Play#1 ある朝の目覚め
『――い、おーい』
誰かが私を呼んでいる気がする。
『おーい、ねえって、起きなよ~。……まいったな、これじゃボクとお喋りする前に、
起きなきゃ、目をあけなきゃ。
大丈夫、私は大丈夫だからって、あの手を掴まなきゃ――
「――の、ぞみちゃんっ!!」
目を開けた。私は目を開けれた。
私、助かったの……?
肩で息をしながら、自分の胸に手を当てる。
どくどくと手に振動が伝わって、確かに心臓は動いていると分かった。
ひとまずほっとして、私は当たりを見回す。
そして驚いた。
私、なんで天蓋付きのベッドで寝てるの……!?
そういえば、やたらベッドはふかふか、布団はふわふわ、病院着なんてシルクのような肌ざわり。
ベッドの周りにある家具も、やたら高級そうな刺繍や彫りが刻まれていて、流石に萎縮してしまう。
確かにお嬢様って言われるくらいには両親の所得が高かった私だけど、こんな外国のお屋敷にありそうな家具に囲まれたことは無い。
うちのはもっとこう……白とか黒とかで、シュッとした、モダンな作りだった。
「……ここ、いったいどんな病院……?」
よほどの大怪我をして、両親がものすごく良い病院に移させたのかもしれない。
そんな事を考えていると、部屋のドアがコンコンコン、となった。
「……お嬢様、何やら大きなお声が聞こえたような気がしたのですが、何かございましたでしょうか」
ドアから現れた人に、私は絶句した。
黒を基調とした長いワンピースに、白いフリルのついたエプロン。
そして上品なお辞儀。
まさか、これは
「め、メイドさん……?」
「はい?ええ、私はお嬢様つきの使用人ですが……それがどうかなさいました?」
お嬢様、お嬢様って誰のこと?
私の事をお嬢様って呼んだ訳ではない、よね?
「……あの、とりあえず、母に連絡をとって頂けませんか」
きっと変わったコンセプトの病院なんだ、と自分をおちつけて、私は今一番自分を心配しているであろう母に、連絡をお願いした。
見たところこの部屋には、金の装飾がついた白い豪華なドレッサーはあれど、勉強机も参考書も無い。
母が病院とトラブルを起こす前に、一刻も早く教材を揃えた方がいい。
「……公爵夫人は……いえ、その、お嬢様は起きたばかりで少し混乱されているのでしょう。モーニングティーをお入れしますので、少々お待ちください」
「えっいやあの、困りますわたし……ぁ」
そのまま出ていった看護師さん?を追いかけようと、私はベッドから飛び降りる。
しかし、床に足をつけた途端、自分の体の重たさに膝をついてしまった。
あれ、なんでこんなに体が重いんだろう。
事故の怪我?でも、重いだけでどこも痛くない……。
とにかく看護師さんを追いかけようと、壁に手をついてドアを目指す。
だんだん息も苦しくなって、ぜえぜえと肩で息をした。
そうしてやっと辿り着いたドアを空けた私は、目を見開いた。
「なに、これ、すごい、豪華な部屋……!」
ドアを開けたら病室から出られると思っていた私は、お姫様の私室のような、高級感のある広い部屋に目を奪われた。
さっきの部屋だけでもすごく豪華だったのに、この部屋を見た後ではまるで、さっきの部屋は寝るためだけに作られたかのように思える。
ここ、もしかして病院じゃなくて、ホテルだったりする……?
「……?お、お嬢様!?お身体に障ります、どうかご自分のベッドへお戻りください!」
さっきの看護師さんが、私を見た途端驚いた表情でかけよる。
肩に手を添えられた途端、どっと疲れて床にへたりこんでしまった。
「あの、わたし、どんな怪我をしたんですか……?どこも痛くないのに、体が思うように動かなくて……」
「お嬢様……ああ、また熱が……。よいのです、今は何も考えず、お眠り下さい」
「いや、でも……」
「誰か!誰かぬるま湯を桶に張って持ってきて!清潔な布と、お医者様から頂いたお薬も!
エンドローズお嬢様が倒れられたわ!」
……ん?
えんど、ろーず……?
「お嬢様、ご無礼をお許しください。今ベッドにお運び致しますから」
「あの、あっ、あ……っ」
自由の効かない体では抵抗も虚しく、私はお姫様抱っこでベッドまで連行される。
まって、いくらなんでもこの看護師さん大き過ぎない?
というか、私なんか小さくない?
「ま、まって……!」
人違い、してませんか――――!!?
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