第6話 嘘は嘘でいい
目的もなく異世界に転生してしまったスクードの気まぐれ。二度目の人生を手に入れた者として、目の前で消えていくかもしれない命を助ける、という気まぐれな選択だった。
もしかすると助けられるかもしれない。そんな可能性のある策を思い浮かべてしまった。
「一か八か、やぶれかぶれ、伸るか反るか、清水の舞台から」
自分の足を動かすために、スクードは頭に浮かぶ言葉をそのまま呟く。
内容に関しては決して良い意味ばかりではないが、そもそも内容などどうでも良かった。およそ四歳では知らないだろう言葉を放ち、中身が大人であることを最大限活かそうという心構えの表れである。
そのままスクードは、平常心を装い、緊張や動揺は全て飲み込んでスタスタと道に出ていった。
気配を隠すようなこともなく、ただ通行人の一人として。
「あれー、迷っちゃったなぁ」
わざとらしく、自分が迷子であると宣言しながら道に出てきたスクードに対して、賊は警戒の視線を向ける。
「なんだ、ガキか」
「おい、ちょっと待て。随分身なりのいいガキだな。貴族のガキかもしれん」
「だとすりゃあ、金になるぜ。こいつも奴隷として売り飛ばしましょうや!」
「いや、親を脅して身代金を奪う方が金になるかもしれん」
口々にスクードへの意見を述べる賊たち。
当然、スクードは心の中で怯える。目の前にいるのは自分よりも大きく、明らかに強い相手。しかも、道徳心の欠片も持っていないような賊だ。
それでも平常心を装って、勇気を振り絞るように口を開く。
「おじさんたち、何者ですか? ここは我が家、ヴェリン子爵家の領地ですよ? って、うわ! 馬も御者も血だらけだ! もしかして盗賊?」
スクードがそう言うと、賊たちは笑い出し、リーダーらしき男が一歩近づいてきた。
「我が家、ヴェリン子爵家って言ったな、このガキ。ってことは、こいつは子爵の息子。いいか、お前ら。金になる鼠は骨までしゃぶれ、だ。身代金を要求して金を掻っ攫って、そのままこのガキは奴隷にしてしまえばいい。あの馬車の中にいる女どもと一緒にな!」
わかっていたことだが、しっかりと悪党だな、とスクードはむしろ感心する。
そして新たにわかったことが一つ。どうやら車の中には、奴隷として売られそうな女性がいること。見捨てていれば、その『女性』もしくは『女性たち』の人生が酷く辛いものになっていただろう。
そこでスクードは次の行動に出た。
「やっぱり、盗賊なんですね。でも、逃げた方がいいと思いますよ」
そう言いながら、一歩盗賊たちから離れる。
スクードの言葉の意味は当然、賊たちに伝わらない。
「おいおい、何言ってんだガキ。リーダー! さっさと捕まえてしまいましょうや。足の一本でも切ってやれば、おとなしくなりやすぜ」
「馬鹿野郎! 俺の話を聞いていたか? 身代金とった後は、奴隷に落とすんだ。五体満足でなけりゃ、男は売れねぇよ。どこぞの変態に売ってもいいが、それでも傷物は値段が下がる。貴族の息子ってんなら、買い手はあるだろうしな。どのみち無傷が条件だ。傷つけず捕まえろ!」
盗賊たちの話を聞いて、スクードは幸いだと口角をあげた。
命を奪うどころか、傷もつけられないらしい。予想していなかったが、賊の倫理的ではない思考がスクードにとって良い方向に働いている。
そこでスクードは言葉を続けた。
「ちょっと待ってください。確かに僕はヴェリン子爵家の息子です。だからこそ、逃げた方がいいですよ。実は僕、屋敷の外を見てみたくて飛び出してきたんですけど、我が家の私兵に追われているんですよ。さっきの悲鳴を聞いて、ここにも私兵が来ると思います。結構な数ですよ? 何たって子爵家の私兵ですから。あー、もうめっちゃ強い人ばかりが」
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