第17話 少年から青年へ?

 スクードとヴィオーラの強烈な出会い。

 その後ヴィオーラがヴェリン子爵家の執事になるまでの変化は、一晩では振り返れないほどの話になる。


「まさか、たった四年でヴィオーラがこれほど敬語とマナーを身につけられるなんて思ってなかったけどね」


 意識を現代に戻し、スクードは一人で笑った。

 ついついヴィオーラと出会った頃の思い出に浸り、気づけば真夜中である。

 月はいつの間にか雲に覆われ、見えなくなっていた。

 そろそろ眠るか、と振り返るスクード。それと同時に声が飛んできた。


「私がどうかいたしましたか? スクード坊っちゃま」


 窓の外と思い出に集中していたせいで気づかなかったが、ちょうど名前を呼んだ彼女が部屋の中にいたのである。

 ヴィオーラは燕尾服の胸ポケットから細い鎖で繋がった懐中時計を左手に、手持ちの燭台を右手に持っていた。おそらく、時間を確認しながら屋敷内の見回りをしていたのだろう。

 ノックもせずに部屋に入ってきたのは、もう寝ているであろうスクードへの配慮だ。


「ヴィ、ヴィオーラ」


 驚いたスクードが素っ頓狂な声をあげると、ヴィオーラは薄く微笑む。


「普段はもうご就寝されている時間でしょう、スクード坊っちゃま。何か悩み事でもございましたか?」

「い、いや、何でもないよ」

「何かございましたら、私にご相談くださいませ。ああ、そういえば庭師のマイゼンたちが話していたのを耳にしました。少年が青年に変わる時、どうしようもない衝動に駆られ、眠れない時があると。そして『その時』部屋に入られてしまうと、大いに動揺した姿を見せる・・・・・・坊っちゃま、もしや青年に?」

「な、何を言ってるんだよ、ヴィオーラ! 違うよ。昔のことを思い出してただけだよ。もう寝るつもりだったから」


 スクードはいつもより大きな声でヴィオーラの想像を訂正すると、心の中で庭師マイゼンに文句を言う。

 妙な言い回しで妙な知識をヴィオーラに植え付けるのはやめてくれ。心臓に悪い。

 いそいそとベッドに入るスクード。ヴィオーラはそんな彼を燭台で照らしサポートした後、掛け布団を整えると静かに口を開いた。


「明日は早朝からお見送りがございますので、考え事などしないようにお休みください」


 鉱山発見に伴い、現地に向かったスクードの父ノーズ。領主として鉱山調査に立ち会うためなのだが、調査はいつ終わるかわからない。

 そうすると、他の仕事が溜まり続けてしまうし、急ぎの仕事もいくつか残っている。そこで一時、スクードの母ミエラと幼い妹ヨルシャも鉱山付近に向かうことになった。

 簡単にいえば、子爵邸の機能そのものを鉱山付近に移動させ、そこで全ての仕事をこなせるようにする。家族ごと大移動するというわけだ。

 使用人や出入り業者なども全員、移動先に行くことになる。

 しかし、その期間中子爵邸を空け続けるわけにもいかない。そこでスクードとヴィオーラだけが、現在の子爵邸に残ることになっていた。

 明日の朝、旅立つミエラとヨルシャの見送りをする予定である。

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