃の男の人だった。まぁ、お姫先輩の同級生ということなので、そりゃ当然なのだけど。
いや、そのでも、そもそもお姫先輩は日頃からうさ耳カチューシャを被っているヤバい女だし、年齢とかそういうのはちょっとよくわからないというか――。
「ん?なになに?きつねち、なにかオレの悪口言った?」
じっとこちらを見つめるお姫先輩の黒い瞳。その圧にボクは思わず目をそらす。
何でこのゼミは察しのいい人ばっかりなんだよ。
「きつねさんは分かりやすいですからね」
卵焼きをつつきながら、足をぶらぶらさせるミサキさん。さっきまで全裸で走り回っていた彼女は、今は白いバスローブを着させられていた。隣に置いてあるぶどうジュースのグラスがとてもよく似合う。
……なんか旅行に来て、脱ぎ欲が強くなってません?
「いえ、ぼくはいつもどおりです。そもそもね、もっとみんなも全裸になるべきなんですよ。
肛門日光浴って健康法もあるでしょう。裸は健康に良いんです。それに生き物本来の姿なんですから、ね」
「え、いや、その。えっと、ボクは全裸はちょっと」
「というか、ぼくだけ全裸なのズルい。
みんなももっと積極的に脱ぐべき。きつねさん、まずはあなたです。
さぁ、一緒に新たな扉を開きましょう」
心は読むくせに、話を聞いてくれないミサキさん。こちらに迫る眼鏡の奥で丸い瞳がキラキラ輝く。
「わかるぅー♫いいですよね、全裸!
私も寝るときとか、たまにやります!」
知らない人が横からピョコっと顔を出した。くるくるの癖毛に、眠たそうな一重まぶた。その奥の暗い瞳がじっとこちらを見つめてくる。
びっくりしたボクとミサキさんが顔を見合わせていると、何を思ったのか、ニヤっと笑った。
「うへへへ、急に話しかけちゃってすみません。さっき楽しそうにされてるのをお見かけして、お近づきになりたいなって。あっ、私はもここに泊まってるんですよ。
私、九堂ヨウって言います!なにとぞよろしくお願いします!寝るとき以外は服着てます!」
ワケのわからない人が増えた。しかも、ミサキさんへの圧が妙に強くて、今度はミサキさんの方がドギマギしていた。
白兎と八葦荘の秘密〜灰崎ゼミreport.08〜 おくとりょう @n8osoeuta
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