第23話 最推し生誕祭一ヶ月前

 最終的にPOPの呟きは三十万という拡散をされ、インプレッションは二億を超えた。


 特に海外からのアクセスがやばく、【Suh】のMVの再数が全体的に数十万、ものによっては数百万再生増えるということになった。



 うん、やばい。想定以上すぎる。それは貴船さんもそうだったらしく、ちょっと表では言えない額のお金を振り込まれそうになった。


 振り込まれそうになったものの、どうにか店長を通して断った。税金関係はめんどくさいのだ。結局お金を貰ったとしても【Suh】に還元することになるし。



 しかし、POPの件があっても日常は変わらない。あれからも変わらず楠に毎日好きだと伝えてるし、休日は楠の家に行っている。


【Suh】は新曲の発表もした。霞ちゃんとツミキちゃん二人での新曲だ。


 二人での新曲ということで、色々な意見が出そうになったが……公式から『楠七海が復帰したときは、色々な組み合わせでの新曲を発表する予定です』と報告があって、より盛り上がる結果となった。運営が凄く上手くて助かる。




 そして――楠が転校してきてから大体一ヶ月半が過ぎた。


 十月も半ばに差し掛かって来た頃、とあることに気づく。



「……残り一ヶ月か」

「何がだ?」

「十一月十五日が楠七海生誕祭なんだよ」

「ん? おお、そういや去年もこの時期になったらソワソワしてたな。受験期だったってのに」

「受験より推しの生誕祭の方が大事だし」

「……実際この高校来れてるから何も言わねえけどよ」


 これでも勉強はしてたからな。



 それは良いとして。楠七海生誕祭が近くなってきたということは……そろそろ公式からプレゼントに関するアナウンスが出る頃だ。



【Suh】へのプレゼントは基本受け付けてない。手作りお菓子はもちろん、ぬいぐるみ等の物も。理由はもちろん、異物混入やストーカー紛いの被害が起こるかもしれないからだな。



 しかし、誕生日は別だ。その日だけ特別に受け付けられたりする。運営によるかなり厳重なチェックはあるけども。



 ぬいぐるみなんかは中の方まで見られ、カメラや盗聴器、その他危険物が付けられていないか厳重にチェックをされる。……あんまりぬいぐるみのプレゼントとかはないらしいが。



 それでも手作りの料理や開封済みのお菓子、個人商店や食品店からの料理やお菓子などは届けられない。……店主と送り主が知り合いで、中に色々混ぜられる可能性を考慮してのことらしい。


 スタッフが最初の一口目を食べる決まりになっていて、一回その時に見つけたとか。


 それからは全国に複数の店舗を構える有名店や【Suh】の事務所が指定したお店の食べ物以外受け付けなくなった。



「今年はクラスメイトだし、いろんなの渡せるんじゃね?」

「馬鹿言え。それは迷惑でしかないだろ」

「そんなことないけどね」

「トュルッピッ」

「お前って鳴き声のバリエーション多いよな」



 気がつくと後ろに最推しが居て……って俺、そろそろ推しの気配ぐらい掴めるようになれよ。



「やっほ、二人とも」

「よっす楠ちゃん。今こいつから楠ちゃんが来月誕生日ってこと聞いてな」

「ふふ、そうなんだ。……今年はちょっと申し訳ないな。この時期は活動してないのに祝って貰えるなんて」

「俺は百年後も楠の誕生日ケーキ買って部屋で写真SNSに上げながら過ごすつもりだが?」

「糖尿病まっしぐらだなそりゃ」



 例え楠が引退したとしても俺は祝うぞ。縁起でもないので言葉にはしないけど。



「ありがと。雪翔くんは去年、どんなプレゼントをしてくれたのかな」

「……えっと。楠が好きそうなやつです」

「そうなるとお菓子系かな?」

「これ以上はファンバレしかねないので! 一応ちゃんと去年は楠のお礼がSNSと手紙でちゃんと来てたから!」



 楠はちゃんとSNS、そして手紙を返してお礼を伝えてくれた。ファンレターに返事をしてくれるめちゃくちゃ真面目な子なのである。好き。結婚して。



「そっか。じゃあ今年は手渡しで貰えるの、楽しみにしてるね」

「……要。内臓っていくらで売れるか知ってるか?」

「何をプレゼントするつもりだよ怖ぇよ」


 さすがに冗談である。そんなことしたら楠が悲しむだろうし。



「ちゃんとお返しはするからね。雪翔くんの誕生日はいつなのかな?」

「……誕生日なんて俺にあったかな」

「あるだろうが。一月十五日だろお前」


 それとなく流すつもりだったのにめちゃくちゃバラされてしまった。え、待って。推しからプレゼントなんてされたら俺死んじゃう。魂抜けちゃう。



「私の誕生日から丁度二ヶ月後だね、分かった」

「いやあの、ほんとにもう、言葉だけで昇天するくらい嬉しいんで」

「色々考えてみるね。……誕生日も楽しみにしてるね?」

「あの、ちょっ」



 それだけ言い残して楠は行ってしまった。



「やっぱお前ら仲良くなってね?」

「俺、じゃなくて皆な。一ヶ月以上も経ったらそりゃ仲良くなるだろ」



 そう言って誤魔化しながらスマホでカレンダーを確認する。



 ……十一月十五日、土曜日かぁ。ファンとしてのプレゼントはもう考えてるんだけど、どうしようかなぁ。



「それにしちゃなんか――」

「それより要。相談に乗ってくれ。楠に何をプレゼントすれば良いと思う?」



 誤魔化しきれなかったので無理やり話を変える。多少怪しまれるだろうけど、無視だ無視。バレるよりは全然良い。



「俺よりお前の方が楠ちゃんのこと知ってんだろ。なんか欲しいとかラジオで言ってなかったのか?」

「洗剤ボディソープシャンプーの種類は知ってる」

「ちょっとその言い方はキモイからやめろ。……消耗品は無難だろうけど、他になかったのか? なんかインパクトありそうなやつ」



 他に……インパクトあるやつかぁ。


「楠が欲しがっててインパクトがあるやつ……元々あんまり物欲とか見せないんだよなぁ」

「んー、そうなりゃ探るしかねえか」

「よし、頼んだ要」

「お前がやれ。俺がやってもどうせバレるだけで意味ねえだろ」


 うーむ……やっぱりサプライズ感は大事か。


 どうしようかなと要に相談を続けていると、すぐに時間は過ぎていったのだった。



 ◆◆◆


「……店長に一つ聞きたいことがあるんですけど」

「すっごい不服そうにどうしたんだい? 美の秘訣かい?」

「興味ないですね」


 すぐ話を脱線させようとするんだからこの人は。


「……誕生日プレゼントを友達にあげようと思ってるんですが」

「櫛目ちゃんかい!?」

「食いつき方が餌を待つ鯉と同レベル。……そうなんですけども」


 食いつきが良いということは相談に乗ってくれやすそうである。店長はこう言いながらも楠だと知ってるし。


「女子って何を貰えば喜びますかね」

「誰でも喜ぶのはお金だね」

「夢も希望もない」

「さすがに冗談だよ」


 くつくつと笑う店長。こっそり【Suh】コーナー拡張してやろうかな。


 しかし、お金はないだろう。そもそもそこまで困ってないと思うし。ドン引きするだろうな。



「無難なところだと有名店のケーキとかお菓子系だね。甘い物が苦手な女の子はあんまり居ないだろうけど、櫛目ちゃんはどうかな?」

「好きですね」


 お菓子系のプレゼントも喜んでた記憶である。


 それにしてもケーキか……プレゼントだと生ものはダメだし、悪くないな。


「あ、それかデートに誘うなんてどうだい?」

「却下で」

「無理かな?」

「……そうですね」


 身バレが怖い、いや、バレることもないと思うんだけど。兆が一バレたら大変なことになる。


 たまには外で、と思わなくもないけど……いやいやいやいや。推しとデートとかおこがましすぎる。


「……ほんの少しだけ考えておきます」

「うんうん、そうすると良いよ。学生デートは学生のうちにしか出来ないからね」

「店長はしたことあるんですか?」

「神流くん、給料半分カットね」

「横暴がすぎる」


 といういつものやりとりを交えつつ、色々と聞いた。


 あと一ヶ月。ちゃんと考えないとな。

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