第3話 共通の友達

「あーあ。マジめんどくさ」

「お前なぁ……もうちょっと頑張れよ」

「だからさ~……何なんだし、その妙な優しさは」

「別に優しくしているつもりはねぇよ」

「うわ~。ウチあんたにツンデレなんか、ぜんっぜん求めてねーから!」

「ツンデレのつもりもない。勝手に決め付けんな」

「何それっ! ウチに勘違いさせる、あんたもあんたなんじゃないのー?」

「……本当に、しつけぇな……」


 成と喜奈子は言い争いをしながらも、教科書を見ながらプリントを進めている。すると、


「あっ、先生かな?」

「誰だろ……」


 ドアを叩く音が聞こえてきた。教室に入ってきたのは……。


「二人共、お疲れ様~」

「おお志代しよちゃんか」

「きゃ~っ! あまちゃ~んっ!」


 二人のクラスメートである、天田あまた志代だった。


「えっ?」

「は……?」


 成と喜奈子は同時に戸惑いの声を漏らし、お互い不思議そうに顔を見合わせた。そして、お互い「こいつ……友達いたのかよ」と思っていた。

 

「先生から聞いたよ~。二人共、今日は補習だって。プリントらしいね!」

「そーなのぉ~! もうやだぁ~、あまちゃん助けてよ~!」

「アハハ。頑張ってよ、成ちゃん」


 成は志代に抱き付いた。すると志代は、笑顔で成を励ます。


「……お前、距離感どうかしてんのか?」

「はあ? 何でよっ?」


 志代に抱き付く成を見て、喜奈子は黙っていられなかった。予想外の言葉を吐かれ、成の笑顔は消えた。志代も目を丸くしている。


「志代ちゃん……そういうノリが苦手なら、はっきり言ってやれ。こういう奴には自分の気持ちを、ぼかさずにストレートに伝えるべきだよ」

「ちょっと! それ何だし! あんた、まさかウチらの友情にヒビ入れる気? 自分の、一人だけの友達を取られたとか思ってんのかよ? クールぶっているくせにヤキモチとか、やめてくんね? あまちゃんしか仲良い子いないからってさぁ……そんな必死になんないでよ!」

「いちいち必死なのは、お前の方だろ? あたしは志代ちゃんが、お前のせいで嫌な気分になっていないか心配になっただけ」

「はい出ました~、十八番の屁理屈! 誰かのためにやっているようで、本当は自分のためにやっている卑怯者!」

「また決め付けられた……。というか、お前『十八番』って言葉……知ってんのかよ」

「はー? ウチのこと思いっきりバカにしてんね、あんた! 性格悪っ!」

「お前に性格悪いだなんて、言われたくない」

「あんたマジ何なの! 頭おかしいんじゃないのっ?」

「あー、それも言われたくねぇな……。お前も相当、頭おかしいから」

「ああ~っ! めちゃめちゃ腹立つ!」


 成と喜奈子が言い争いをしていると、


「……ふふっ」


 一つの笑い声が聞こえてきた。


「ちょっと、あまちゃん! どうして笑ってんだし! 何もおかしくねーじゃん!」

「志代ちゃん……ここまで笑うところ、あったか?」

「アハハハハハハハ!」


 成と喜奈子が戸惑い始めても、志代の笑い声は止まらない。むしろ大きくなっている。


「二人共、何だか気が合うみたいだね! 私、これまで二人が喋っているのを見たことないんだけど……お互い良い友達になりそう!」

「えっ?」

「は……?」


 志代の言葉を聞いた瞬間、成も喜奈子もポカンとしている。笑い続ける共通の友達の口から出たコメントは、二人にとって予想外のものであったからだ。


「実は私……今まで成ちゃんと喜奈子ちゃんが喋っていないのも、おかしいと思っていたんだよね! だって八木と楊で出席番号が近いのに、二人は全く会話していないんだもん! 私は逆に出席番号が、二人と遠いけど……」


 まともに成と喜奈子が会話をしたのは、今日が初めてであった。出席番号が近く、それ故に様々なことで関わりが多かった二人だが、これまでに挨拶もしたことがあったかどうかも分からない。


「じゃあ私、帰るね! この後、用事があるから」

「ええ~、一緒に帰ろうよ~!」

「おい」


 淋しそうにする成の耳を、喜奈子の低い声が刺激する。


「……何?」

「志代ちゃんに気を遣わせるの、やめろよ。志代ちゃん、急いでいるんだろ?」

「う、うん。本当は、もっと早く帰りたかったんだけど……先生に頼まれたことがあってね……」

「えっ、何そいつ~? ひっど! マジバカじゃねーの信じらんない! あまちゃん! そういうときは、はっきり嫌だって言いなよ!」

「そ、そうだね……」


 志代が面倒なことを押し付けられたと思い、成は教師に対して怒っている。すると、


「……お前も今、その先生と同じだろ? 急いでいる志代ちゃんに、一緒に帰ろうってワガママ言って……」

「なっ……!」


 すぐに喜奈子が成に指摘した。それによって、成の怒りの矛先は変わった模様。


「う、うっせーんだよ! そんな意地悪教師とウチを、一緒にすんじゃねーし!」

「志代ちゃんバイバイ。気を付けて」

「おい、無視すんなし!」

「う、うん! 二人共、頑張ってね! バイバイ!」

「あっ、あまちゃん! バイバーイ! ごめんね~!」

「全然気にしないで……あっ!」


 そこで、志代の足がピタッと止まった。「どうしたのー?」と成が言うと……。

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