第14話 刃に刻まれし草
「んん……? まあ何でもいいんだが、とにかくこの家宝の刀を受け取ってくれ!」
ウォルトの奇行を何でもいいで済ませるスルースキルと、木刀を刀と言い続けるメンタルを持った村の男。
その熱意に押され、ウォルトは木刀を受け取る。
「こ、これは……!」
受け取った途端、目を見開いて驚愕するウォルト。
「はははっ! やっぱり兄ちゃんほどの男なら触れただけでわかるんだな!」
「はい……! この木刀からは何か神聖な力を感じます。そこらへんの木を切り倒して加工しても、それは死んだ木の刀にしかならない。でも、この木刀はまるで生きているかのような……!」
「その通り! この家宝の刀はこの村の御神木から落ちた枝が素材になってる! まっ、刀に加工してなお神聖な力を失っていないのは、俺の木工職人としての腕前がいいってのもあるがな!」
「それはすごい! それほどの腕前があれば、王都に店を開いても通用するかもしれません」
「よせやい、よせやい! そんなにおだてても刀以外に渡せるもんはねぇぜ~!」
「そうそう、それくらいにしておきな」
ファムが男二人の会話に割って入る。
「セバン、あんたがこんな家宝を持っていたとはね。私は知らなかったよ」
セバンと呼ばれた村の男は「へへっ!」と照れ臭そうに笑う。
「まっ、家宝ってのは見せびらかすもんじゃないからなぁ! ファム婆さんにもバレてなかったとは光栄だねぇ! 兄ちゃんにも気に入ってもらえたようだし!」
セバンの言う通り、ウォルトは木刀を食い入るように見つめている。
そして、ポツリと一言つぶやいた。
「あの、
「ん? ああ、持ってるぜ。こう見えて
セバンは腰に巻いた仕事道具入れから彫刻刀を一本抜き取り、ウォルトに手渡した。
「彫刻刀にもいろいろ種類があるんだ。他のも出そうか?」
「いえ、これ一本あれば十分です」
ウォルトはそう言って木刀をテーブルの上に置く。
そして次の瞬間、手に持った彫刻刀で木刀の刃に当たる部分を彫り始めた!
それも目にも留まらぬ速さで……!
「な、なんて正確にして素早い彫刻なんだ……っ!?」
普段から木材を彫って商品を作っているセバンだからこそ、ウォルトの異常な
「なるほど、これもギフト【草】によってもたらされた技力値の高さの為せる
ファムは自分を納得させるようにうなずく。
五つの能力値の内、精神面の強さを表す『気力値』だけは草を食べても高めることは出来なかった。
しかし、手先の器用さや五感の鋭さを表す『技力値』は、フングラの樹海に群生していたキヨウ草などを食べることで極限まで高まっている。
「もうどこかの街で職人やって生きていけば良くない……?」
フロルは若干引き気味にそう言った。
だが、その視線は刃に刻まれていく
それから、時間してわずか数分――
「出来た……!」
工作を完成させた少年のようにキラキラした目で木刀を眺めるウォルト。
ただただ薄茶色の
刃先はまるで本物の刀のように波打つ
よく見るとそれはギザギザと鋭角で『wwwwww』のようにワロタグリフの連続となっていた。
刃先以外、刃の腹と言える部分には絡み合う無数の植物が描かれている。
とても一本の彫刻刀から数分で生み出されたものとは思えない繊細な文様だった。
「まるでフングラの樹海にあふれる暴力的なまでの生命力を刃に封じ込めたようだよ」
ファムはウォルトが刻んだ文様をそう
しかし……驚くにはまだ早かった。
「
刃に刻まれた『w』が鮮やかな緑に輝き、木刀を光が包み込む。
そして、絡み合う植物の文様がまるで本物の植物かのように色づいていく。
「この村の御神木から作られた木刀だからこそ、ワロタグリフへ伝わる俺の草エネルギーを余すことなく出力することが出来る……!」
今まで草の力を他者に分け与えるにはワロタグリフで
だが、この木刀は違う。
あらかじめ刃先に刻んでおいたワロタグリフから、いつでも草の力を出力することが出来る。
これにより、ウォルトのギフト【草】を用いた戦法に大きな幅が生まれることになる。
「ありがとうございます、セバンさん。今の俺にとってこの家宝の刀は最高の贈り物です」
ウォルトは彫刻刀をセバンに返却し、深々と頭を下げる。
だが、
「あ、あはは……喜んでもらえたようで何よりだ……! しかしながら、すさまじい手捌きで俺なんかが職人を名乗るのが恥ずかしくなっちまうなぁ……!」
自虐を述べるセバンに対し、ウォルトはきょとんとした顔をする。
「元の加工が良かったからこそ、木刀はその神聖な力を失わなかったんです。それはセバンさんの職人としての腕前が素晴らしいという証拠です。俺はその優れた下地の上に細工をしたに過ぎません」
それはウォルトの本心だった。
騎士道の何たるかを幼少の頃から叩き込まれていたからこそ、ウォルトは悪党の前でもない限り決しておごらず、他者への感謝の念を忘れない。
それは騎士道をウォルトに叩き込んだ父ノルマンが、とうの昔に忘れてしまった精神でもある。
「そ……そうかい? 兄ちゃんにそう言われちゃあ、弱音なんて吐いてる場合じゃねぇよな!」
笑顔を取り戻したセバンは、ウォルトが持つ木刀に注目する。
光が消えた後でも刃には鮮やかな緑色が残ったままで、そのまま持ち歩けば非常に目立つこと間違いなしだ。
「そうだ! 俺にその刀を収める
「そうですね……。では、お言葉に甘えて」
ウォルトは緑色の刃を持つ木刀を差し出す。
セバンはそれをおっかなびっくりといった様子で受け取った。
「大丈夫です。草の力を込めなければ普通の木刀ですよ。物だって斬れません」
「そりゃ安心だ……! じゃあ、完成まで数日待ってくれ! 見た目は地味でも、長く使える頑丈な鞘を作ってみせるさ!」
「お願いします、セバンさん」
ウォルトは頭を下げ、木刀を持ったセバンが宿から去る。
「えへへ……www! あんなにカッコいい刀が貰えるなんて俺は幸せ者です。刀の名前はそうだな……
木刀に興奮し、カッコいい名前を付けることが好き――ウォルトも中身はまだ14歳の男の子なのだ。
「ウォルトが刻んだ模様は綺麗でカッコよかったけど……名前を付ける必要ある?」
彼女はウォルトより少しお姉さん。ちょっと
「とりあえず、これでお前さんが村に
ファムがウォルトを寝泊まりする部屋へと案内しようとした時――
「待って、婆ちゃん……! 私、決めたよ!」
浮かない表情を浮かべていたフロルの顔がキリッと引き締まる。
普段通りの勝ち気な少女がそこにいた。
「えっと、私って悩み事を何日も持ちこして、うじうじ悩み続けるタイプじゃないの。だから、今ここで答えを言うよ。私はウォルトと一緒に王都に行きたい……行くっ!」
ドンと胸を張ったフロルの宣言に、ファムはにやりと笑みを浮かべる。
「よく言った、それでこそ私が育てた子だよ」
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