驚きミミック

 ……というわけで! シトラスはモーニングスター 1本でドラゴンを倒しちゃった!!


 私は椅子から立ち上がり体の中から彼の使っていた武器を探し取り出す。と言っても右腕からにゅるりと落ちるように出て来たので右手でタイミングよくキャッチする。危ない、鉄球が床に当たらなくて良かった。


 人型でもちゃんと荷物は体の中から取り出せるようで安心した。


 ちなみに最後の最後にシトラスが見せた繊細な部分は彼らには話していない。話すとシトラスに怒られる気がしたから。ドラゴンを倒して武器と会員証を預かったというところを簡潔に話した。


 しかし………私自身、当時からすでに上半身が人型だったと考えると、彼の言動に納得がいった。


 ミミックに似ている幼馴染とは? ―――と、ずっと疑問だったから。


 なんかすっきりした! この顔がシトラスの好きだった『ローゼル』に似ているのか。そう考えながら左手で自身の頬をすりすりと触る。


 そうだ、若き冒険者たちの反応は……リンデンは笑顔のまま固まっている。

 振り向いてシトロネラとユズの表情も見てもポカンとしている。

 反応が微妙だな? 驚いているのか何なのか?


「つまらなかった? だとしたらごめんね。」


「ええっ! そんなこと無いよ! 私達が知っている英雄伝とは違って、彼破門されていたのも初耳だし、腹いせにダンジョンのモンスター討伐してたのも驚きだし、それよりも彼の武器が現存していたのに驚いちゃった……。」


 リンゼンは私が両手に抱えるモーニングスターを見ている。

 振り返るとユズは通常運転に戻り腕を組み私をみて頷いているが、シトロネラとはぽかんと口を開けている。まだ信じてくれてないのか?


「あぁ、彼のギルドの会員証もあるよ!」


 そう言って左手で会員証を掌の上に取り出してシトロネラに向けて『ほら』と見せると……


 背後からクッションが二つ、シトロネラとユズの顔面向けて飛んできた。

 ……この子シトラス並みにコントロールいいぞ。そして相変わらずユズには容赦ない。

 ユズは顔面にヒットしてそのまま椅子から転げ落ちる。シトロネラは顔の前でクッションをキャッチしてそのまま顔を隠した。


「はい! スケッチ終わったからミュウちゃん服着ようか?」

「あぁ……裸だった。失敬。」


「気づくのが遅い……。」


 シトロネラがクッションの下から小さく不満を述べた。ごめんって。

 私はシトラスの品々を体に仕舞った。


「布だけじゃお屋敷の中歩くの恥ずかしいと思うからこれを着て?」

 彼女は私に下着と簡素な白いワンピースを着せてくれて彼女が羽織っていたローブも着せてくれた。


「じゃあ、お姉さんの部屋に服を受け取りに行こうか?」


 え ?これで服はOKじゃないの? お姉さんとやらに服を借りるのかなぁ?

 リンデンは私の手を取り移動しようと私の手を引くが……


 ―――ばたん。


 私は足を一歩踏み出してバランスを崩して転んでしまった。

 三人とも何が起こったか理解できていない様だった。


「……えへっ。私、歩いたこと無かった。」

「えええっ!!! ごめん!! 痛かったよね?? 気づけなくてごめん!!!」


 人間凄いな。よく二本足でバランスとれるな。私は上体を起こして足をぺちぺち叩く。


「宝箱の姿に戻ろうか? それなら移動できるよ?」


 そう尋ねると背後からシトロネラがやんわりと断りを入れた。


「いや、屋敷でミミックだとバレると騒ぎになるから今の姿のままでいいかい? 姉さんの部屋に行くんだろ? 一緒に行くよ。僕がミュウを運ぶ。」


 彼はそう言って私をヒョイと横抱きで持ち上げた。意外と筋力が有る彼に驚きつつ私は大人しく抱きかかえられた。


「ミュウ、落ちないように捕まって。」

「はーい。」

「返事は伸ばさないの。」

「……はい。」


 真面目か?

 私は彼の首に腕を回して抱きつく。顔が近いなぁ

 シトロネラの長いまつげに見とれてしまった。メリッサの面影が有って綺麗だなぁ……呆けていた私を見て、ユズは頷きながら感心していた。


「ミュウちゃん借りてきた猫みたいに大人しくなっちゃったね。それもまたいい。みんな行くなら俺も姉さんの部屋一緒にいくかな?」


「ユズは今日の報告書作成してよ! スケッチとミュウちゃんから聞いた話のメモは揃っているから。顧問錬金術師直々に下されたクエストなんだから書類遅らせられないよ。」


 リンデンにぴしゃりと言われてユズは肩をがっくりと落した。


「はぁ……仕方ない。俺が適当に書いて出しておくよ。二人とも頼んだ。」

「報告書よろしくね! じゃ行こうか? 二人とも。」

「うん、ありがとうリーダー。」


 私達はそんな彼を残し部屋を出た。


 ◇ ◇ ◇


 私は運ばれながら素朴な疑問を彼らに投げかけた。


「ねぇ、何でダンジョンから宝箱運び出してたの? 珍しいよね。宝箱ごと運び出すって。」


 私が冒険者なら中身だけ持っていくけどな。何故なにゆえ苦労して宝箱ごと……。

 シトロネラが「ああ」と思い出したように説明してくれた。


「ダンジョン管理の一環だよ。『古いダンジョンだから宝箱残しておいてもそこに冒険者がいらないアイテムを捨てて美感に悪いから、開拓されている層の宝箱を全撤廃しよう』って。」


「そうそう、久々に顧問錬金術師様直々にギルドに所属している全パーティーに呼びかけられたの。回収した宝箱はそのパーティーに分配されるけど何を回収したのか報告書出してねって。」


 えっ! それは冒険の楽しみが無いなぁ……それにゴミ箱として見られていたのか!

 私は冒険者が置いて行ったものや落とし物を拾っては、ダンジョン内の宝箱整頓したり補充して遊んでいたのに! もっときれいにしておけばよかった!!


「あと……非難している訳じゃないんだけど、何でみんなは私を選んだの? ミミックだって思わなかった?」


 一番気になっていたことを聞いてみた。中級の冒険者なら宝箱の真贋は見そうなんだけど……これについてはリンデンが申し訳なさそうに笑いながら説明してくれた。


「えへへ……ミュウはミミックに見えなかったのよね。ミミックかを確認する前に宝箱に呪いが掛かっていないか解析したら、耐火の呪いが掛かっていたから。そんな呪い掛かっている宝箱なんて何か重要な物が入っているとしか思えないじゃない?」


 そう言えば……昔ダンジョンで拾った魔道書を開いたらそんな呪いかかったなぁ。

 命に直結しなかったからそのまま放置したけど。

 そう言われてしまうと、彼女の言う通り。燃やしたくない何かが入っている宝箱に見えてしまっても仕方ない。


 シトロネラが困った顔で私を見た。


「ただね……もし回収したのがミミックならギルドに提出しろと言われているんだよ。生態調査をする為とか。報告書は提出するけど正直ミュウをギルドに差し出すのは気が進まない。祖父の恩人だし。」


 私は凍りつく……研究対象にされてしまう。あんな事やこんな事されるの? 痛いのは嫌だ……私は震えながらシトロネラに強く抱きついた。


「シトロネラ……私をギルドに差し出さないでください!!」

「う……うん。僕だってそうしたいよ。」


 何なら報告書も上げないでほしい!!

 お願いだよ!


 ◇ ◇ ◇


 三人で話しているうちに目的の部屋に到着した。


「ここは?」

「僕の姉さんの部屋だ。姉さんから着なくなった服を貰える事になってね。ただ姉さんにはミュウがミミックて言うのは秘密にしてほしい。彼女、体が弱いから驚いて倒れてしまうかもしれないから。」


 僕の姉さんの部屋って……この屋敷、君の家だったのか。

 メリッサ、君の一族は頑張って立て直したようだよ。すごい努力だと思う。


 そして、シトロネラのお姉さん!!

 メリッサのひ孫・その2か~楽しみだ。


「わかった。私の正体は秘密にするよ。お姉さん美人なの?」

「美人だよ。」


 ―――! シトロネラは間髪置かず答えた。

 彼の様なブラウンのサラサラヘアーかな、メリッサみたいな癖っ毛も可愛いんだよな~。まだ見ぬ彼女の妄想を膨らませているうちにリンデンが一言。


「あ! でもミュウもなんとなくお姉さんに似ているかも。二人ともノックするから待っててね。」


 私? クロウ家とは結構遠い系統だけどなぁ……

 コンコンコンとリンデンは扉を叩く。

 中から「どうぞ」と声がか掛かり、私達は扉を開け中へと進む。リンデンの後を続くようにシトロネラが入る。


「イリス姉さん! ユズから話があったと思うけど例の子を…………フランキンセンス先生こんにちは。診療中でした?」


 どうやら先客が居たそうだ。楽しそうだったリンデンの声のトーンが急に低くなる。

 何だろう?

 私はその正体を見ようと頭を動かした。


「いらっしゃい。リンデン、シトロ。」

「やあ、二人とも大丈夫。丁度終わった所だよ。」


 ベッドの上には女性が座っていた。彼女の肌は透き通るように白く、そしてインクをこぼしたかのような真紅の髪と宝石のように青い瞳でこちらを見つめていた。

 機械仕掛けの人形のように整った顔が優しく微笑む。


 そして、その傍には白衣を着た金髪の男性が佇んでいた。彼の瞳は血のように赤く、優しく微笑んではいるが、そのまなざしはどこか冷たい。


 二人とも背筋が凍りそうなほど美しく儚げで……私は彼らに恐怖を感じてシトロをギュッとつかんだ。

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