第4話 月はどこまでも平等である
出立前のノーズは、自分の準備を手伝うヴィオーラにその報告を伝えていた。その結果、スクードはそれをヴィオーラから知ることになる。
「この領地に鉱山が・・・・・・それって!」
自室で椅子から立ち上がるスクード。
ヴィオーラに言われた通り、彼は勉強中だった。
そんなスクードに水を手渡しながら、ヴィオーラが頷く。
「ええ、スクード坊っちゃま。鉱山は大きな収入となり、ヴェリン子爵領は発展と安定を得ることでしょう」
「鉄があれば産業革命が起こせるよね。製鉄炉が作れれば、加工もこの領地で可能になる。鉄鉱石で売りに出すより、技術という付加価値を乗せた商品で売れば、領民の仕事も作ってあげられるはずだよ」
「サンギョウカクメイ?」
ヴィオーラは不思議そうに首を傾げた。
言葉の意味が伝わっていないことでスクードは、やらかした、と硬直する。
そうだ、『こっちの世界』にはまだ、産業革命なんて言葉はない。もう八年も『こちら』で生きているのに、油断すると出てしまうのだった。
当然だ。三十年も『向こう』で生きてきたのだから、八年よりも長く濃い。
スクードは慌てて誤魔化す。
「いや、なんでもないよ。鉄の加工ができれば、と思っただけさ。木材と石、レンガが主流になっている建築物やその他いろんなものが鉄で作れるようになる。それをこの領地でできれば、すごいと思わない?」
「確かにスクード坊っちゃまのおっしゃる通り、それが可能であれば領地の繁栄どころか大きな街を作ることができるでしょうね。今、このヴェリン子爵領にあるのは、海沿いの村、山林近くの村、そしてこの屋敷の下にある村の三つです。そのどれもが、それぞれ仕事をするのに便利なように作られました。『加工』という仕事は、どの場所でも可能です。都合上、鉱山のある山林の村近くが便利、ということはありますが、これまで使っていなかった土地を有効活用し、街を作れば大きな拠点となりますね」
ヴィオーラはそう言いながら、机の上にあったヴェリン子爵領の地図を指差す。
現在ある三つの村は、それぞれの仕事がしやすいように離れた場所に存在している。山林の村から海に向かって街を広げていけば、行き来という面でも楽になるはずだ。
領地の金銭的な潤いだけではなく、様々な面で鉱山の発見は希望である。
大きな光。全ての未来を明るく照らす、それほどまでに強い光だった。
その夜、スクードは明るい未来に思いを馳せながら、自室で一人、窓の外を眺めていた。月の光がそれほど広くない中庭を照らしている。
「こっちの世界の月も、綺麗なものだな。こんな夜は、缶ビール飲みながらスーパーの半額焼き鳥でも食べたいよ。こっちの食事も悪くはないけど、やっぱり日本食が恋しいなぁ。八歳じゃあ酒も飲めないし」
それにしても、とスクードは苦笑した。
「それにしても異世界転生って、何かチート能力やら貰えるものだと思ってた。いや、そもそも創作の中にしかない話なんだけどさ。事故で死んだと思ったら。神様に会うこともなく、気がつけば幼児なんだもんなぁ。しかも貧乏子爵の息子で・・・・・・幸運だったのは、ヴィオーラと出会えたことだな」
思い出すのは四年前。
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