第15話 れっつごー推しハウス! With???
「神流くん、POPの件は順調かな?」
「あ、はい。来週中には完成するかと」
さあさあ休日はアルバイト。推し活のためにお金を稼ぐ時間だ。
「良かった、ありがとう。案件みたいなものだから、お給料とは別でボーナスも振り込んでおくからね」
「税金関係がめんどくさいのでその辺も混みでお願いします」
「大丈夫。その辺も考えてシフト調整するつもりだから」
「あざっす!」
所得税とかそういうのは考えたくない。一番良くないのはあの人に迷惑が掛かることだし、面倒事はNGである。
「あ、そうそう。あの子とは良い感じなの?」
「はい?」
店長の言葉に聞き返してしまう。
あの子って誰?
「ほら、この前来てた……」
「ん? ああ、く……あの人のことですね」
あっぶね。名字呼ぶところだった。多分言ったところで別の楠さんだと思われるだろうけど。
「やっと君にも春が来たようで安心したよ」
「そういうのじゃないんで。友達……友達でいいのか?」
最推しを友達扱いして良いのだろうか。……とりあえず友達ということにしておこう。
「そういう感じの友達です」
「友達、ねえ?」
「ニヤニヤしないでください。訴えますよ」
「私の笑顔が見るに堪えないから訴えるだって!?」
「そこまで言ってないです」
やっぱり楠だと気づかれてないな。……というか、あれを楠って認識出来る人は本当に居ないと思う。
「お、噂をすれば」
「その手には引っかかりませんよ」
「ほんとだって」
楠はまだ来ないはずだ。バイトが終わるまであと三十分あるし。店長も平気でこうした嘘をつくのだ。手招きまでしてわざとらし――
「えっと。こんばんわ?」
「ヌジュレピッッッ」
こ、この普段より凄くか細いけど体育館の端から端まで届きそうなほどよく通る声は……
「くっっっっ、え!? な、なんで?」
「えっと、その……来ちゃった」
「ンッッッッッッ」
そこには楠(図書委員Ver)が居た。
え、照れてほっぺかく仕草かわいっっっ! 推すぞ!? 最推しなのにもっと推すぞ!?
てか来ちゃったって何? そんな可愛い言葉ある?
可愛い言葉を可愛い子が言うのってもう最強だろ。鬼に金棒を楠が来ちゃったに変えるべきだろ。日本語が楠に合わせるべきだろ(過激派)
「やあ、神流くんのお友達……前から思ってたけど、すっごく綺麗な声だね? 私はここの店長をしてる
「え、えっと、ありがとうございます。くす…………く、
「ははっ。若い子に言われると照れちゃうな」
確かに見た目だけ見ると店長は綺麗である。そういや昔はモデルやってたとか言ってたな。
そんなことはどうでも良いとして、楠の偽名は
でも、なんで店長も手招きして呼んだんだよ。という意思を込めて見ると、答えが返ってきた。
「つい気になっちゃってね。君の友達と言えば彼しか居なかったし……やっぱり最近君が遅れてるのってそうなの?」
「ちが――」
「は、はい! ごめんなさい。放課後はいつも彼を借りてて」
否定しようとした俺を遮るように楠が言った。……気にしてたんだろうな。
「私が彼を頼ってしまって……雪翔くんは優しいから、引き受けてくれて。本当にごめんなさい」
「おお……そんなに謝られるとこっちもすっごい罪悪感が」
さすがに楠相手だと店長もたじたじになっている。いや、楠が楠だとは気づいてないだろうけども。
「私が言うのもなんだけど、そんなに気にしなくていいよ?」
「で、でも……」
「幸い他にもバイト生は居るからね。代わりにシフト入ってくれる子も彼が見つけたし。バズるPOPとか、彼にしか出来ないこともあるけど――」
「店長」
「ごめんごめん、ちょっと口が滑った」
楠がん? と可愛い声を上げている。こういうの好き。
それはそれとして、俺がPOPを作っているのは内緒である。ほぼ確実に突撃されるし。
【Sunlight hope】がバズるのは良いんだけど、俺自身がバズるのは嫌なのだ。メインはあくまで【Suh】である。あと、お店に迷惑掛かるかもしれないし。
「何にせよ、神流くんも頑張ってくれてる。これくらいで責めるほど私も子供じゃないよ。なんせ、あんなに彼に頼み込まれたら断れないし」
「……ありがとう、ございます。雪翔くんも」
「俺は俺のやりたいようにやってるだけだから」
こちらを見てニヤニヤとする店長。余計なことは言わないで欲しいんだけども。
「あ、ご、ごめんなさい! お仕事の邪魔して! ……じゃあ時間になるまで色々見てくるね」
「分かった」
小さく手を振る楠。こういう仕草、ほんと似合うんだよな。
「可愛い子だね、君の彼女」
「POPに縦読みで『店長がセクハラしてくる』って入れますよ」
「ごめんごめん。ちょっと最近本当にこういうのシャレにならない炎上の仕方するから許して」
はぁとやっとため息を吐いて、俺は作業に戻った……のだが。
時折楠と目が合ってニコリと微笑まれ、今日だけで多分残りの寿命が五年になるまで縮まったと思う。
◆◆◆
「二度目の推しハウス……」
「今日もお父さんとお母さんは居ないから安心してね」
「そういうこと言わないで。ドキドキしちゃうから」
「あ、でも途中で人来るかも」
「えっ」
人?
誰?
え?
「多分もうすぐ……あ、もう来てるみたい。合鍵渡してるから」
えっ、どうしよういきなり脳破壊展開とか来たら。……いや、それはないか。彼氏とか居たら俺の存在価値なくなっちゃうし。
「ちょっと待って、えっ、誰? 凄く凄く怖いんだけど」
「そんなに怖がらなくて大丈夫だよ」
「誰なのか教えてくれませんか!? 不安が爆発しちゃいそうなんですが!?」
しかし、敢えてなのか楠は教えてくれない。すっごい意地悪な顔してる。
楠に意地悪をされるってそれはご褒美と呼べるのでは……?
そんなことを考えている間に、楠が一切躊躇うことなく扉を開けた。
「ただいま」
「……オジャマシマス」
「ふふ、声小さいよ雪翔くん」
やっぱり俺今からでも帰った方が良いんじゃない? とか思いつつも――
「おかえりー!」
奥から聞こえてきた声に背筋が伸びすぎてエビみたいになってしまった。
そして、現れたのは――えっ、誰この綺麗な人。
「おかえり、七海ちゃん。それで君が――雪翔くん、だね?」
どこかミステリアスな雰囲気を持つ美女。本当にどなたでしょうか?
「雪翔くん、紹介するね。この人が私の……というか、【Suh】のマネージャーをしている
「え゛っ」
ま、マネージャー? マネージャーってあの? まじ?
「初めまして。七海ちゃんから話はよく聞いてるよ。よろしくね」
脳内処理が追いつくより前に、その美女がパチリとウインクをして手を差し出してきたのだった。
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