『神様!私原作未プレイですが!?~ガリ勉ぼっち優等生だった私ですが転生したので悪役令嬢?目指します~』
古雨
プロローグ
「――ねえ!聞いてる?⬛︎⬛︎⬛︎ちゃん!」
「え?」
読んでいた参考書からパッと顔をあげると、自分にとって唯一の友人が不機嫌そうにこちらを見ていた。
「ごめん、聞いてなかった……えっと、王子様が結婚するんだっけ?」
「ちーがーーう!婚約を破棄するの!あの残酷無比な悪役令嬢、エンドローズとね!」
勉強ばかりでろくに遊びにも行かず、学校行事もとことん非協力的な私には、話しかけてくれる友人はほとんどいない。
最初は気を使って誘ってくれる人もいたけれど、私が一つも承諾した事がないものだから、そのうち誰も話しかけてこなくなった。
今や私の印象は、「お高くとまって優等生ぶった箱入りお嬢様」で固まってしまっている。
しかしそんな中でも、この佐藤のぞみさんだけは、私にも何度も話しかけてきてくれて、こうして一緒に帰ったりもしてくれる。
自分で言うのもなんだが、彼女が物好きで良かったと思う。
「もともと婚約してた人なのに、破棄されちゃうんだ……可哀想」
「可哀想なんかじゃないよ!そうなってトーゼン!いんがおーほー!悪役令嬢っていうのは、嫉妬とかそういうので自分勝手な事して、周りにメーワクかけて、そんで最後は断罪されるの!そーゆーもんなの!」
「そ、そうなんだ……?嫉妬って、だれに?」
「えーそこからー?ほんっとなんにも知らないなぁ⬛︎⬛︎⬛︎ちゃんは。そんなん主人公に決まってるでしょ。才能があってかわいくてなんでもできる主人公に嫉妬するライバルキャラ、それが悪役令嬢。わかった?」
「うーん……?なんと、なく?」
佐藤さんは、彼女曰く“生粋のおたく”らしく、私が生まれてこの方一度も触れたことがない漫画やアニメ、ゲームの知識が豊富な人だ。
今ハマっているのはおとめゲーム?と言われるものらしく、夢中に語って聞かせてくれる姿はすごくイキイキしていて、眩しいくらいだ。
「……いいなぁ、私もちょっと、やってみたい」
「……え!?ほ、ほんと!?やってくれるの!?」
好きなことを全力で楽しむ佐藤さんを見て、つい小さく漏らしてしまった言葉に、佐藤さんは信じられないというような顔をして食いついてきた。
がっしりと片手を掴まれ、上下にブンブン振る彼女は、目を輝かせている。
「やろ!すぐやろ!今日やろう!やったー!同志だー!!」
「え、え、いや、でも、ゲーム持ってないし……」
「貸すよ!今持ってるから!なんならゲーム機本体も貸してあげる!大丈夫、あたしは他にもゲームもってるから!」
「いや、でも、その……」
「うれしい!あたしの周り未プレイの人しかいなかったから!やっと語れる仲間ができるー!」
「み、みぷれい……?」
プレイしてないってことかな。
こんなに嬉しそうな佐藤さん、初めて見た。
でも……どうしよう。
気持ちは嬉しい。正直やってみたい。
でも、友達から借りたとはいえ、ゲーム機なんて持ち帰ったら……。
「……嬉しいけど、やっぱり遠慮しようかな。今、父も母も忙しいみたいで、ぴりぴりしてるから……」
絞り出すようにそういうと、佐藤さんはぴたりと止まる。
「怒られるかもしれない……ってこと?」
さっきとは打って変わって低いトーンで、佐藤さんは告げる。
「怒られるっていうか……勉強しないと、心配かけちゃうし……」
「同じ事だよ!⬛︎⬛︎⬛︎ちゃんいつもずっと頑張ってるのに、ゲームもしちゃダメなの?そんなのおかしいよ!」
“おかしい”、はっきり言われたその言葉が、何故か深く胸に刺さる。
腹立たしいような、かなしいような気持ちはあるのに、でも何故か言葉に詰まる。
「……」
「ぁ……ちが、ごめ、ん……」
気まずい沈黙が流れる。
咄嗟に謝罪を口にした佐藤さんは、それでも何か言いたげだ。
それ以上聞くのが怖くて、私は咄嗟に距離をとる。
「わ、私、予備校あっちだから……今日は、これで」
佐藤さんの顔を直視できなくて、思わず予備校の方向へ駆け出す。
勉強しなくちゃ、と参考書のさっきまで開いていたページを探す。
「……まって、⬛︎⬛︎⬛︎!あぶな――」
手を伸ばす少女の声を、びゅうと吹いた突風が掻き消す。
あ、と思ったその時には、大型トラックの大きなヘッドライトに目が眩んでいた。
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