第188話 一週間後

 

 一軍のメンバーが戦場に向かった日から、早くも一週間が経過した。

 この一週間で、色々な進歩があったので、まずは自分のレベルを確認する。


 アーシャ 魔物使い(37) 水の魔法使い(10)

 スキル 【他力本願】【感覚共有】【土壁】【再生の祈り】

     【魔力共有】【光球】【微風】【風纏脚】

     【従魔召喚】【耕起】【騎乗】【土塊兵】

     【水の炉心】【光輪】【治癒光】【過去視】

     【従魔縮小】【遍在】【聖戦】【情報操作】

     【逃げ水】

 従魔 スラ丸×8 ティラノサウルス ローズ ブロ丸

    タクミ ゴマちゃん グレープ テツ丸 ユラちゃん

    ヤキトリ リリィ ペンペン


 水の魔法使いのレベルが、ようやく10になった。

 新スキルの【逃げ水】は、物理攻撃を三回だけ完全回避するという、強力なバフ効果を付与してくれる。

 攻撃された瞬間に、身体が装備ごと蜃気楼のように揺らいで、その攻撃が擦り抜けるんだ。


 回避出来るのは物理攻撃だけで、魔法攻撃は普通に当たるから、その点は要注意。持続時間は三日間だよ。

 魔力をそれなりに消耗するので、中級魔法に分類されていると思う。

 まぁ、水属性の魔法だから、私の場合は使い放題だね。


 【他力本願】の影響によって、追加されている特殊効果は、完全回避が発生したときに、自分を攻撃してきた相手を混乱状態にするというもの。

 間違いなく、大当たりのスキルだ。

 防御力を無視する物理攻撃のスキルだって、これがあればちっとも怖くない。


 ちなみに、順調にレベルが上がったのは、水の魔法使いだけじゃないよ。

 魔物使いのレベルが、30→37になったんだ。

 ユラちゃんが聖女の墓標の第五階層で、教皇ゾンビを相手に無双しているので、私のレベルアップが止まらない。


 これは余談だけど、教皇ゾンビの魔物メダルを手に入れたので、奴の正式名が判明した。

 その名も、『ゾンビファーザー』──ゾンビの父だよ。


「ふふっ、ふふふふふ……っ」


「アーシャよ、ずっとニヤニヤしておると、客足が遠退くのじゃ。もっと表情を引き締めてたも」


「あ、うん……。ごめんね……」


 私がステホを眺めながら、抑えられない笑みを零していると、ローズに注意されてしまった。

 現在、私はお店のカウンター席に座って、ローズと一緒に店番をしている。

 広いお屋敷に住むようになったけど、ここの居心地が一番良い。


 水の魔法使いのレベルが10になったので、修行の日々からは解放されたんだ。

 ここから先は、適当に【逃げ水】を使って他人を支援しておけば、勝手にレベルが上がっていく。


 二軍のメンバーも、全員がレベル10に到達したので、今日からダンジョン探索を開始した。

 イーシャ、スイミィちゃん、リヒトくん、ミケの四人+従魔のスラ丸四号とペンペン。このパーティーで、流水海域の第一階層を攻略中だよ。

 私は店番をしながら【光輪】を使って、並列思考でイーシャを動かしている。



 イーシャ 異世界人(10) 結界師(10)

 スキル 【他力本願】【対物結界】

 装備 スノウベアーのマント


 イーシャの新スキルは、結界師の定番と言える【対物結界】だった。

 物理攻撃に滅法強い結界で、これも当たりスキルだね。

 【他力本願】の影響によって、追加されている特殊効果は、自動発動。自分自身に物理攻撃が迫ってきたとき、自動で発動してくれるんだ。



 スイミィ 水の魔法使い(10)

 スキル 【予知夢】【生命の息吹】【冷水連弾】【水壁】

     【流水皮膜】

 装備 シャチの戦術指南書 スノウベアーのマント 気儘なペンギンの首飾り

    水魚のローブ 水魚のトンガリ帽子


 スイミィちゃんには、シャチの戦術指南書があったので、かなり早い段階でレベル10になっていた。

 そんな彼女の新スキル【流水皮膜】は、対象の体表に流れる水を纏わせて、威力が低い攻撃を逸らしたり、炎熱によるダメージを軽減したり出来る。


 装備に関しては、ライトン侯爵から貰ったものばっかりだよ。

 水魚のローブは、スキル【流水皮膜】のバフ効果が、戦闘の開始時に一定確率で、自分自身に付与されるという代物。

 水魚のトンガリ帽子は、水属性の魔法の威力を二割増しにしてくれる効果がある。


 スイミィちゃんは自力で、【流水皮膜】を使えるようになったので、ローブはもう必要ない──かと思いきや、ローブと帽子にはセット効果があった。

 この二つを同時に装備すると、水属性の魔法の威力が五割増しになるんだ。


 スノウベアーのマントは、フード部分のデフォルメされた白熊の顔が、ジト目+無表情になっている。

 私のマントとも、フィオナちゃんのマントとも、違う意匠だね。

 効果は同じで、寒冷耐性+フードを被っている間は、弱い魔物を怯えさせるというもの。


 それから、マジックアイテムではないけど、スイミィちゃんは鋼の短剣を装備している。

 ダガーと言うほど短くはないので、ショートソードって言うべきかな。



 リヒト 雷の魔法使い(10)

 スキル 【雷撃】【発電】


 リヒトくんの新スキル【発電】は、自分の身体を動かしていると、雷属性の魔力が回復するという、常時発動型のスキルだった。

 魔剣士になったら、物凄く重宝するスキルだと思う。

 剣術の才能はあんまりないけど、運は彼に味方しているらしい。


 装備に関しては、鋼の剣と防寒具だけで、マジックアイテムは持っていない。

 スイミィちゃんとの格差に、涙が出そうだけど……まぁ、ミケもマジックアイテムは持っていないので、最初はこんなものだよね。



 ミケ 狩人(10)

 スキル 【強弓】【滑る床】


 ミケは以前と比べて、全く変化していない。今までは、お店の従業員として働いていたから、仕方ないんだ。

 本人は強くなりたいと言っていたので、今後は冒険者として頑張って貰う。

 そんなミケの装備は、複合弓と防寒具だよ。


 スラ丸四号は、スイミィちゃんのリュックの中だ。このリュックは、ブタさんを模した形をしている。

 イーシャは装備しているものが少なくて、常に手が空いているから、四号を持つのに最適だったんだけど……スイミィちゃんがどうしても、自分が持ちたいって。


 最後に、ペンペン。あの子は未だに進化出来ていないので、二軍メンバーの中で最弱だよ。


 努力した結果、剣と盾を持てるようになったから、進歩はしているんだ。

 戦闘経験を積めば、ペンギンナイトに進化出来るかもしれない。



 ──みんなが流氷に揺られて、第一階層を進んでいると、ペンギンと子供アザラシの群れに遭遇した。数は六匹。


「ナハハハハハハッ!! 我の初陣なのだ!! 一番槍は任せよ!!」


 高笑いしたリヒトくんは、自分が魔法使いであることを忘れているのか、剣を抜いて接近戦を仕掛けようとする。

 しかし、彼が近付く前に、スイミィちゃんが【冷水連弾】を使ったよ。

 魔導書+水魚セットで、威力マシマシだ。

 可愛い見た目の魔物たちは、瞬く間にミンチへと変わり果てる。


「……リッくん、もう終わった。……スイ、倒した」


「ぱ、ぱにゃい! スイミィっ、ぱにゃいね!! ペンギンとアザラシの群れが、一瞬でミンチ肉だにゃあ!!」


 ブイ、とスイミィちゃんは片手で勝利のサインを突き出し、ミケがそんな彼女を褒め称えた。

 リヒトくんは初陣に水を差されて、しゅんとしてしまう。


「わ、我の初陣が……こんなに呆気なく……」


「まぁまぁ、元気出して。第一階層は人間にさえ襲われなければ、こんなものだからね」


 私がイーシャの身体を使って励ますと、リヒトくんは訝しげに首を傾げた。


「うぬぅ? その言い草だと、人間に襲われることもあるのだが……」


「うん、あるよ。冒険者は荒くれ者が多いし、最初から強盗目的でダンジョンにくる馬鹿も、多少はいるからね」


 冒険者としてやっていくなら、対人戦と無縁でいるのは難しい。

 でも、人を殺す覚悟なんて、どうやって持たせればいいのか、私には分からない。


「我が人を殺められるか否か、そのときがくるまで分からぬのだ……」


「無理そうなら、スラ丸の【転移門】を使って逃げてね。中途半端な気持ちで、悪党と対峙するのが、一番危ないから」


 苦悩するリヒトくんに、私はしっかりと言い聞かせた。勿論、スイミィちゃんとミケにもね。

 逃げるのは悪いことでもなければ、恥じることでもないんだ。


 この後、私たちは各々の修行の成果を確かめたよ。

 イーシャの【対物結界】は魔法攻撃に弱いけど、初級魔法なら防げた。

 物理攻撃に対しては、ブロ丸が圧し掛かっても壊れないことを確認済み。

 これなら、第二階層も楽勝だと思う。


 スイミィちゃんは既に、魔法なら第三階層でも通用しそうなほど強い。

 ただし、剣術が通用するのは、第二階層までかな。

 幾ら才能があっても、魔法使いのままだと限界がある。


 リヒトくんの剣術は、第一階層なら通用するけど、第二階層だと厳しそう。

 でも、【雷撃】は物凄く強かった。ペンギンも子供アザラシも、一撃で即死させているんだ。

 魔法使いとしてなら、彼も第三階層で通用しそうだね。


 ミケの弓矢は、スイミィちゃんとリヒトくんの魔法に比べると、格段に威力が劣っていた。

 そこで、私は彼に毒薬を使わせることにしたよ。鏃に塗れば、火力不足を補える。


「最後に、ペンペンだけど……弱くない?」


 私が本音を漏らすと、みんなも口を揃えて『弱い』と評価した。

 今、ペンペンは剣と盾を使って、野生のペンギンと一対一の激闘を繰り広げている。

 剣を振る動作が遅すぎて、攻撃が当たる気配は皆無だ。


 野生のペンギンは回避と同時に、【冷水弾】を使っているけど、こっちは威力が足りていない。

 結局、野生のペンギンは魔力切れで、逃げ出したよ。一応、ペンペンの勝利だね。


「ペンペンは弱いから、降板しよっか」


「……姉さま、待って。……ペンペン、やればデキる子」


 私がペンペンをパーティーから追放しようとしたら、案の定と言うべきか、スイミィちゃんが庇った。


「ペンペンがこのままだと、第二階層はお預けだよ? 明らかに足手纏いだし、無駄死にしちゃうかも……」


「……スイ、急がない。……ペンペンと、ここで、がんばる」


 スイミィちゃんの決意は、思った以上に固い。

 リヒトくんもミケも、それで構わないと言うように、首を縦に振った。


「ペンペンだって、立派な我らの仲間なのだ! 先へ進むなら、みんな一緒に、なのだぞ!」


「リヒトはオスの癖に、いいこと言うにゃあ! おみゃーをどうやって追い出そうか、ずっと考えていたけど、やめてやるにゃ!」


「えぇっ!? な、なんでそんな酷いことを考えていたのだ!?」


「みゃーのハーレムパーティーに、他のオスは邪魔にゃんだよ!」


 ミケは他の男の子を煙たがっていたけど、リヒトくんのことは認めたらしい。

 とりあえず、満場一致でペンペンの残留が決まったね。

 ペンペンは感動したように、瞳を潤ませながら剣を握り締める。どうやら、これから奮起するみたい。

 こうして、私たちはしばらくの間、第一階層でペンペンの戦いを見守ることになった。

 

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