第4話 まさかの下校

「せっかくだし……二人共、一緒に下校したら? じゃあね!」



 そう言うと志代は、成と喜奈子に背を向けて足を進めた。


「えっ?」

「……は?」


 共通の友達による提案を聞いて、成と喜奈子はポカンとしている。また志代からの予想外の言葉に、残された二人は困惑させられているのだ。


「あ……あまちゃんってば何でウチらを、一緒に帰らせようと……」

「とりあえず、プリント終わらせるぞ」

「ちょっ、あんたも少しは困れし!」

「うるさい。やれよ」

「……ちょいちょい荒れた瞬間あったけど、その基本的に冷めている感じムカつく……」

「なあ、もう文句をやめて早く座れよ」

「あーあー! いちいち言われなくても、ちゃんと分かってっからウチ!」

「ったく……」


 成はイライラしながら着席し、喜奈子と共に補習を再開した。


「……てゆーか、あんたさ」

「はぁ……。お前また喋るのかよ。そんな調子じゃ、全然プリント終わんねぇわ」

「なっ……!」


 呆れている喜奈子の様子を見て、また成はうるさくなりそうだ。


「何それケチ! ちょっとくらい聞いてくれても、いーじゃん!」

「悪いけど、お前の『ちょっと』は信用できねぇよ。話は終わってから聞くから、早くプリントを進めろ」

「は? それって……」

「一緒に帰るんだろ? だから、話は帰るときに聞く」

「……しれっと下校の約束? あんた要領いーねー」

「いや志代ちゃんが、お前と帰るのを勧めてくれたからだよ」

「はい出ましたぁ~、また謎のツンデレ風な台詞! 本当は志代ちゃん以外に友達がいない、淋しがり屋なくせに。カッコつけちゃって、バッカみたい! マジで素直じゃないんだから……。まっ、いーんだけどさ! 志代ちゃんに免じて、一緒に帰ってあげる! でも、その代わり! あんたウチの話、ちゃんと聞けよな~!」

「あたし、今プリント終わった」

「はあ~? 抜け駆けすんなし! あと無視もすんなし!」

「うっせんだよ、お前。早くやれよ」

「はいはい、やりますよー! どうしてもウチと帰りたい、あんたのためにやってあげますよーっ!」

「……いい加減、静かにしろよ……」

「ひっ!」


 プリントが進まず、口が止まらずの状態が長く続いたのか、もう喜奈子も限界が来て……いや越えてしまったのだろう。鬼の形相で成に向き合っている。


「……ふ、ふんっ! あんたって奴は、マジヤンキーなんだから!」

「……頑張れよな……」


 ビビっている成を見て申し訳ないと思ったのか、もう喜奈子の口調は優しくなっていた。そして、やっと成は黙って補習プリントに取りかかった。




「終わったぁ~!」

「じゃあ、あの箱にプリント入れてこい」


 プリントの空欄を全て埋めた成に、喜奈子は教卓を指差しながら説明した。教卓には箱が置いてあり、そこにプリントを入れたら提出となるのだ。


「っつーかさぁ……これ、めっちゃ緩くね? こんなんだったら、補習サボれたじゃんよウチら! 何で真面目にプリントやったし!」

「サボった場合、もっと大変なことになると思うぞ? それでも良かったのか?」

「えー? 大変なことって、例えば?」

「教科書、見ないで問題を解く……とか?」

「うわぁ~、それマジ無理!」

「ああ、そうだな。だから、きちんとやって正解だったんだよ」

「……」

「何だ、その顔?」

「あんたって、マジ変なヤンキー……」

「……あっそ。とりあえず、もう帰るぞ」

「うん」


 成の言葉を聞いて気分が良くない喜奈子であったが、面倒臭くなったので流したようだ。

 そして成と喜奈子は、一緒に下校することになった。


「そんで、何?」

「は?」

「お前、あたしに何か聞きたいことあったんだろ?」

「……ねぇ、あんたマジでヤンキーなの? ちょいちょい優しくて、ちょっとキモいんだけど」

「ほらほら、そんなことより質問しろよ」

「……あんたさぁ……どうして、あまちゃんと仲が良いの? あんたたち、どう見たって違うタイプの人間同士じゃん。謎だわ~」

「お前がそれ言うのかよ」

「……まあ確かに、ウチも人のこと言えないんだけどね……」

「何か丸くなったな、お前。しおらしくなってんじゃん」

「うっせーな! そんなの今は、どうでもいーじゃん! 早くウチの質問に答えろし!」

「あーあー、分かったよ。志代ちゃんは、あたしが初めて学校を休んだ日にノートを見せてくれたときから仲良くなったんだ」

「あ~! そっか、あんたサボり魔だもんねっ!」

「お前……人のこと、言えんのか? あたしが学校に来ている日、お前がいないこと結構あったぞ?」

「む~、でもウチあんたよりはマシじゃね? たまたまでしょ、それは!」

「はいはい。とにかく志代ちゃんは、あたしに対して最初から優しくてさ。こんな奴、誰も相手にしたくないはずなのに……」

「で、あんたは素直にノート受け取ったの? ツンデレなあんたのことだから『うっせぇんだよ! あたしに構うんじゃねぇよ!』とか言って、あまちゃんにノート投げ付けたりしたんじゃね?」

「お前バカか! するわけねぇだろ、そんなこと! 確かに優しくされて戸惑ったけど……きちんとありがとうって言って、見せてもらったよ」

「あっ、それも想像できるかも。あんた変なヤンキーだしね!」

「変なヤンキーって……」

「だって変わってんじゃん、あんた! 髪の毛プリンで見た目怖くて怒りっぽいくせに、結局は優しいんだからさ!」

「……逆に聞くけど、お前は何で志代ちゃんと友達になったんだよ?」

「えっ、ウチ? ウチはねー」


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