ギャルヤン!~似て非なる彼女たち?~

卯野ましろ

第1話 ウチ、あんたとは違うから!

「あー! 居残りとかダルッ!」


 放課後、八木やぎなるは教室で怒っていた。


「何なんだよ、この黒板! 補習プリントを終わらせたら下校可って! ムカつく!」


 一人でギャンギャン吠える成。しかし、


「……あんたさぁ」


 この教室にいるのは、成だけではなかった。


「何?」

「せっかく同じ空間にいるんだから、ちょっとはウチの言葉に反応しろし!」


 ヒステリック気味な成をチラッと面倒臭そうに見たのは、クラスメートのやん喜奈子きなこである。


「つーか前から思っていたんだけど……何でウチは他人から、あんたと同類の扱いされんの? おかしくね?」

「知らん」

「知らっ……!」


 淡々とした喜奈子の返事に、成はヒートアップした模様。


「ちょっと! 何なのよっ、その態度! あんたのせいでウチ、周りからヤンキーだと思われているんだからねっ!」

「……は?」

「言っとくけどねぇっ! ウチはヤンキーじゃなくて、ギャルだから! あんたなんかと同類じゃねーし!」

「……こうして放課後に居残りさせられている時点で、似たような人間なんじゃねぇの? あたしだって、お前と似ていても別に嬉しくないけどさ」

「はあっ? 屁理屈やめろし! 本当は頭めっちゃ悪いくせに、こういうときにカッコつけてんじゃねーよ!」

「頭わりぃってのは、自分もだろうが」

「ううっ……。うるさーいっ! 黙れっ!」

「お前なぁ……。さっき自分の言葉に反応しろって、あたしに言ったくせに」

「っ! アアーッ! マジああ言えば、こう言う!」

「っつーか、お前がうっせんだよ。こっちは早く帰りてぇのに……。さっさとプリントやれ」

「ウ、ウチだって! ずーっとあんたなんかと同じ場所に、一緒にいるつもりないんだからね! だけどウチの話は……補習よりも何よりも、すごく大事なことだもんっ! ウチがあんたと同類なんて……絶対に違うし、嫌っ!」


 プリントと向き合う喜奈子とは違い、まだ成は話を続ける。


「つーか大体さぁ……周りの人らは不良って、ひとくくりにすんのマジやめて欲しいんだよね! ウチはギャル! そっちはヤンキー! 別にウチ、迷惑かけているつもりねーから! ただ自分が好きなことをしているだけだよ!」

「その化粧とか制服の着方とか……校則シカトしているっていうのは、迷惑かけているんじゃねぇのか?」

「……ふうぅ~ん?」


 喜奈子はプリントに手をつけながらも、成に言葉を返す。すると成の顔色が、コロッと変わった。


「……何だよ」


 成の変化に気付いた喜奈子は、気持ち悪いと感じて視点を変えた。


「あんた……ひねくれているくせに、誰かに迷惑かけている自覚あるんだ?」

「っ……!」

「はっはーん……図星だ♪」


 これまで喜奈子に言い返されてイライラしていた成だったが、あの冷めていた表情にやっと変化が出たので嬉しそうだ。


「そりゃそうだよね~。ウチの髪色はオシャレでやっているけど、あんたのプリン、マジでダサいもん! 分かるよ~。あんたが髪を染めたのは、かまってちゃんだからって。誰かに見て欲しいから、そんな髪色にっ……!」


 ここで「ガタッ」という音がしたのと、ほぼ同時に成の言葉が止まった。


「っせぇんだよ……」


 喜奈子が荒く起立し、成の胸ぐらを掴んだからである。あれだけ捲し立てていた成だったが、今では驚いて何も言えない様子。


「……悪い。でも、お前には関係のないことだろ」


 喜奈子はパッと手を放し、成を解放した。そして着席し、またプリントに取り組んだ。


「ふ、ふんっ! 謝るくらいなら、やってんじゃねーよ! マジ暴力反対!」


 ビビった自分が恥ずかしくなったのか、成はペースを戻そうと再び口を開いた。


「でも、めっちゃスッキリしたわ~。これでウチとあんたの違い、はっきりしちゃったね! ウチ真っ先に暴力とか、ぜってーやんないかんねっ!」

「随分と必死だな……」

「うっさい! いちいち余計なこと、言わないでよね!」

「お前が言うのかよ、それ」

「っつーか、あんた人間らしいとこあんじゃん! 急にスイッチ入ってムキになってさぁ……やっぱ本物のヤンキーは違うわ~」

「いや先につっかかってきたのは、そっちだったよな?」

「いちいちうっせーなマジで!」

「お前もだよ。早くプリントやれば? 教科書、見ても大丈夫だって書いてあるし」

「……ちょこちょこ優しい部分を見せてくるのが、何かキモい……」

「だから、いちいちうっせんだよ。黙ってやれ」

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