第125話 一件落着

 

 ツヴァイス殿下たちが、残りのお宝を分配している間、私は自分のステホを確認してみた。


 アーシャ 魔物使い(22) 土の魔法使い(26)

 スキル 【他力本願】【感覚共有】【土壁】【再生の祈り】

     【魔力共有】【光球】【微風】【風纏脚】

     【従魔召喚】【耕起】【騎乗】【土塊兵】

     【水の炉心】

 従魔 スラ丸×4 ティラノサウルス ローズ ブロ丸

    タクミ ゴマちゃん グレープ テツ丸


 土の魔法使いの職業レベルが、大きく上がった。新スキルを取得出来る20の大台に乗って、そこから更に6も上がっているよ。

 ただ、修羅場を潜り抜けた割に、魔物使いのレベルはあんまり上がっていない。

 

 ……まぁ、魔物使いとして戦闘に貢献出来たかと聞かれると、かなり微妙なところだからね。

 ティラが進化して大活躍したけど、実は逃げ回っていただけだし……。


 新しく取得したスキルは二つ。

 一つ目は、土の魔法使いの職業スキル【土塊兵】で、動く土塊の人形を作る魔法だった。

 魔物のゴーレムっぽいけど、明確に違うらしい。この人形って、命も魂も自我もないんだ。


 私の魔法なので、当たり前のように【他力本願】のデメリットが作用して、誰かに危害を加えることが出来なくなっている。唯々諾々と指示に従って、単調な作業を行うだけの人形だよ。


「うーん……。悪くない、よね……?」


 バフ効果を付与出来るスキルが欲しかったけど……うん、【土塊兵】でも全然いいよ。

 この人形は、壊されるか三日間が経過するまで、ずっと動いてくれるんだ。

 これなら、ポーションを量産するのが、とっても楽になるはず……。

 幾らでも使い潰せる労働力だし、当たりスキルで間違いない。


 【他力本願】の影響で追加されている特殊効果は、身代わり。土塊なのに、私と全く同じ見た目に出来るらしい。

 物凄く精巧で、きちんと着色もされるみたい。ただし、触れば土だと分かってしまう。

 ……この特殊効果は、頗る微妙だね。使いどころが分からないよ。



 二つ目は、スキルオーブを使って取得した【水の炉心】で、純度百パーセントの水属性の魔力を無尽蔵に生み出してくれる。

 とは言え、魔力が出てくる蛇口の大きさが、私のレベルに比例しているんだ。現状だと、シャチが使っていたときほど、強力なスキルではなかったよ。


 それでも、下級、中級魔法を秒間百回とか、それくらいの頻度で使える魔力の生成量だと思う。

 そんなに連続で魔法を使うなんて、ちょっと現実的じゃないから、水属性の魔法に限って言えば、実質使い放題かな。


 追加されている特殊効果は、このスキルによって生み出せる魔力の結晶化。つまり、水の魔石を生産出来るってことだね。

 水の魔石を使った従魔の進化であれば、幾らでも出来るようになった。これは物凄く嬉しい。



 ──さて、私がスキルを確認している間に、お宝の分配が終わったみたい。

 バリィさんとライトン侯爵が、ポーションを一本ずつ分け合って、カマーマさんはシャチの戦術指南書を貰っている。


「俺は青色の上級ポーションなんて、別にいらないんだが……殿下、献上してやろうか?」


「バリィ……。悪いことは言いませんから、いざというときのために、持っておきなさい。世の中、何が起こるか分かりませんからね」


「そうか……。まあ、何が起こるか分からないって、今回の裏ボス攻略で身に染みたな……。その忠告、ポーションと一緒に有難く受け取っておこう」


「ええ、そうしてください。バリィに何かあれば、ワタシは悲しい」


 バリィさんがツヴァイス殿下に、折角のポーションを献上しようとしたけど、尤もなことを言われて突っ撥ねられた。

 今のやり取りを聞いて、改めて思うけど、殿下って良い人だよね。こんな人が王様になるなら、この国の未来は明るいよ。


「あちきなんて、ポーションよりいらないものを貰っちゃったわよん……。魔法とは、生涯無縁なのに……」


「売ったらどうですか? それって、大金に化けますよね?」


「生憎と、お金には全く困っていないのよねん」


 カマーマさんは伝説級の魔導書を片手に、草臥れた様子で嘆いている。

 そんな彼女に、私は適当なアドバイスを送ったけど……そっか、高給取りの金級冒険者だもんね。お金はいらないか。


「ブヒヒッ、まだ分配していないものが、残っておりますぞ! この空っぽの宝箱は、どうしますかな?」


 ライトン侯爵に問い掛けられて、私たちは宝箱を見遣った。

 紅色混じりの黄金。これは、普通の黄金とは違う金属に見える。

 試しにステホで撮影すると、『オリハルコン』という幻想金属だと判明したよ。


「オリハルコン……? もしかして、凄い金属ですか?」


「ああ、凄い金属だ。魔法に滅法強くて、硬度も相当なものだぞ」


 私の質問に、バリィさんが答えてくれた。

 オリハルコンとは、現存する金属の中で、最も魔法に強い金属らしい。

 超高温や低温による影響を受けず、硬度も鉄を遥かに凌ぐから、加工する場合は防御力を無視するスキルを使うのが、一般的だとか。


 希少性はスキルオーブよりも上で、この宝箱の推定価格は白金貨数十枚。

 私は一歩下がり、受け取れませんとアピールしておく。もう十分に素晴らしい報酬を貰ったから、これ以上は過分だよ。

 バリィさんとカマーマさん、それからライトン侯爵まで、私に習って一歩下がった。


「ふむ……。では、ワタシが受け取りますか……」


 オリハルコンの宝箱はツヴァイス殿下が受け取って、今度こそお宝の分配は終わり。ちなみに、マジックアイテムではない金銀財宝は、兵士たちへの褒美の一部になるみたい。


 ここで、タイミングを見計らっていたかのように、スイミィ様が現れた。

 彼女はライトン侯爵のお腹に突撃して、ギュッと抱き着く。


「……父さま、無事でよかった。……スイ、心配した」


 相も変わらず、スイミィ様はジト目で無表情だけど、目端には大粒の涙が浮かんでいるよ。

 【予知夢】で死の運命を見てしまったから、よっぽど心配していたんだろうね。


「ブヒヒッ、吾輩にとっては造作もない冒険であった!! それよりも、スイミィ。これを飲みなさい」


 ライトン侯爵は強がりを言ってから、スイミィ様に青色の上級ポーションを手渡した。

 彼女は小首を傾げて、一頻り観察した後、言われた通りにグイっと飲み干す。


「……美味。これ、なに?」


「惚れ薬だ。これでスイミィは、吾輩を好きになってしまうぞ」


「……父さま、好き。丸いから」


 くだらない嘘を吐いたライトン侯爵は、スイミィ様に再びギュッと抱き着かれて、デレッデレのだらしない表情を浮かべた。親子関係は良好らしい。

 私、バリィさん、ツヴァイス殿下の三人が、『一体何を見せられているんだろう?』と言わんばかりの眼差しを向けていると、侯爵は慌てて表情を取り繕う。


「ブ、ブヒヒ……。スイミィ、今のは冗談だ。それは魂を回復させる薬だが、体調に変化はないかね?」


「……んー、ん。特に、なにも」


 スイミィ様の返事を聞いて、ライトン侯爵はガクっと項垂れた。

 彼は気落ちしているみたいだけど、無駄骨かどうかは分からないよ。


 魂が消耗したことによる変化って、魔力を蓄えられる量が減るだけだから、それが元通りになったとしても、今のスイミィ様には分からないと思う。

 職業選択の儀式、まだやっていないからね。


「あらぁん……。あんなに頑張った侯爵様の手に、なんにも残らないなんて、ちょっと寂しいわねん……。よかったら、これを貰って欲しいわぁ」


「ブヒィ……? よ、よいのか?」


「ええ、いいわよん。是非貰って頂戴な」


 カマーマさんがライトン侯爵に、シャチの戦術指南書を譲り渡した。


 これで、今回の大冒険はおしまい。

 犠牲者が多かったから、気持ちよく締め括ることは出来ないけど……全滅するよりは、ずっとマシな結末に辿り着けた。

 いっぱい頑張ったので、しばらくは自堕落な生活をしよう。


「……姉さま、ありがと。……スイ、この恩、忘れない」


「いえいえ、私は自分のやりたいことをやっただけですから、あんまり気にしないでください」


 私はスイミィ様と、軽く抱擁を交わしてから、侯爵家のお屋敷を後にする。

 帰り際、バリィさんたちにもお礼を言われて、なんだか雲の上を歩いているみたいに、心がフワフワしたよ。この感覚が心地よくて、人助けが癖になりそう。


 ……死に掛けたのに、そう思える自分に驚いた。

 こういう性分って、早死にしそうだから、気を付けないとね。

 

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