第19話 【Sunlight hope】との出会い

「……さて、じゃあネタばらしと行こうか」


 そろそろ意識を手放そうかなと思うも、貴船さんがパンと手を叩いて意識を引き戻された。


「……? どうしたの? 鏡花きょうか

「いや、実は梨花りかにも隠していたことがあってね」

「ちょーーーーと待った。え、店長。貴船さんと知り合い!?」


 何ナチュラルに会話始めてんの!? それは良いとしてもなんでそんな仲良さげなの!?


 俺の言葉に店長がきょとんとした顔になった。



「え、だって私この子と従姉妹だし」

「……は? はぁぁぁぁぁあ!?」

「……ま、そりゃ驚くよね」

「私も今日聞いた時は驚いたかな」


 ちょ、は、え? 従姉妹?


 ……確かに美人なところとか似てる気がするけど。


「順を追って説明していこうか。そうだね。まずは彼について説明しよう」

「マネさん、それは私からするよ」

「そう? 分かった」


「……」



 店長がすっごく俺を見てきて……でも、話を聞いた方が良いと思ってくれてるのか何も言わなかった。



 そして――楠が俺のすぐ隣に立った。

 近い! 良い匂いする! 好き! と条件反射で叫んでしまいそうなくらい可愛い。



「えっと。二人にはよく話してたと思うけど」

「えっ、俺の話してたの? ……推しが推しに!?」

「うん。それで、彼がその雪翔くん。……私もかなり驚いてるよ。このお店って聞いて察してはいたけど、まさか本当に雪翔くんだったなんて」



 やばい。楠に紹介されてる。推しがめっちゃ見てくる。気絶したい。思考を放棄したい。



「とりあえず頭落ち着けたいから楠のここ好きポイント言って良い……?」

「そ、それはちょっと、恥ずかしい……かなぁ」

「ちょっと待って欲しいんだけど。え、神流くん、楠七海ちゃんと知り合いだったの?」


 そこで店長が聞いてきた。うん。これ櫛目くしめのことから話した方が良いやつだな。



 一旦整理を行うために店長に俺と楠の話をした。どこまで話して良いのか分からなかったけど、楠が全部話していた。



「……それで、凄く助けられてるんです。ご迷惑をお掛けして本当にすみません」

「それは良いんだけど……まさか櫛目ちゃんが七海ちゃんだったなんて。神流くんは情緒大丈夫なの?」

「今にも緊張で五臓六腑を吐き出しそうですよ」



 楠は……全然慣れてないけども、一兆歩譲って良いとして。今もそわそわとしてる霞ちゃんと津海希ちゃんが問題である。


「雪翔くん。この二人が――知ってるだろうけど、一応ね」

「初めまして。七海がいつも世話になっているみたいだね。私が不知火しらぬいかすみだ」

「初めまして! 七海ちゃんのこといつもありがとうね! 月形つきがた津海希つみきだよ!」

「〜〜」


 気がつけば俺は声にならない声を上げながら土下座をしていた。

 え、俺今どうやって土下座した? 数瞬の記憶ないんだけど。



「ど、どうしたんだい? 雪翔くん、いきなり土下座なんて」

「……たすけて要」

「あ、あはは。……雪翔くん、私もだけど、【Suh】のこと大好きだから。多分色々限界でこうなっちゃってるんだと思う」

「本当に七海ちゃんの言ってた通りだね!」


 前世の俺、何したんだろうな。地球を複数回救わないとこんな状況にはならないと思う。


「俺、もうこれからはこの体勢のまま過ごします。一生」

「それは困っちゃうな。今日はPOPの話とかしたかったんだけど」

「分身をしろ俺……! 土下座をする俺と話をする俺に分かれるんだ……!」

「そろそろ顔上げよっか、雪翔くん」

「あっはい」


 楠に言われてしまっては上げるしかない。土下座を解き、持っていたウェットティッシュで手を拭う。


「さて、それじゃあ経緯を――」

「その前に、一ついいかな」

「うん、いいよ」



 貴船さんの言葉を霞ちゃんが遮った。え、どうしたんだろう。

 てか霞ちゃんの声かっこよすぎる。鼓膜が嬉しくてタップダンス踊っちゃってるよ。



「雪翔くん」

「は、ひゃい!」

「ありがとう。七海を助けてくれて」

「――」


 手を、握られた。え? 手? なんで? 握手券……のくだりは楠の時にやったけどもう一回やっとく?



「君が居てくれたから、今の七海が居る。私やツミキでは出来なかったことだ。……だから、ありがとう。本当に」

「あ、津海希もお礼言う!」


 え、あ、その。待って。ちょっと俺の中の推しゲージがいっぱいになってきてるから。ちょっと待ってくれない? 待ってくれませんね。



 霞ちゃんから流れるように津海希ちゃんが手を握ってきてアッ――


「雪翔くん、ありがとうね。七海ちゃんは私のとっても……本当に、大切なお友達だから。助けてくれてありがとう」


 あーーーーーーーーーー! 好き! メンバー間での大切にされてるこの空気好き!


 泣いて良いかな!? いいよね!? 店長!



「突拍子もない行動はやめてね、神流くん」

「先手で釘を刺された!」



 泣きたいのに泣けない……あ、やばい。良い匂いがしてクラクラしてきた。



「……二人とも、雪翔くんに近いよ」

「ああ、ごめんごめん。男の子との距離感はよく分かっていなくてね」

「私達みんな女子校出身だもんねー! あ、七海ちゃんは今共学だっけ」


 さらっとすごいことが暴露されてる気がするけど。え、どうしよう。これ。この状況。


「……一旦爆発していい?」

「それは私が困っちゃうな」

「ぐぬぅ……」


 叫びたい。この押さえつけられたこの気持ちを。


「えーっと。とりあえず状況説明に戻って良いかな? 色々疑問はあるだろうし」

「あっ、はい。お願いします」



 どうして【Suh】がここに居るのか。俺がPOPを作った犯人だとバレていたのか。


 多分、この様子だと偶然も多く含まれてるだろうけど……ちょっと分からないことが多すぎたので、大人しく貴船さんからの説明を待ったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る