第14話 短絡的で短慮、おまけに短足

 ヴィオーラは淡々とした口調で、スクードの問いかけに答えた。


「私はベルシーラのとある村で生まれた。貧しく、荒れた土地しか持たず、何の特産もない村だ。そんな村が金を得る方法は一つ。人間を売ることだ。しかし、奴隷としてではない。兵士として、戦闘力を売るのだ。そのため、私の一族は幼い頃から戦闘の訓練を積む。生きるために、血の滲むような訓練を何十年も続ける。だがそれも全て一族のため。村のため。戦うことは生きること。生きることは・・・・・・大切な人たちを守ることだったんだ。大変だったが、苦しいと思ったことはない」


 ヴィオーラの口から出る言葉は、まるで小説や漫画に出てくる設定のようだった。しかし、彼女の現実離れした強さが、それを現実だと証明している。

 さらにヴィオーラは言葉を続けた。


「私たち一族はベルシーラの中でも、最強の部隊として国防を担っていた。だが、私たちは強すぎたんだ。ベルシーラの新たな王は、私たち一族を恐れた。もしも叛逆されれば、国を奪われる、とな。そうして私たち一族はベルシーラ王家一部の卑怯な手によって壊滅したんだよ。最強と呼ばれていた私たちの弱点は、家族を想う心だった。幼い子どもたちを人質に取られ、呆気なく・・・・・・私以外は全員殺された・・・・・・残ったのは私だけだ。大切な人を守るという目的を失った私は、もう生きてはいない。そう思っていた。だが、スクード・・・・・・あなたは私に『生きろ』と言った。目の前で息絶えた、私の姉のように・・・・・・私を逃すために死んだ姉のように、私に『生きろ』と言ってくれた。命をかけて守ってくれた。そんなスクードを私は死なせない。必ず家に帰してやる。だから、約束は守れよ、スクード」


 重たすぎる事実を話し切ると、ヴィオーラは落ちていた盗賊の剣を手に取る。

 そのまま剣の先を自分の首に向けると、握る手に力を込めた。


「邪魔だな」


 まるで豆腐でも切るかのように、首輪だけを斬るとそのまま剣を構える。


「さて、どうする。今世紀最大の間抜けヅラ。私と戦うか、二度とこの領地に足を踏み入れぬか・・・・・・決めろ」


 煽られたリーダーは、奥歯を噛み締め、グギギと嫌な音を鳴らせた。


「ふっざけんな! 殺してやる、殺してやるよ!」

「短絡的で短慮、おまけに短足。お前の長所はどこにあるんだ? あっちの方も粗末そうだしな」

「殺す、殺す、殺す、殺す!」

「剣を持つのは久しぶりでな。手加減はできないかもしれないぞ」


 ヴィオーラは剣を軽く投げて、逆手で持ち直す。それに対してリーダーは、怒りの感情を露わにして真っ向から突っ込んできた。

 怒りに支配されていても、戦いには慣れているようで、大振りに構えることはなく、いつでも斬りつけられるように剣は寝かせている。

 至極簡単な話で上から振り下ろされる剣よりも、横に薙ぎ払われる剣の方が回避が難しいもの。縦振りは横にずれれば回避できてしまう。しかし、横振りは後ろに下がるか、しゃがむか、飛ぶか適切に選ばなければならない。しかもどれも大きく移動しなければ、回避しきれないのだ。

 

「大きな隙は見せないか」


 ヴィオーラは冷静にリーダーの動きを確認する。

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