第25話 SNSの使い方 side.楠、貴船

『ねえねえ見た!?【ぴょんぴょん】さん、彼女居るらしいよ!』

『あれはびっくりしたね。……彼が言うには恋人ではないようだけど』



 その日は霞と津海希の二人と通話をしていた。もちろん話題は【ぴょんぴょん】さんに関すること。



「恋人じゃない、って言ってたけど。これを機に仲良くなれば良いのにね」

『そうだね。……そういえば七海、ファン交流アカウントでリプライをしていたね』

「あれ、バレちゃってた」



 私にはファン交流用のアカウントがある。

 自分だとは明かさず、ファンのフリをしてファンの人と仲良くなるアカウントだ。


 普通に【楠七海】のサブアカウントとして使えば良いんじゃない? って最初は思ったけど、これはマネさんに提案されたことだ。



 ……交流するアカウントに偏りが出てきそうだから。一応別アカウントで、ということになったのだ。万が一バレた時のために、なるべくたくさんの人と交流するようにはしてるけど。


 それでも、どうしても【ぴょんぴょん】さんに話しかける回数は多くなる。今日もつい返信をしちゃってた。


 力になれれば良いな。幸せな人生を歩んで欲しいなという思いもあったし、他にも理由はあった。それは――



「最近彼から相談を受けてて、思い出しちゃってね」

『彼、というと』

『雪翔くんだね!』

「うん! ……雪翔くん、最近私の誕生日プレゼントのことで悩んでるみたいでさ」

『悩んでいる姿が重なった、と』

「そう!」


 現実世界では彼にアドバイスが出来なくて……ちょっとだけうずうずしちゃってた。だからついやっちゃったのだ。


 これで【ぴょんぴょん】さんが異性の友達ともっと仲良くなれば良いな。



『それにしても七海ちゃん、雪翔くんのこと大好きだねー!』

「そうだね。……津海希ちゃん!? い、今なんて言った!?」

『んふふー! やっと素直になったー!』

「ち、ちが、その、今ちょっと色々考えてて……そういうのじゃ…………ないから」



 どんどん顔に熱が集まってきて、肌に汗が滲んでく。


 否定しないといけないのに、出てきた声は凄く小さかった。



『ふふ、あんまり七海をいじめてはいけないよ、津海希』

『はーい! ごめんね、七海ちゃん』

「ち、違うからね? その、違うからね?」

『ふふ、分かってるよー!』

『大丈夫、ちゃんと分かってるから。ね?』

「絶対分かってない……」


 楽しそうにしている二人にほう、と熱の籠った息が漏れる。


 ……そういうのじゃないから。多分。


 ◆◆◆


 あれから少し話をして――霞が唐突にあっと何かを思い出したように声を上げた。



『そうだ、七海。彼と交流するのは良いんだけど、ぬいぐるみの件は削除しておいた方が良いよ』

「ん……? ぬいぐるみの件?」

『うん』


 なんのこと? と思ったけど、そういえばぴょんさんにそんな話を――



「あっ」

『気づいたみたいだね。そう。昔ぬいぐるみを貰ったこと、公表してないよ』


 霞の言葉にさあっと顔から血の気が引いていく。さっきまではあんなに熱くなっていたのに。



「け、消さなきゃ!」

『うん、そうしておいた方が良いよ。でも多分大丈夫。あんまり疑問に思ってる人も居ないようだし』

『【ぴょんぴょん】さん、自作のアクリルキーホルダーとかフィギュアも作ってるもんね! ぬいぐるみくらい作れても…………作れるの凄くない?』

『うん、凄いと思う』


 二人の言葉に頷きながら彼への返信を消す。多分これで大丈夫。


「ふう、良かった。……でもこれ、本人には言わない方がいいよね」

『そうだね。七海が七海だってバレてしまいかねないし』


 ……ごめんね、ぴょんぴょんさん。


 そう心の中で呟いた。


 いつか謝る機会があれば良いな。そう考えながらも頭を切り替える。これ以上気にしていたら二人が心配してしまう。



「そういえば最近【サイス】の子達が頑張ってるってね」

『ああ、そうみたいだよ。最近は忙しくて全然連絡も取れないんだけどね』

『またコラボ配信したいねー! 私も連絡取ろうとしてるけど、既読も付かないなー』

「あ、二人もそうだったんだ。私もそうなんだ。亜虹あこちゃんに連絡したんだけど、全然取らなくて」


 勢いづいているみたいだし、多分かなり忙しいんだと思う。


『落ち着いたらまたみんなでご飯でも食べに行きたいね!』

「うん!」

『……そうだね』


 復帰したらまたコラボ配信とかして……いつかはコラボ曲とか、コラボライブとかも出来たら良いな。




 ◆◇◆ side.貴船



「……はぁ」


 重い頭を解すようにこめかみを揉み、息を吐く。


 静かな部屋。彼女達を待ちながら、これからどう動くか改めて考える。



 理想通りにことが運べば、あの子達も傷つかなくて済むだろう。

 だけど、理想はあくまで理想。現実はそんなに甘くないということは痛いほど知っている。


 ……余計に頭が痛くなってしまったな。



「せめて、あの子が……あの子達が出来るだけ傷つかないように」


 私が願うのはそれだけ。……それが一番難しいんだけど。




 ――ガチャリ。




 扉が開き、そちらへと目を向ける。三人の美少女と、私と同じくらいの歳の女性。そして年配の男性が一人。


【サイス】のメンバーとそのマネージャー、プロデューサーだ。


「すまない。待たせたね。最近は忙しくて困ったものだ」

「いえいえ、お呼び立てしたのはこちらの方ですから」


 テーブルを挟んで五人は向こうに座る。こちらは一人。



「用件は?」

「……そうですね。お忙しいことでしょうし、手短にお伝えします」


 目を大人組二人から三人へと――その中でも、一人の少女へと移す。



【Silent spell】のリーダー。三神亜虹みかみあこ


 彼女は先程から一切表情を変えていない。……だけどその顔は汗ばんでいて、呼吸も浅くなっていた。



「【楠七海】のメールアドレスを流出させたのは君だね。亜虹あこちゃん」

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