第2話 キスチャンス1回目、バレンタイン
まだ夢の中なのかもしれないが、24歳の私が、過去に戻って高2の生活をして1カ月が過ぎた。明日はバレンタインデー。そして、この日は初めて間宮とのキスチャンスが訪れた日だった。
バレンタインは本来、彼女と会う日。彼には中3から付き合っている彼女がいる。けどこの日、過去では間宮と私は夕方から会っている。なのにいまだ、間宮とは会う約束を取り付けていない。
(どうやって会うことになったんだっけ・・・。)
バレンタインの日に、キスしておけばよかった・・・という後悔は残っているが、具体的にどんな状況だったのかが、思い出せない。
放課後。彼女がいるくせに間宮はけっこうな数のチョコレートをもらっていた。後輩から、先輩から、同学年から。モテ過ぎだ。
「大量だね。」と私が言うと、間宮が大きな手を私の目の前につき出した。「雪乃のチョコは? くれよ」と催促された。
「なんで。彼女からもらいなさいよ。」
「今年も誰にも渡さないんだ。」
「今年もって、「も」って余計なんだけど。」
「彼女とはこれからデート?」
「そ。じゃーな。」
間宮はカバンにチョコレートを詰め込むと、足早に教室を出ていった。間宮の背中を見送りながら、やはり、どうやって、会うことになったのかが思い出せない。私は図書室に立ち寄って、本を借りてから家に向かった。わたしにとって2/14は、普通の日だ。
地元の駅に到着。改札を出ると、首に新しいマフラーを巻いている間宮がいた。
「なんで?」
「へへ。なんか、おごれよ。バレンタインなんだから。」
肩をすくめ、溜息をつきながら、駅の近くにあるカフェに間宮を連れて行く。
「バレンタインだから、おごってあげるわ。」
「サンキュー。」
間宮はメニューを見ながら「オムライスか、パスタか・・・」と悩んでいる。スイーツじゃないんだ。で、私は1つ、思い出したことがあった。このとき間宮は確か彼女と喧嘩したはずだ。喧嘩の詳細は知らんけど。
(確かに、2/14。めずらしく、彼が彼女のこと話していたっけ。)
「で、間宮。」
運ばれてきたカツカレーを頬張りながら「ん?」と顔を上げる。
「なんで、喧嘩したの?」
「おまえ、異能者かよ。」
「誰でもわかるわ。2/14で、デートだったんだよね。なぜ、ここにいる。」
「女心がわからないから、嫌いって言われた。」
「ははは、ド直球~。」
なんでも、彼女から手編みのマフラーをもらったそうなのだが、こだわったグラデーションっぽい色合いがちょい好みじゃないのと、首に巻くと、ちくちくするので、喜びが薄い感じが出てしまったらしい。
「受け取ったときのうすら笑いと、巻いたときの微妙な笑顔が彼女にカンに触ったということね。・・・演技へたか。」
「へただろう、役者じゃないんだし。無理だろう、俺に。まぁ、あとはそれだけじゃなくてさ・・・。雪乃に俺、誕プレでマフラーもらったでしょ。これ。」
間宮がカバンからマフラーを出した。
「彼女、これを気にしていたみたいで。」
喧嘩の原因、そういうことだったのか。まだ夢の中だと疑っているが、過去に戻って初めて知った。
「手編みの首輪に代えてほしかったんだね~。」
「変なこと、言うなよ。でもそういわれると、首輪だな。ははは」
カフェを出て、このあと歩き、ちょっと公園に寄るんだった。「くしょん、はくしょん!」大きなくしゃみ。間宮を見るとマフラーをしていない。「なんだか、かゆくて、巻くの辛い」という。
「とりあえず、今はちくちくしない、マフラーをしなさい。」と、間宮のカバンからはみ出ている既製品のマフラーを取り出し、間宮の首にかけ巻いた。間宮が少し体をかがめている。
あ!ここだ。キスチャンス!!!
このままマフラーの左右をくいっと、引き寄せれば唇が届く。くいっと? 間宮の顔が鼻さきが届くくらい近い距離にあった。このまま・・・"ちゅっ"と? 中身、24歳のくせに、できな~い。
寒さで間宮の頬も耳も赤くなっている。急いでマフラーをくるくるっと巻いて、間宮から離れた。
キスチャンス1回目、終了の鐘がなる。
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