第148話 三度目の転職

 

 ──新しい家族として、ヤキトリが加わった。

 その後、私はベッドで横になって、自分のステホを確認してみる。

 光属性の魔力が増えたから、この感じだと光の魔法使いのレベルが、20に届いていると思うんだ。


「新スキル、気になるよね……。外れスキルじゃないといいなぁ……」



 アーシャ 魔物使い(28) 光の魔法使い(21)

 スキル 【他力本願】【感覚共有】【土壁】【再生の祈り】

     【魔力共有】【光球】【微風】【風纏脚】

     【従魔召喚】【耕起】【騎乗】【土塊兵】

     【水の炉心】【光輪】【治癒光】

 従魔 スラ丸×7 ティラノサウルス ローズ ブロ丸

    タクミ ゴマちゃん グレープ テツ丸 ユラちゃん

    ヤキトリ



 スラ丸二号が頑張っているので、魔物使いのレベルの上がり方が凄まじい。

 天才スライム、聖女の墓標、聖なる杯、【水の炉心】という、四つの要素が揃っているおかげだね。全てに感謝だよ。

 そして、光の魔法使いのレベルなんだけど、こっちは最近になって伸び悩み始めた。


「レベル30まで、サクっと上がるかと思ったのに……」


 【光球】が入っている小瓶、希望の光を買ってくれる冒険者が、一気に減ってしまったんだ。これが売れないと、レベル上げに繋がらない。

 売れ行きが悪くなったのは、街から冒険者が減ったことが原因だよ。


 帝国南部に、敵の大規模な援軍が向かっているから、王国も兵力を搔き集めて、侵攻に備えるみたい。敵地で暴れている王国軍が、数の暴力に負けてしまうかもしれないので、万が一の備えだね。


 そんな訳で、王国で活動している冒険者は、大半が王都へと向かった。

 人伝に聞いた話だけど、召集命令はレベルに関係なく、十三歳以上の全ての冒険者に届いたとか……。

 ルークスたちはまだ子供だから、街に残っている。


 ちなみに、冒険者ギルドは国境を跨いでいる組織ではない。

 帝国にもあるけど、同じ名前というだけで、別々の組織なんだ。

 

 ──閑話休題。次に確認するのは、大本命の新スキル【治癒光】。

 世間一般では、大当たりって言われている回復魔法だよ。普通の人が使うと、高品質の下級ポーション並みの効力を発揮する。

 私には【他力本願】があるので、効力は大幅に上がっているはず……。


「……だとしても、【再生の祈り】でよくない?」


 思わず、私の口から本音が零れた。

 今の私にとっては、大当たりスキルとは言い難いかも……。既に持っているスキルと、効果が被っているからね。

 【他力本願】の影響によって、【治癒光】に追加されている特殊効果は、病気を治すというもの。ただし、スキルやマジックアイテムによって発生した病気は、残念ながら治せない。


 【再生の祈り】で病気が治せるのか、試したことがないので、分からないけど……今のところ、病気になった憶えはないよ。


「うーん……。なんにしても、【再生の祈り】を隠しながらヒーラーになれるし、外れスキルではないのかな……」


 新スキルの確認が終わり、私は目を瞑って思案する。

 光の魔法使いのレベルを30まで上げる予定だったけど、明日にでも思い切って、転職するべきかもしれない。

 とは言え、水の魔法使いはまだ早い。脆い水の杖が足りていないんだ。


 一応、既に何本か使ったから、選択するだけなら可能だと思う。でも、一つ目のスキルを取得するための、レベル10の大台には、まだまだ届かない。

 きちんと杖を買い集めているので、順調にいけば春には水の魔法使いに転職して、レベル上げを始められる予定だよ。


 それまでに、どの職業のレベルを上げるべきか、非常に悩ましい。

 今の自分の生活を考慮して、レベルを上げやすい職業となると──商人、音楽家、観測者の三つが思い浮かぶ。


「魔法使い系じゃないと、私の魔力が激減するから、かなり不安だけど……」


 スキル【魔力共有】を使えば、従魔たちから魔力を貰えるので、生活にも商売にも支障はない。

 ただ、私が不安になるだけだよ。万が一、【魔力共有】が使えなくなったら……と思うとね。

 まぁ、この理由で尻込みしていたら、非戦闘職のレベル上げなんて、一生出来なくなってしまう。ここは勇気を出して、一歩踏み出そう。

 


 商人が取得出来るスキルは、私にとって微妙なものが多い。

 計算が速くなるスキルとか、口が上手くなるスキルとか、完璧な計量が出来るスキルとか……。勿論、ないよりある方がいいけど、優先しようとは思わないよ。


 音楽家の場合、楽器の演奏が上手くなるスキルを取得出来るので、有力候補になる。魔物使いの専用装備、魔笛の演奏が上手くなると、従魔たちが喜ぶんだ。


 観測者が取得出来るスキルは、一切不明。

 図書館で調べても、情報が全くなかった。レベル上げの方法は、私のライフワークである覗き見で大丈夫だと思う。

 最近は【光輪】と【感覚共有】を使って、スラ丸たちの視界から色々な出来事を覗き見しているので、レベルが上がるのは速そうだよ。


「うーーーん……。悩ましい……」


 無難な選択をするなら、音楽家。好奇心に従うなら、観測者。

 後者はレアな職業だろうから、どんなスキルを取得出来るのか、ワクワクする。

 さて、どうしようかなぁ……と悩んでいる最中、私はいつの間にか、眠ってしまった。



 ──翌日。私は午前中から、スラ丸とティラとミケを引き連れて、教会へと向かう。


「にゃはーっ!! ご主人とのデートっ、嬉しいにゃあ!!」


「デートじゃなくて、ただのお散歩だからね」


「デート! デート! 交尾! デート!」


 私の話を聞かないミケが、腕を絡ませてくる。

 デートと連呼している途中で、とんでもない単語が混ざった気がするけど……気のせい?

 たまにはお散歩に連れて行くのも、飼い主の義務。そう考えて、ミケを連れて来たんだけど、ちょっと後悔しているよ。

 彼が燥いでいるから、周囲の人たちに変な目で見られてしまう。


「そういえば、ミケも転職したかったりする? 音楽家とか、ミケなら絶対になれると思うよ?」


「ううん、今のままでいいのにゃ! みゃーはメスにモテるために、強いオスに成長したいのにゃあ!」


「そ、そっか……。動機はともかく、向上心があるのは良いことだね」


 ミケの望みは、狩人の職業レベルを上げること。

 だったら、冒険者になるべきだけど、黎明の牙に加入させるには、実力が足りていない。

 かと言って、他所のパーティーに入れるのも心配だし……良い案が思い浮かばないから、保留で。


 そんなことを考えている内に、大聖堂へと到着した。

 今回も態と金貨を落として、チャリンと音を響かせ、賄賂が通用しそうな神父を探してみる。すると、前回と同じ神父が、全速力で駆け寄ってきた。


「──神父様、私は内緒で転職したいのです。こちらをお納めください」


「いいでしょう。エッチな迷える子羊よ、お行きなさい」


 金貨十枚の転職費用+金貨三枚の賄賂。これをお布施という体で、私は神父に差し出した。

 私の特異性を隠すために、この賄賂は必要経費なんだ。


 こうして、監視の目を逃れた私は、神聖結晶の前に立つ。

 最初の職業選択の儀式と合わせて、これに触るのは四回目だよ。


 『聖女』『異世界人』『商人』『庭師』『音楽家』『観測者』『盗賊』

 『結界師』『魔法使い』『水の魔法使い』『土の魔法使い』『風の魔法使い』


 神聖結晶の中に浮かび上がったのは、十二の選択肢。

 予想通り、水の魔法使いに転職出来るようになっている。

 それと、盗賊の職業まで……。スレイプニル家の隠し財産を盗んだから、それが原因だろうね。


 私はそれらを無視して、光の魔法使いから観測者へと転職した。好奇心が抑えられなかったんだ。

 身体の内側にあった光属性の魔力が、一気に消えてしまう。その代わりに、無属性の魔力が増えて、視力が物凄く良くなった。

 どうやら、観測者も魔力を使う職業っぽい。これは嬉しい誤算だよ。


 ──この後、特に問題が起こることもなく、私たちは無事に帰宅した。

 早速だけど、今日も覗き見を始めよう。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る