第2話 失礼なのは、お互い様

「って、あーっ! ウチその教科書……今、持ってねーし! やっべー!」

「マジでいちいちうっせぇな、お前……。じゃあ貸すから、机くっつけろよ」

「……何か変なヤンキー……」

「そうか、お前は家に帰りたくないんだな?」

「あっ、やっぱヤンキーだ~。そのヤンキー特有の脅し、やめてくんね?」

「いや先に嫌なことを言ってきたの、お前だろうが……」

「とりあえず見せてくれるっつーなら、くっつけよ~っと♪」


 機嫌が良さそうに机を動かす成を見て、喜奈子は呆れながらも教科書を移動させた。これでプリントが進む「あんたってヤンキーのくせに優しいんだね~」わけがなかった。


「ってゆーか、優しいくせにヤンキー? ああ! そういや、かまってちゃんだっけ!」

「……教科書、見せてやんねぇぞ?」

「んも~! やっぱヤンキー!」

「いやだから、お前が先に……」

「っつーかさ」


 喜奈子と自分との間に位置する教科書を手でガッチリ抑えながら、成は話を続ける。


「あんた……教科書を持っているなんて、真面目じゃね?」

「は?」

「少なくとも、ウチよりは真面目っしょ~? 悪ぶってんじゃねーし」

「……」

「シカト~?」

「答えるの面倒臭い……。それより早くプリントやれよ……」

「そういえば、あんた友達いんの?」

「お前が言うのかよ、それ」

「なっ……!」


 プリントに取り組みながらも、喜奈子は成に言葉を返した。その答えはストレート且つ予想外なものであったため、成は目を丸くした。


「嫌なこと言うね、あんた!」


 喜奈子のカウンターが効いたのか、成は感情的になっている。


「お前が先に変なこと言ったんだろ。これ、何回も言わせんなよ」

「くっ……」

「ま、いるわけねぇか。さっきから失礼なこと、あたしに平気で言いまくっているんだからな……」

「そっ……それは、あんた限定だし!」

「どっちみち、あたしに対してはひでぇのな」

「そうだよ! もうそれでいーよっ!」

「開き直りかよ」

「はー? あんたこそ開き直って、一匹狼を気取ってんじゃんかよ! まっ、ウチはあんたよりマシ~。自分から、どんどん話しかけていくもんっ!」

「……結果は?」

「うん、かなり引かれているけどねっ! ウチに話しかけられたところで、ウザ絡みだと思っちゃうんだろーね! だけど、いーもん別に! ウチのこと分かんない子らなんかと、友達になったって意味ないし!」

「……友達になるのを拒まれているくせに、すげぇ偉そうだな」

「うるっさい! そういう風に思わなきゃ、やってらんねーんだよウチは!」

「……友達になってもらう努力はしねぇのかよ」

「努力~?」

「うっせーとことか直す気ねぇのか? それが原因で、お前は嫌われてんじゃねぇの? 人の気持ちを考えろよ。そんなにグイグイいかれたら、困る人間の方が多いだろ」

「ちょっと! 嫌われているは違くね? 苦手とは思われているかもだけど! マジ失礼だよね、あんた!」

「お前に失礼だよね、なんて言われたくねぇよ。お互い様だろうが」

「うわあ~! あんた、ウチに失礼なこと言っている自覚あったのかよ! それさぁ、ウチよりもタチ悪いんじゃね?」

「……」

「無視すんなし!」

「……いい加減、プリントやれよ」

「あっ、そうだった! やっべー」

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