第16話 ヒロキくん
チューハイを飲みながら、桃花と舞に合コンの話をあれこれと聞き出しているうちに(佐々木が二人から「紳士的」「会話もスマート」「大人の魅力」などと評されているのを聞いて、相変わらず完璧にネコかぶっていることに大爆笑してしまった)、いつのまにかリビングで寝てしまっていたらしい。
静かに玄関のドアが開く音がして、私は目が覚めた。
ドアの隙間から、するりとサクラが入ってくる気配がする。うっすら目を開けてその姿を確認すると、私は寝ぼけながらもホッと息をついた。
――よかった。無事だった。
「おはよ。おかえり、サクラ」
声をかけると、靴を脱いでいたサクラの背中がビクリと震える。
「あー、サクラ帰ってきたんだぁ」
「珍しいね、朝帰り」
桃花と舞も、目をこすりながら体を起こす。サクラは玄関に座り込んだまま、なかなか立ち上がらない。
「――サクラ?」
不審に思って再度声をかけると、サクラがゆっくりと振り返った。
その頬は、これ以上ないくらい赤くなっていて……――化粧の落ちかけた目元には、うっすら涙が浮かんでいる。
私は一瞬で眠気が吹き飛んだ。
「何があったの!?」
あわてて玄関に駆け付けると、サクラは「だ、大丈夫……」とかすれた声で答える。
「えっ、サクラ、どうしたの?」
「あのあと、何かあったの……?」
桃花と舞も、普通でない様子のサクラを見て、あわてたように起き上がる。サクラはしばらくうつむいていたが――少しずつ、話し出した。
それは、普段のサクラからは想像もつかないような、“とんでもないことをやらかした話”だった。
=====
◆SIDE:松本サクラ
『じゃあ……ホテル、くる?』
居酒屋を出ると、ヒロキさんは私の手を引いて、無言で歩き出した。
てっきり繁華街のラブホテルか彼の家に行くのかと思ったが、ヒロキさんは迷いなく近くのビジネスホテルに入っていった。その慣れた足取りを見て、やっぱりこの人は見た目の印象とは違う人なんだ、と実感する。
私の手を引っ張るようにして握りしめる彼の手のひらは、驚くほど熱い。私はその熱を、必死で握り返す。
いつの間にチェックインしたのか、フロントを素通りして客室に直行し、ドアの鍵を閉めると、ヒロキさんは真剣な目で私を見つめて深く息を吐いた。
「……ほんまに、ええんやな?」
「はい。お願いします」
私の答えを聞くや否や、彼の熱い唇が私の唇をとらえた。
「…っふ……」
唇をついばむようなキスのあと、びっくりするくらい熱い舌が入ってきて、私の歯をなぞり、上あごを擦る。彼の両手がしっかり私の顔を捕まえて、耳元を親指が優しくなでる。そのすべてが、ゾクゾクするくらい気持ちよかった。
「ふ……んっ…」
思わず膝から力が抜けて崩れ落ちそうになるのを、ヒロキさんの手がしっかりと支えてくれた。
固く閉じていたまぶたをそっと開くと、ヒロキさんがたとえようもなく優しい目で私を見ていた。――私のことを好きなんじゃないかと、勘違いしてしまうほど、甘く優しい目つきで。
そしてまた、深くキスされる。彼の手が、服の上から私の胸を柔らかく撫でた。それだけでも肩がピクリと反応してしまう。
「…かわいすぎ」
耳元でささやいて、またキスされる。スカートの中に手を入れられて、ストッキングの上から太ももをかすめるように触られて、思わず身をよじってしまう。すると彼の硬くなった部分に膝が当たってしまい、思わず身を引いた。
「あっ……」
「ベッドいこ」
興奮でキラキラと目を輝かせながら、ヒロキさんが私をベッドに引っ張っていく。私はつまずきながらベッドに押し倒された。
またキスされて、そして余裕のない手つきでヒロキさんが私のコートとジャケットを脱がせていく。
「あ、あの、シャワー…」
「そんなん後や」
「あっ……」
起き上がろうとする私の肩を優しく押し戻して、ヒロキさんはキスを続ける。もどかしそうにネクタイをゆるめて、シャツのボタンを外す彼を見上げると、私も興奮して頭がぼーっとしてきた。いつの間にか私のシャツも脱がされていて、下着のホックを外される。
「あ、ちょ、ちょっと待って…」
「ん? どした?」
「いや、あの、私……胸ちっちゃいから…」
コンプレックスのひとつである胸を見られるのが嫌で、康太とするときは基本的に上着を着たまましていた。
もしかしたら、色気のない胸を見てヒロキさんのやる気が萎えてしまうかもしれない。そう思うと、胸を隠す手にますます力がこもる。
「アハハ、そうなんや」
頑なに胸を見せまいとする私を見て、ヒロキさんはなぜか、ものすごくうれしそうに笑った。そして、私の額にやさしくキスを落とす。
「そっか、それがコンプレックスなんやな」
「…そうなんです」
「でも俺は、おっきいおっぱいが見たいわけちゃうねん。サクラさんのおっぱいが見たい」
彼の指がすっと首筋を撫でで、鎖骨を通り、私の胸元まで下りてくる。熱くなった下半身を、太ももに押し付けられる。
「見せて」
酔っているせいなのか、ヒロキさんの手つきや目があまりに優しいからなのか、私は抵抗する気が消えて、ゆっくりと手を下ろしていった。それでも、羞恥心に思わず指が震えてしまう。ヒロキさんはうれしそうに、私の胸元にキスをした。
「めっちゃきれい。見せてくれてありがとう」
……――ダメだ、私、この人のことを好きになってしまう。
康太のことも、エミリちゃんのことも、もはやすべてどうでもよくなっていた。この人に、抱かれたい。
私はぎゅっと彼の首元に抱きついた。ヒロキさんが、間髪入れずに強く抱き返してくれる。ものすごく安心した。
「触らして」
耳元で低い声でささやかれ、反射的にビクッと反応すると、ヒロキさんはおかしそうに笑う。そして、私のお世辞にも大きいと言えない胸にそっと指をはわせ、優しく愛撫していった。
「あ……」
「ココ、ちっちゃくて可愛い…」
転がすように固くとがった先端を撫でられて、私はたまらず目をつぶる。
「んっ……!」
そのままソコにキスされて、敏感な部分をそっと舌で舐められた。ざらざらした舌の感触をダイレクトに感じて、思わず背中が浮く。
「あっ…はぁっ……」
私の反応を確かめながら、ヒロキさんの手がショーツをずらして、あそこの入り口へ分け入ってきた。気づかないうちに濡れてしまっていたのか、彼の指があふれた蜜を塗り広げるように、入り口を撫でる。
「濡れてる」
そう言ったヒロキさんはやっぱりとても嬉しそうで、私は彼の腕にしがみついた。ヒロキさんは子供をあやすように髪を撫でてくれて、それからまた深くキスをする。うっとりと舌を絡ませていると、彼の指が内側にぐぐっと侵入してきた。
「んんっ……!」
「痛い?」
気づかわしそうにヒロキさんが動きを止めて、私はあわてて首を振る。
「だ、大丈夫…!」
「無理せんで、ゆっくりしよ?」
安心させるように微笑んで見せて、ヒロキさんはそっと指を引き抜いた。そして、その指をペロリと舐める。想定外の出来事に、私はたまらず悲鳴を上げてしまう。
「ひぇぇぇぇ!!」
「うおっ、どした?」
「だめだめだめ! 汚いです!!」
必死で彼の指を掴むと、ヒロキさんはアハハとおかしそうに肩をゆすって笑った。
「汚くないよ。大丈夫」
「で、でも、舐めたら……ダメです…」
これ以上は無理というくらい、頬が熱くなっている。動揺する私をなだめるように、ヒロキさんは優しく私の髪を撫でてくれる。
「ダメじゃないよ。汚くないし」
「でも、でも、雑菌とか……」
「雑菌!」
彼はこらえきれないというふうに吹き出して、ゲラゲラ笑いだす。
「わ、笑いごとじゃないです!」
「ご、ごめ……いや、雑菌とくるとは」
涙を流して笑いながら、彼は見せつけるように再び指をペロリと舐めた。
「あ……」
「大丈夫やで、ほんまに。怖がらんで、俺に預けてみて」
ヒロキさんの、キラキラ輝く優しい茶色の瞳を見ていると、なんだか大丈夫、という気がしてくる。私はドキドキと高鳴る胸をおさえて、少しずつ体の力を抜いていく。
「ええ子や」
ヒロキさんはふわりと笑うと、いつの間に用意したのか、ゴムを取り出して自分のものに装着した。ちらりと見たそれは、凶暴なほどに大きくみえて、さっと目をそらす。
「あっ、見たなー? えっちぃ」
ヒロキさんがからかってきて、私は図らずも真っ赤になってしまう。
「だ、だって…」
「今から俺の、入れるからな」
ヒロキさんは言い聞かせるようにゆっくりとそう言って――私の頬に、キスを落とした。
ベッドに横たわって見上げるヒロキさんの額には、うっすらと汗が浮かんでいる。そんな汗の一粒一粒まで愛おしく見えてくるから――ベッドの上って、不思議だ。
目が合うと、ヒロキさんは私を安心させるようにちょっと微笑んでみせる。そして私たちは――ひとつになった。
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