第3話「儀式的な前戯」


























「気持ち良くなってきたら教えて」


 それだけ伝えて、早々に知華子は私の服を脱がせ始めた。

 初めのうちは肌を見られる事に対して少し緊張したけど、あまりに義務的で作業的な手付きで脱がされるもんだから、下着姿になった頃には「これは儀式」と割り切った。

 きっと他の人間ならヨダレを垂らして眺めるであろう私の肢体を、知華子は顔色一つ変えず眺める。私の体質が効かないのは、彼女が吸血鬼だからなのかな。

 変に興奮されるよりは気は楽だった。ただ、正直こんなムードも何もない状態で気分は萎える。

 それでも、ほんの少しくらいは気持ちいいかな…?なんて思いつつ、大半はくすぐったいだけの感覚に耐えた。


「いっ…たい!」


 体のあちこちを遠慮がちに撫でられて数分、様子見のためか首筋に牙を当てられて、その痛みに耐えかねた私は思わず目の前の顔をビンタしてしまった。


「……不感症?」

「し、失礼な。あんたが下手くそなんでしょ!」

「下手くそも何も、経験なんてないもの。仕方ないでしょ」


 こんなにも美人なのに経験ないんだ…なんてギャップに驚きつつ、それなら仕方ないかと変に納得してしまう。

 それでも、なんか…もっとこう…


「こういうのって…ムードが大事なんじゃないの」

「あら。意外と乙女なのね」

「ふ、普通だから」

「面倒ね…さっさと血を貰って寝たいんだけど」


 そういう所がムード無いって事を、きっとこの女は自覚せずに言ってるんだろう。ほとほと疲れたようにため息をついた。

 時計を見れば、もう時刻は深夜0時をとうに過ぎている。明日も学校…あんまり夜ふかしは出来ない。


「他に何か良い方法ないの?」

「あなたが痛みを我慢する。それが一番手っ取り早いわ」


 そんなこと言われても…我慢なんて出来そうもない。あの痛みを何度も味わうくらいなら、今すぐにでも処女を失った方がマシだ。


「まぁ…無理は良くないわね。今日は寝ましょ?」

「え、でもそれだと…」

「心配いらないわ。こんな事もあるだろうって、あなたの親からもうひとつ別の依頼を受けてるの」


 そんないくつも依頼を頼める仲なんて…一体、私の親と知華子はどんな関係なんだろう?


「別の依頼って?」


 疑問は一旦置いておいて、先に気になるワードを拾って質問する。


「護衛よ」

「……誰の?」

「あなたの」


 そんな大げさな…と思ったけど、15歳になってから身に降り掛かった数々の不幸達を思い出して、ひとり納得した。

 同時に、こんな細くて非力そうな知華子に護衛が務まるのかな…?なんて失礼な事も思った。身長は私より全然高めだけど、とても強そうには見えない。


「心配しないで。こう見えて、そこら辺の人間よりは頑丈よ」


 私の心の中を読んだみたいに、知華子が得意げに言う。そっか、吸血鬼だから普通の人間とは違うんだ…それなら安心かも。


「でも学校に行ってる間はどうするの?流石に校内には入れないでしょ?」

「……あなたと同じ学校の生徒よ、私」

「え?」

「学年も同じ1年生」


 その大人びた雰囲気から勝手に年上だと決め付けてたけど…まさかの同年代。

 驚いて言葉を失う私を不快に思ったのか、知華子は目を細めて睨んできた。これに関しては素直に私が悪い。


「さっさと寝るわよ」

「う、うん」

「そこで寝て」


 不機嫌になった知華子に促されて、床に敷かれた長座布団の上に寝転がる。知華子はベッドの上の布団へと潜っていった。

 いやここ…私の部屋なんだけど。

 数分してその事に気が付いたけど、あの鋭い眼光を思い出したら身震いして、小心者の私に言えるはずもなかった。


 

 


 

 







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