縁さんと吉田さん

 庭では色付きかかった葉っぱが散見し秋の気配が感じる陽気になってきた。

 夏前から少し様子が変わったゆかりさん。吉田さんが来てから恋でもしたのかと思ったけどはっきり分かったことがある。物忘れが激しくなり、ぼーっと過ごすことも増えた。一番の出来事は吉田さんのことを忘れていることが増えたこと。この間は典型的に、この人誰ですか?とか聞いてきたもんだからびっくりしちゃったわ。それでも吉田さんはにこにこしていたっけ。

 「縁さん。お食事の時間ですよ。さあ行きましょうか。」

 「あー、ありがとうございますね。えーと…」

 「佐々木ですよ。あっ手紙持ってきてたんですね。吉田さんからのですね。」

 「吉田さんって誰ですか?」

 食事も介助が必要になってきていた。どんどん様子が変わっていく縁さん。そんな縁さんに手紙を毎日書いて持ってくる吉田さん。

 ここに来る前、お願いしたいことがあるってきたっけな。

 「ここに田所縁って人いるだろう?昔生き別れてしまった恋人なんだ。私、余命1年ってお医者さんから言われて。あのときの後悔を晴らしたいんだ。ここに通ってもいいだろうか。お願いします。会うだけでも、恋文渡すだけでもいいから。お願いします。」

 そう言われたら断れるはずもなく、通えることになったんだよな。

 「ひとつだけ聞かせてください。なんで恋文なんですか?」 

 「私、口下手ですから。」と顔を赤くして恥ずかしがってたな。

 すごいな〜恋の力って。私もこんなに愛されたいわ。


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