第13話 花は強く、手折られない
その瞬間、先頭にいた男が後方に吹き飛び、三人の盗賊を巻き込んで馬車の外に出てしまう。
何が起きたのか、とスクードはヴィオーラに目をやった。彼女は右足を盗賊たちの方に向けた状態で静止している。
そこでようやくスクードは、ヴィオーラが盗賊を蹴ったのだと理解した。
予備動作などなく一瞬で蹴りを繰り出し、あの柔らかかった足で盗賊たちを吹き飛ばしたのだった。
「ヴィオーラ・・・・・・君は一体・・・・・・」
「言っただろ、心配しなくてもいいって。この程度の雑魚、何匹いたって私は負けようがない」
「で、でも、相手は剣を持ってるのにヴィオーラは素手で」
「大丈夫、これがある」
そう答えながらヴィオーラは、首から垂れ下がっている鎖を手にする。
「これがあるって、それはただの鎖じゃないか」
「そうだな。これはただの鎖、鉄の塊にすぎない。そしてあいつらが持ってるのも鉄の塊だ」
「あれは剣だよ!」
「当たらなければ、鉄の塊でしかない」
そのままヴィオーラは鎖をぐるぐると振り回した。
確かに、当たったら痛そうではある。だが、スクードに鎖を渡されて剣と戦う勇気はない。
盗賊たちは先ほどの蹴りと、彼女の相手を舐め腐った言葉に怒り心頭だった。
「舐めんなよ、このアマ!」
「囲んで殺しちまえ!」
そう言いながら、一斉に飛びかかってくる。
しかし、ヴィオーラに焦る様子はない。冷静に盗賊三人の動きを目で追うと、頭の中で順番を決める。
一番近いのは中央の男。だが、戦闘の基本がなっていない。思い切り剣を振り上げているせいで、隙が大きい。剣の到達が一番早いのは右側の大男だ。中央の男よりも多少心得があるようで、コンパクトな太刀筋で攻めてくる。
まずはこの男からだ、とヴィオーラは遠心力を利用して鎖の先端を大男の鳩尾に叩き込んだ。
「一匹目」
「がはっ」
大男は涎を撒き散らして、後方に吹き飛ぶ。
その鎖を自分の方向に引っ張りながら、ヴィオーラは体を回転させて中央の男の剣を蹴り上げた。鎖の重みが乗っかっているので、蹴りの威力も上がっている。
中央の男は握力を維持できずに、剣を手放すとそのまま顔にヴィオーラの逆足がヒットした。
まるでカンフー映画でも見ているかのような動きだった。
「二匹目」
ヴィオーラは先ほど引っ張った鎖を、体の回転に合わせて鞭のように残っている左側の男へとぶつける。
「これで三匹目」
一連の攻撃には五秒もかかっていないだろう。ほんの数秒で盗賊たちを制圧したヴィオーラは、馬車の外にいるリーダーを睨みつけた。
「あとはお前だけだ」
リーダーは何が起きたのかわからず、呆気に取られる。
「な、な、何をしてやがる。何してやがんだお前ら! こんな女一人に、情けねぇ!」
リーダーの戸惑いは仲間たちへの怒りに変化された。ヴィオーラが強い、という事実を目の当たりにしたはずなのに、仲間たちの不手際だと思いたかったのだろう。
だが、残念ながら盗賊たちは一人も立ち上がらない。意識を失い、壊れたおもちゃのように体を痙攣させていた。
驚いたのは盗賊たちのリーダーだけではない。
スクードはあんぐりと口を開けて、ヴィオーラの背中を見つめていた。
「ヴィ、ヴィオーラ・・・・・・あの、えっと、どうしてそんなに強くて・・・・・・」
落ち着かない思考の中、スクードが疑問を言葉にする。
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