第79話「海底へと誘う」










※この辺りからしばらくバトルシーン多なります※



















 結局、知華子とは遊べないまま。

 途中から二人の世界を抜け出して、ようやく私達の所へ戻ってきた蛟達と合流して、なんだかんだはしゃいでいたら…気が付けば日も暮れかかっていた。

 知華子は終始不機嫌で…だけどそれは拗ねてる訳じゃなくて、単に人より日光に弱いせいで体調が良くなかったみたい。

 無理に連れてきて悪いことしたな…と思ったけど、夕方が近付いてきた頃からは、ひとりパチャパチャと波打ち際で水を蹴って密かに楽しんでいた。子供みたいなそれを眺めてるのは、ちょっとだけ気分が良かった。

 泳ぎながら誘っても来てはくれなかったけど、知華子なりに海を楽しめたみたいで何よりだ。ちなみにこっちに来なかったのは、泳げないかららしい。だから来れなかったと言った方が正しい。

 充分に遊び終えて、軽く片付けながら、「せっかくだから暗くなったら花火しよう」と提案してくれて買い出しへ出かけた蛟と愛乃先生を待つ。

 知華子と新亜と私。

 気まずくて三人とも黙り込みながら片付けを進める。新亜はパラソルを閉じて、知華子はある程度やることが済んだらさっさとひとりだけ着替えを持ってどこかへ消えた。


「知華子…」

「彼女が気になるの?」


 知華子の消えた方を眺めていたら、新亜がため息まじりに声を掛けてきた。


「あんなやつ、構わなくていいよ」

「…新亜はなんで、知華子にそんなに冷たいの?」


 投げかけた素朴な疑問に、分かりやすく不快感を露わにした新亜は、


「見ててムカつくからだよ」


 珍しく、吐き捨てるように暴言を吐いた。

 それがどんな気持ちで言われたのかは分からない。でも、新亜にとって知華子は虫唾が走るほど嫌いな存在な事は伝わった。

 そんなにも嫌ってそうなのに、新亜はいつまでも知華子を気にする私のため「僕が呼んでくるよ」としぶしぶ歩き出した。そういう優しさは、素直に凄いと思う。

 ただ、この時に犯した新亜の失敗は、私を一人にした事だった。


「ふぅ…暑いな」


 もうほとんど日は落ちていて薄暗いというのに、気温が高いせいで汗が滲んでくる。

 そこに涼しげな波の音が届いて、つい片付けていた手を止めて、少し涼もうと波打ち際まで向かった。

 冷たい海水が足に当たって気持ちいい。

 しばらくパチャパチャと軽く水面を蹴りながら楽しんでいたら、ふと異変に気が付く。


「なんだろう…?」


 海水に浸かっている自分の足の周りに、見慣れてるようで見慣れない何かが、ゆらゆらと近付いて来ていた。

 嫌な予感がした時には、もう遅い。


「っひ…!?」


 それが何かを理解する前に、それは私の足に絡みついて、勢いよく体を引っ張られた。そのまま海へ海へと引きずり込んでいく。

 倒れ込んだ体は、だんだんと海水に浸かっていった。


「っ…なんなの、もう!」


 必死で足を引っ張ってくるそれを剥がそうとしたけど、肌に吸い付くようにひっついていて離れそうもない。

 得体のしれない恐怖に襲われながら、目を凝らして水の中のそれを確認する。


「タコ…?」


 無数の吸盤と独特な色をしたそれは、タコの足のような形状をしていた。

 ただその大きさや太さは今まで見たことがないくらい大きい。それにまるで意思を持っているみたいに、私の体を海底へと無理やり連れて行こうとしていた。

 気が付けば海水は顎の下辺りまで来ていて、浅瀬を抜けたのか急に足も付かなくなる。そこに至るまでの時間は、僅か1分も経ってない。

 静かに捕らえられた私の危機に、知華子と新亜のふたりが気付いている様子もなかった。

 ついに海水が顔にかかって、タコの足は容赦なく私の体を海底へと引っ張ってくる。

 沈んでは海面から顔を出し、また沈む。それを何度か繰り返して、苦しくなって息ができなかった私はようやく大きく空気を吸い込むチャンスを得た。


「た…たすけ」


 助けを求める前に、今度こそ体は海の中へと沈んでいく。

 もうむりだ…そう諦めて意識が遠退いていった時、私の手を取ったのは…










 


 

 


 





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