謎の男

 「こんにちわ。初めまして。私、ゆかりと申します。」

 「あっ…こんちにわ。初めまして。」と、笑顔の男性。

 「あのーお名前は?」

 「いやー名乗るものでもありません。お気になさらず。」

 また笑顔。いやー、気になるんだけどな。名乗るものではありません。って言う人ほんとにいるもんなのね。と、ほおーと顔が細くなるような反応をしていると、佐々木さんがにこにことこちらへ向かってきた。

 「縁さん!この方今日から通いでくる、吉田さん。よろしくお願いしますね。家がここのそばなんだって。だからほぼ毎日歩いてくるからね。よろしくね。」

 そういうや否やまた台所へと戻っていった。相変わらず男性__吉田さんも笑顔を絶やさず、会話を聞いていたみたいだった。

 「よろしくお願いしますね。おや、それは恋文ですか?」

 握りしめていた恋文を、ちゃんと恋文と言ったのはこの人が初めてだった。なんだか興奮して「そう!恋文よ!」と大声で言ってしまった。

 「見る限り昔の物のようですが、文通、していました?」

 「そう、昔ね。少し恋人とね。もう別れたっきりですけどね。」

 その人可笑しかったわね。口下手だから文通しましょうって饒舌に文通をおしてきたんだっけ。どんだけ文通がしたかったのかしらね。ふふっと思い出し笑いをすると、

 「きっと恥ずかしくて言えないこと書いてあったのではないですか?」と真っ直ぐな視線を、それでも笑顔を忘れずに尋ねてきた。

 「そうね。確かにあの人が言えないこと書いてあったわ。」

 「ほおー。気になりますがそれを聞くのもこちらが恥ずかしくなりそうですね。話変わりますが、今日から来たものでもちろん友達がいるはずもなく。なのでよろしければ文通友達になってもらえませんか?」

 「え?!また急ですね。断る理由もありませんわ。恋人、とはいきませんがお友達としてやりましょう!」

 そうして謎の男だった吉田さんとの文通が始まった。


 

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