好きな人と1度もキスをしたことがない。だから過去からやり直します。
saku
第1話 夢かもだけど、過去に戻った。
24歳、会社員。私の名前は神崎雪乃。私には心残りがある。それは17歳のとき、初めて本気で好きになった人がいて、キスをするチャンスが最低でも3回あったのに、逃したことだ。
高校生のとき好きだった彼の名は間宮圭人。身長も180cmと高く、背だけでも目立つのに、顔も整っている、いわゆるイケメンさんだった。
彼は同じ高校の同級生だった。高校の入学式で早くも意気投合し、高2で同じクラスになったときには一番仲が良い男子だった。周りからも「付き合っちゃえよ~」とからかわれるほど仲が良かったが、彼には中3から付き合っている彼女がいた。彼女は違う高校だった。彼女がいるのに、友達のふりして、仲よくするなんて、私は不届き者だ・・・
さて、高校のときの話し
高校の頃、よく間宮にお弁当のおかずを盗まれた。
「ちょーだいっ」
という声と同時に、私のお弁当の卵焼きが奪われる。
「人のお弁当、勝手につまみぐいしないでよ。」
「だって、雪乃の卵焼き、うまいから。彼氏ができないのが不思議だよな。」
「うるさいっ、自分が幸せだからって、押し付けないで。」
いつものやりとりに周囲もまたやっていると生暖かい目で見守っている。間宮は2つめの卵焼きに手を伸ばし口にほおばった。
「ねー、俺の弁当も作ってよ。自分の作っているんだから、ついでで。」
「やだよ、彼女の作ってもらってよ。」
間宮は「ちぇー」と笑いながら、ふて腐れたフリをする。
「あ、そうだ。明日の朝、俺1本、早い電車に乗るから。」
一通り、私との絡みが終わると彼は男子生徒たちのグループに戻っていく。間宮とは地元が近く、私が手前の駅で、彼がひとつ先の駅だった。だから毎朝、同じ車両に乗り合わせをしている。
「ねー、あんたたち、どうして付き合わないの?まぢで。」
よく、私の友達に言われた言葉だった。
私が彼を好きになったのは、受験の日だった。手に持っていたはずの受験票を落してしまい、慌てふためいていたところに、受験票を拾った彼が私に渡してくれたのだ。「お互い、頑張ろう」。そのときの彼の言葉と一緒に受け取った笑顔に、きゅんとなり、私だけが恋に落ちた。
間宮は本当は人見知りだ。でもそれを隠している。入学式で間宮と話せたのは私の受験票の件がきっかけだった。私が間宮を見つけてお礼を言うと「縁だね~。よろしく」となった。知り合いがいない入学式では、ささやかな顔見知りも安心感につながるものだ。のちに、間宮は「俺、初対面の人と話すの苦手だから、雪乃がいてくれてよかった~」と何度も感謝してくれた。
彼は私のことを女性で初めてできた親友だと何度も口にした。「わざわざ親友って言わないよ、親友には」と文句を言いながら、心ではいつも傷を負っていた。
(私も親友だって嘘偽りなく言ってあげたいのだけど、私は貴方が好きなんだよね・・・)
結局、私は親友という称号を返上することなく、卒業した。
現在、24歳の私。「付き合って」と言われて男性とお付き合いしたことはある。けれど、間宮を好きになったときのような、胸がきゅんとなったり、顔が近づいただけでドキドキしたり、会いたくなったり・・・というような心の動きは生じなかった。
だから恋人と別れると、いつも思い出すのは間宮のこと。思い切って、あのとき、キスしておけば、何か二人の関係は変わったかもしれない。変わらなくても、「ファーストキスは大好きな人とした」という素晴らしい思い出が残る。
本気で好きな人とのキスはどんな感じなのだろう。
あーあ、あのときちょっと顔を近づけただけで、キスできたのに。
ぱっと、思い浮かぶだけでも3回のチャンスがあった。
あの時に戻れたら、絶対キスする。絶対ちゅうしてやる!
戻れたら、戻れたら、戻れたらな~~~~~
あの、胸きゅんな頃に・・・
そんな馬鹿みたいな妄想をもんもんと、1人暮らしのベッドの上で考えながら、眠りにつく。24歳、現在彼氏なし。こんな妄想しているのだから、けっこう、痛い女だ・・・。
「絶対、頑張るーーー!」
「何を?」
「へ?? え。え。えーーーー。」
「わ、なんだよ、危ない。ちゃんとつかまってよ。」
私は誰かにおんぶされていた。あまりにびっくりして後ろにひっくり返りそうになる。あれ、私はベッドで寝ていたはずで、今日は会社に行く予定なのだけど? 私をおぶっているのは、間違いなく17歳の間宮だった。
「ドジだよなぁ、雪乃って。しっかりしているようで、ほんと抜けてる。」
間宮が雪乃って呼んだ。懐かしい。胸がきゅんっと鳴った。
いやいや、まずはこの状況だ。これは夢? うん。夢だよね。やけにリアルだけれど。
でもこのおぶられている状況、とても覚えがある。三が日過ぎに地元の神社に初詣に行ったとき、私が階段で足を踏み外し、足をちょっとくじいた。あの当時はまわりの目線が気になったから「平気だから降ろして~」と暴れて降ろしてもらったんだった。
もし、これが夢ならば、こうする!と、私は間宮の背中にしっかりと抱きついた。温かい。ねこっけの間宮の髪の毛はふわふわしていた。
大通りに出るとベンチを見つけて私を座らせ、彼は電話をかけた。
「兄貴が車で迎えに来てくれるって。」
ああ、間宮! 気配りもできて、ホント、優しい。
私は送ってもらい、家につく。若返ったママが外まで出てきて、間宮兄弟にお礼を言っている。私は自分の部屋に入った。「わぁ~」と声が出る。高校のときに使っていたままの私の部屋のまんま。とてもリアルだ。頬をつねる。痛い。むむ? リアルすぎん?
部屋にある全身鏡に姿を映した。ちょっと眉毛のお手入れが甘い、高校のときの私だ。夢だとしても眉が気になる。私はささっと、眉毛を整えた。
その晩、夕食を食べ、お風呂に入り、寝た。起きたら、やはり、高校の私だった。
なが~い夢であってもいい、ひとまず過去に戻ったということならば、神様がくれたチャンスを活かす! 確かここから先、3回のキスチャンスがあったはず。
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