恋文

夢うつつ

梅雨の匂い

 空に幾つもの線ができてきた。懐かしい梅雨の匂いがする。

 「ゆかりさん、何見てるんですか?」 

 「雨が降ってきたなーって。あなたは…」  

 「えー!佐々木ですよ!」

 「そーだ!佐々木さんよね!覚えてるわよー!なーに分かってたわよ。どうしたの?」

 「もう少しでお食事ですよ。席ついていてくださいね!あっ何持ってるんですか?ラブレター?」

 笑いながら彼女は聞いてくる。

 「ラブレター…ではないわね。恋文よ。こ·い·ぶ·み。」

 「あ〜。恋文ね。いいな〜私もそんな青春送りたかったわ〜。」

 「そんな甘酸っぱい青春なんかじゃないわ。もっと…言うなら…純愛?」

 「甘酸っぱすぎます!」

 「そうじゃないでしょ?どうしたの?」

 「あっ。お食事がもう少しでできますのでって言いに来てました。席についていてくださいね~。」

 そう言うと彼女___佐々木さんはにこにこと台所へ向かっていった。

 何通もの皺の入った恋文を握りしめていた。

 台所の前にはテーブルがあり、テレビやソファー等が置いている。私以外にも私みたいな男女が数人いて、佐々木さんみたいなお手伝いさんも、5人とはいかないまでも日夜通している。

 なんて言ってたかしら?お手伝いさんはお手伝いさんよね。早く席につかないとまた言われちゃうかもしれない。

 慣れた手つきで車椅子を操作し席へ向かう。

 そうして自分の席につくと隣には見知らぬ男性が椅子に座っていた。なんだか見覚えがあるようなないような、懐かしいような懐かしくないような。きっとさっきまで昔を思っていたからだわ。

 なんだか視線を感じ、そちらを見るとその気配はなくなったが、お手伝いさんたちがニヤニヤしているように感じた。多分、テレビでは芸人が出て笑いを取っていた。それを見ていたことでしょう。

 そんなことをもう気にせず、隣の男性に挨拶をしてみた。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る