第45話 親友と最推し
もう一月下旬となっていた。七海が転校してきて四ヶ月くらい過ぎたのか。
七海もクラスに馴染む……というか、クラスが七海に馴染んでいた。
七海は今日も変わらず大勢の生徒に囲まれている。前からもそうだったが、アイドルに復帰してからかなり増えたな。
「相変わらずすっげえ人気だな」
「よし、楠七海が人気な理由ベスト千行くぞ」
「夜まで語る気かよ」
「明日のな」
「それに頷いたら本気でやってくるから怖いんだよ。……ちなみに一位は?」
「全部」
「一位で全部まかなってんじゃねえか」
それだと味気ないだろう、と言おうとした時――彼女の瞳がこちらを向く。
次の瞬間、七海がこちらに来ていた。生徒達に囲まれていたはずなのに。
え、今何の技使った? というか心の準備してなかったんだが?
「雪翔くん達は何の話してるの?」
「落ち着け……話しかけてくるのは分かってたはずだ……落ち着け俺。よし。……ンニャピゥッッッ」
「なんで一回落ち着いてから奇声上げてんだよ。つかいい加減慣れろ」
慣れる? 慣れる訳ないだろ。
……二人きりならまだギリ慣れそうかなーと思うこともあったりなかったり、やっぱりなかったりするが。だけど、他に居ると余計に気が張るものである。
「それで何の話してたの?」
「ほれみろ、楠ちゃんの方がお前に慣れてきたじゃねえか。……いつもの語りだ語り。こいつが楠ちゃんの人気な理由ベスト百発表するとかで」
「千だが?」
「絶対ドン引くだろうからって少なめにしておいた俺の気遣いを返せ」
ちなみ俺が【Sunlight hope】ファンだということもクラス……というか学校中に知れ渡ってきた。隠すつもりもなかったからな。自然と広まるものである。
とはいえ――そのせいで色々あったりもするが。
「なんであんな奴と……」
「あんな下心丸出しの奴に近づかないでよ七海ちゃん……」
「陰キャってすぐ女子のこと好きになるから……大丈夫かな」
「あ? おいお前らなんて言った?」
「俺より先にキレるな要。俺の事好きすぎんだろ」
特に最近、こういうのが増えたのである。わざわざ聞こえるように言う辺り確信犯だろう。
別にこれくらい無視すればいいんだけど、要がそういう訳にもいかなくなっている。
怒ってくれるのは嬉しいのだが……一切隠すことのないガチギレなのだ。
彼の肩を押さえながらどうにか場をとりなしたが、要は不満そうだ。要に敵が増えるのは俺的によろしくないのだ。
唯一の救いとしては要の味方も多いということか。
顔も良いし、性格も良いので友達が多いのだ。こういうところが好かれる理由なんだろうな。
しかし――そこに気を取られてしまい、俺は気づいていなかった。
「……ちょっと私も限界かな」
「……はい?」
「君たち、ちょっといい?」
すたすたと彼女は歩いて行く。呆気にとられたのは俺だけじゃなかったようで、教室がしんと静まりかえっていた。
「あんな奴、とか。下心丸出しとか。すぐ女子の事好きになるとか言ってたよね」
ぴしりと空気が固まる。ちょっとさすがにまずいと立ち上がろうとしたが、今度は逆に俺が要に止められた。
「少なくとも、君たちより私の方が雪翔くんのことを知ってるよ。……彼に何をされたの? あんな奴って呼ぶくらいだから何かあったんでしょ?」
「え、あ、いや、その……ない、です」
「じゃあ君は? 少なくとも私は、彼から積極的に体を見られたことはないって思ってるけど」
「そ、それは、七海ちゃんが気づいてないだけで」
「へえ? 誰よりも視線を意識しないといけない私が気づいてなかったって言うの? ちょっと傷つくかな、それは」
あ、やばい。本気でキレてる七海さん。
つい一句詠んでしまった。ちょっと
そして、七海さんが怒ってるのを隠そうともせずに三人目へと目を向ける。
「君に関しては言ってる意味が分からないよ。彼、私が会う前から私の事が大好きだったし」
「確かに」
「おいこら今確かにって言ったの誰だ。その通りだよこの野郎。初っぱなフラれてるの大勢に見られてただろうが」
つい口をついて出てしまった。言いながら思い出したが、そういえば俺七海に出会った日にフラれてたんだった。別に付き合いたいって言った訳じゃないけども。
そんなの覚えてる人いないだろうしな……なんで七海さんはじとっとした目をこっちに向けてくるんですか。
「……とにかく。私のたい……こほん。私の友達にそういう悪口は言わないで。気分が悪くなるから」
「は、はい……すみませんでした」
じっと七海が三人を見て、ビクリとした三人がこちらに向けて頭を下げてきた。それを見てやっと満足したのか、七海がこちらに戻ってくる。
……途中で凄い事言いそうになってなかった? 俺の気のせいだよね?
少し肝が冷えたが、周りは気づいて居なさそうだった。……俺の隣に居るこの男以外は。
「それじゃあお話の続きしよっか」
ニコリと笑う七海をじっと、要は何かを考え込むように見ていたのだった。
◆◇◆ side.七海
雪翔くんがお手洗いに行っている時、野田くんが話しかけてきた。
彼から話しかけてくるのは珍しい……どころか、初めてじゃないだろうか。
「なあ、楠ちゃん。放課後ちょっといいか」
「……? 野田くん?」
「そんなに時間は取らせない」
「えっと……分かった。私も用事があるからちょっとだけね」
「助かる、ありがとうな」
どうしたのだろうと思いながらも頷いた。
告白……を雪翔くんの親友である彼がしてくるとは思えない。何か雪翔くんに関する話だろうか。さっき彼に嫉妬していた人たちに怒ったからかな。
そんなことを考えながら、スマートフォンで雪翔くんに連絡を入れた。
◆◆◆
放課後はすぐに訪れた。授業中、こっそり雪翔くんの様子を見ていたから時間が早く過ぎたんだと思う。
雪翔くんは待ってる間、図書館で推し活するって言ってた。確かに放課後の図書館は空いてるけど……本当に彼らしいな。
そうして私は彼に言われた通り、屋上へ向かった。
どうやらここ、普段から鍵がついてないらしい。……この前先生に鍵が開いてるって話したんだけど、それは杞憂で扉は簡単に開いた。ちょっとだけ大丈夫なのか不安になったけど、頑丈なフェンスがあるからそういうこともあんまりなさそうだ。
フェンスの近くに野田くんがいた。スマホも触らず、じっと空を眺めている。
「……野田くん?」
「ああ、悪い。来たか」
よほど何かに意識を取られていたのだろう。扉が開く時に音が出たはずだけど、分からなかったらしい……というのは私が言えたことじゃないけど。
「それで、どうしたのかな?」
「一つ頼みたいことがあってな」
野田くんの雰囲気はいつもと違っていた。真面目で硬い。自然と私の背筋も伸びていた。
「その前に一つ聞いておきたいことがある。楠七海……いや」
私の名前を呼んで、しかし彼は首を振る。その次に紡がれた言葉は――
「
――私が想像していないものだった。
――――――――――――――――――――――
あとがき
展開的にすっごくあれな感じになってますが、要くんは雪翔くんが大好きなので七海ちゃんを脅すとかはしません。加えて今更となりますが、この作品にNTR的表現は一切出てきません。
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